國領 ----- 様々な立場で電子化に取り組まれている皆様にお集まりいただきましたが、最終的なゴールとして、よりよいものをより効率的にお届けするにはどんなパートナーシップをつくっていけばいいか、ほかのパートナーへの注文も含めて、小瀬さんから順にお話をうかがいたいと思います。
小瀬 ----- 現在、国土交通省でもCM方式の導入に向けて検討を進めております。発注者のニーズ、コスト構成の透明化、あるいは発注プロセスの透明化に対するニーズという観点から、新しい建設生産管理システムの導入を考えようということで、発注者の視点で取り組んでいるところです。たとえば、CMrはどういう主体が適当か、どういう能力が求められるのか、あるいは施工の瑕疵の責任はどうなるかなど、いろいろ検討しております。
特にCM方式は建設産業の構造改善に繋がるものと期待していますが、仮に分離発注となった場合、設計も今以上に完成度を上げていかなければなりません。あるいは、専門工事業者についても、今は非常に細分化されていますから、CMの中で元請けとして役割分担していくためにはより業種を束ねた形で、経営形態なり施工力を強化する必要があるだろうと思われます。
期待としては、CMの導入によって従来のウェットな関係から合理的な形に変革していくのではないか、CMrという新しいプレーヤーが導入されることによって、仕事の分担も変わっていくのではないかと思っています。日本の建設生産システムで足りない部分がいろいろあるわけですが、こういう部分にも対処しながらCM方式の導入を考えなければいけないのではないかと思います。
官僚は非常にネガティブだというご指摘がありましたが、国も地方公共団体もCM方式に対する関心は高いのです。ただ、公共工事となると、自治法上、会計法上、あるいは予算制度など、いろいろな仕組みがあって難しい面もございますが、公共工事に対しても前向きに取り組みたいと思っております。
鈴木 ----- 大江先生の言葉を借りれば、魑魅魍魎の世界からやってきた鈴木でございますけれども(笑)、実は、現場の人間は非常に単純明快な人間ばかりであります。今回のCMnetのお話が出てきたときに、清水建設の社内でもいろいろな意見が出ました。「ゼネコンが参加してどういうメリットがあるのか」という意見も投げかけられましたが、やはり、我々も参加することによって考えていかなければと思っております。
ご承知のとおり、建設大手5社とNTTデータ、日本オラクルでコンストラクション・イーシー・ドットコムというECサイトを立ち上げて、昨年の暮れからサービスを開始し、徐々に利用実績が上がりつつあるところです。こういうものは、実際に参加して使ってみて「自らメリットを見出そう」、「効果を把握してやろう」という気概がないと効果は上がらないと思います。
また、ITの世界はスピードだと言われますが、CMnetの場合、建設プロジェクトの発注ですから、仕事が始まってから終わるまで普通でも1年、長くて5年かかります。本当の意味で、このCMnetを使って全員がよかったとわかるのには時間がかかるので、長い目でゆっくり育てるということも必要かなと思います。
それともう一つ、こういうものは一般にeビジネスと言われていますが、eビジネスの後にプロセス・リエンジニアリングが不可欠です。こういうツールを使うには業務プロセスそのものも変えていく必要がある。従来は、図面が確定しないまま、あるいは品質やコストの面も不確定なまま着工し、その中で建設会社が中心になって調整してつくり込んでいくプロセスが多かったのですが、我々建設会社として、一番CMnetに期待しているのはその部分の改善です。
要するに、不確定要素を少なくしてきちんとしたプロセスで発注が行われ、それによって全員がその効果を享受する、それが最大の期待であり、狙いではないかと思います。
中分 ----- 私はCM方式がうまく機能した場合に、建築プロジェクトにおける情報の流通の仕方が変わっていくのではないかと思っております。そのことを4点ばかり申し上げたいと思います。
まず、1点目は、オーナーは、プロジェクトに対する要求条件をかなり早い段階で明確にしていくことが求められるようになります。要求条件が明確になることで、設計条件もクリアになっていく。実は今まで、設計者がオーナーの要求事項を設計条件書という形でまとめているケースがありましたが、この作業は、標準設計業務の中には業務報酬として本来含まれていません。CM業務の中に、「オーナーのプロジェクトに対する要求事項を明確化する」という業務が独立してくれば、不明快な部分が明快になるのではないかと思っております。
2点目は設計プロセスに物づくりの知見が反映されることです。設計者は「何がつくりたいか」を設計図で表現しますが、「どうつくるか」に対しては必ずしも十分な理解を持っているわけではない。しかし、CM側から「どうつくるか」という観点からのレビューが入りますので、早い段階で物づくりというものが見えた設計図ができてくるのではないかと思います。
3点目は、入札者にとって確実性の高い図面ができてくること。分離発注を前提とすれば、現在の実施設計図書では不十分なところがあります。私どもも分離発注を前提としたCM発注をする場合には、部分的には5分の1から50分の1の詳細図をつくって取り合いのところを明確にしています。CMnetを活用するには、そういった努力が一層必要になってくるでしょう。
4点目は、分離発注工事では、専門工事会社やオーナーの方々との直接的なコミュニケーションが発生してくる点です。施主が何を望んでいるかが専門工事会社の方にもよくわかるし、逆に、オーナーの要求に対して可否が即答できるので、現場での情報の流れ方も変わってくるでしょう。
まとめますと、CM方式がうまく機能するためには、それぞれの立場の人たちが、より明確な形で責任を果たしていかないとうまくいかないということと、その中で、今まで設計、施工といったような2つの領域にくくられていたいろいろな仕事がもっと専門分化していくのではないかと考えております。
ディキソン ----- 私は、今日のお話を聞きまして、これは建築の世界を超えた社会学的な実験になったのではないかと感じました。私たちも、何年も前からアカウンタビリティ、透明性、平等性の必要性を指摘してきましたが、日本では全く通じなかった。しかし、こういう実験を通して、それが全部、実現できているということで不思議な感じがします。
なぜ、日本の場合、コンピュータを使わないと平等な発注ができないのか、その理由を考えていたのですが、CMの役割は「中立的な第三者」であり、今回、皆さんが開発したコンピュータ・ソフトがその第三者になったのです。
つまり、この実験では日本特有なウェットな人間関係がない。誰もが相手を気にせず、自由に参加でき、情報も漏れず、足も引っ張られない。日本の建設業の皆さんが日頃気にしていたことが、一発で消えてしまったわけです。ある意味で不思議な話ですけれども、1つのコンピュータ・ソフトを通して、多くの国で当たり前のことが、日本でもできたのではないかと思います。そうした点でCMnetに非常に期待しています。
もう一つ、今まで世界中で、私どもも含めて幾つかの会社がこうした電子調達のソフトやシステムを開発しようとしているのですけれども、ほとんどうまくいっていません。それは多分、建設関係の方々、建設会社に絡みのある人たちが自分でやろうとしていたからです。アメリカのcephren.comもそうだし、日本のコンストラクション・イーシー・ドットコムもそうですが、中立な第三者の立場になっていないのです。仲間同士でつくっていることにもともと問題があるのです。その点、CMnetは、発注機関と建設業に全く関係ないソフトバンクさんが企画していることで随分違うのではないかと思います。森ビルさんは、ある意味で関係者ですが、eビジネスをやりたい、もう一つのビジネスをつくりたい、と考えているのではないかと思うので、やはりこれが正解かなと思うんです。
そういうドライさが実現できている点に非常に期待しています。もしかしたら、CMnetは世界的な例になるのではないでしょうか。
伊藤 ----- 先ほど鈴木さんが、まずやってみて、その中で何がメリットなのか真剣に考えていくことが重要だとおっしゃいましたが、全く同感です。
このサイトのシステムをつくるにあたって、私どもは発注者としての従来の立場を、このネットに置き換えることから始めました。そして、たとえば私どもが50億円とか100億円のプロジェクトをこのサイトで発注することに何の不安も持たないところまで煮詰めました。したがって、他のオーナーにも使っていただけるだろうと考えたのですけれども、やはり、いわば見ず知らずのサイトを使って億単位の仕事を発注するには、サイトに対する信用や実績が積み重なっていかないとなかなか難しいことがわかりました。しかし、信頼を勝ち得るには、まず、そのサイトを始めなければいけない。大きくても小さくても、だれかがそれを何らかの形でしょっちゅう使っていることによって、あるとき、思いがけない利用の仕方や利用者があらわれてきて、そのサイトの発展を促すのではないかと思います。
たとえば、私どもは、このサイトを民間向けの建設オープンマーケットとして企画しましたし、今もそのつもりですが、このサイトの仕組みは、実は自治体の受発注サイトに向いているという評価を耳にするようになりました。サイトづくりは費用も時間もかかりますので、自治体の電子調達にも私どものサイトを研究していただけたらと思っております。
また、先ほどCMrを使ったマンションの外壁改修工事の報告がございましたが、CMrが建築には素人の管理組合の代行者としてつくことで仕事の内容もコストもプロセスも、発注者が納得できるものになることがわかりました。
マンションの管理組合に限らず、コスト意識の高まりで、建築なり改修を依頼する方法を模索している企業が増えています。CMrをお使いいただくことで、従来とは違った受発注の道が開かれてくると思います。その際に、併せて電子調達ができるようにこのサイトを企画したわけです。このサイトを使っていただけるかどうかは、使った方の評価次第ですので、今後ますますこのサイトを充実させていきたいと考えております。
なお、ディキソンさんから、「海外でも受発注サイトが立ち上がりつつあるが、大概がゼネコン主体の受発注サイトだ」とのお話がありました。その通りなのですが、この頃、積算事務所とCMrと設計事務所の機能を3分の1ずつ足し合わせた機能がある電子調達サイトが海外で立ち上がっております。実は、このサイトから「提携の道を考えたい」というお話があります。お互いに海外調達の道が開ける可能性がありますので検討していきたいと思います。実現すれば、建設業界の海外調達にも寄与できるのではないかと期待しております。
國領 ----- グローバル戦略まで出てきましたが、まだ、少し時間がありますので、一、二点質問させていただきます。CMnetが社会構造を変える可能性と、コンピュータのおかげでそれができるようになったというご指摘がありましたが、逆にコンピュータ・ネットワークが使われないで終わりになる可能性もあるのではないか。考え方や意識の転換を促す戦略についてご意見をいただきたい。これはまさに構造改革の話になってくるわけなんですけれども、いかがでしょうか。
小瀬 ----- 日本にCM方式を導入するときに、一番の問題は発注者がリスクや責任を負う意識になれるかどうかでしょう。国土交通省では、CM方式のメリットも問題点も示して一つの選択肢として提示したい。公共事業でも、一回、施工してみてどういう問題があるのか探っていきたいと思っています。「歩みが遅い」とご批判を浴びそうですが、発注者のマインドに合ったものとして使えるかどうか、もう少し見てみたいところがあります。今後、これが普及していくには発注者の意識転換も必要です。そういうなかでCM方式のトライが始まっていくのかなと感じています。
中分 ----- ネットが日本の慣習を打ち壊したという文化的な力があったというお話ですが、最近思いますのは、それと同じような役割を果たしているのが、不動産の証券化であったり、あるいはREITではないでしょうか。これらは非常に多数の投資家に説明をして、パフォーマンスを上げていかなければいけないわけですから、単純に施工した会社に改修工事を出したり、設計をした設計事務所に自動的に改修設計を頼むというやり方ではうまくいかない。そういうビジネスの流れが具体的に出てきています。また、オーナー企業でも、代が代わって新しい動きが出ています。結局、そういう新しい流れが成功していけば、あるときに流れがガラッと変わるのではないかと思います。
國領 ----- そういった変化の中で、ゼネコンもビジネスモデルをダイナミックに変えていくのではないかと思いますが、鈴木さん、いかがですか。
鈴木 ----- 私は清水建設のeビジネスプロジェクトグループにおりますが、ITを使って建設事業の業務プロセスや建設生産の見直しを一元的に考えるのが狙いです。ITを使ってインターネット上でお客さんと設計者と業者と図面や文書のやりとりをするといった試験的な利用も開始しております。
ただ、通信インフラの問題とか、インターネットを利用できない業者さんがまだまだ多いことも事実で、こうしたサイトが建設業界全体を変えていくにはもう少し時間がかかるかなと思います。特に、現場で一番大事なのは図面ですが、今の通信インフラ環境では図面をネットに乗せるのは非常に重い。今回のシステムは、その部分を除いたところでは完璧だというお話がありましたけれども、図面を介していろいろな情報を共有し、建設の生産のあり方を変えていく、設計のあり方を変えていくにはもう少し時間が必要かもしれません。しかし、発注者、設計者の方々にもご協力いただいて、できるだけ早い時間にインターネット上で図面を共有できるようにしていきたいと考えております。
國領 ----- ディキソンさんと伊藤さんにお伺いしたいのですけれども、欠落している部分はありませんか。たとえば、きちんとした説明能力を持っている発注者がどのくらいいるか、設計事務所にCMに対応するインフラや人材がいるのか、また、日本人にはサービスに対して正当なお金を払うメンタリティが薄いといった点についてはどう思われますか。
伊藤 ----- 確かに、基本計画図プラス仕様書程度で、あとはゼネコンさんにお任せする、あるいは相手を決めてこのぐらいで頼むというような受発注がなされているという現実はあります。これはCMnetに非常に乗りにくいパターンです。その辺のことをどう考えるか、どうあってほしいか、どうなっていくかということは非常に大きな問題だと思っています。
また、専門工事業者さんの中にはパソコンを持っていないとか、息子さんしか扱えないというケースがあり、この受発注サイトを軌道に乗せていくには、まだまだギャップがあることは痛切に感じております。
國領 ----- ギャップを乗り越えるにはどんな方法があるとお考えですか。
伊藤 ----- たとえば、図面を描くかたわら自動的に積算がなされていくようなシステムが開発されつつあります。そうした技術的な進歩も相まって世の中の構造は変わっていくのかなと思います。ただ、発注のあり方はお施主さんによっていろいろな考え方がありますから、全てCMnetを利用するべきだということではなく、選択肢のひとつと捉えていただければいいと思います。
國領 ----- ディキソンさん、そもそも日本人はウェットなんですよ。どうすればいいでしょうか。
ディキソン ----- 皆さん、心配し過ぎていると思います。“きのうの考え方”ばかりしていますよ。携帯電話を考えてください。数年前に携帯電話は一部のビジネスだけで使っていたけれど、今はもう日本の人口の半分近くが携帯電話を持っているでしょ。結局、ニーズがあれば、使い道が見えるならば、皆、対応してきます。特に地方の小さい建設会社や専門業者は2代目、3代目の若い社長が多く、ダイナミズムがあります。一番時代に合っていないのが日本の大手ゼネコンかもしれない。今まではゼネコンに押さえられ、頑張っても仕方がないと思っていた人々にとって、CMnetは大きなチャンスとなるでしょう。
もちろん簡単なことではないです。ご指摘のように設計図書の問題などがあることは事実ですが、チャンスがあれば、それに応えるような企業が必ず出てくると思います。
國領 ----- 力強いですね。
鈴木 ----- CMnetのサイトには、「CMnetの狙いとするところは建設市場に競争原理と透明性を導入し」と書かれていますが、正直なところ、それを一番望んでいるのは我々建設会社であるということも、ぜひ、皆さんにご理解いただきたいと思います。
國領 ----- いろいろな論点が出てまいりました。それぞれのプレーヤーが自分の責任を自覚しながら自己変革をし、そのなかから全体として効果を生み出し、Win-Winの関係をつくることが求められています。おそらく、これから予期せぬ展開や問題も出てくるでしょうが、みんなで解決して前に進んでいければと思います。

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