| ■日産ブランドとデザイン戦略 ゴーン改革のキーマンが語る日産復活のシナリオ 中村 史郎 日産自動車株式会社 常務 デザイン本部長 米倉誠一郎 アーク都市塾塾長/一橋大学イノベーション研究センター教授 |
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1999年10月18日、日産自動車の再生計画「日産リバイバルプラン」
が発表された前日に、中村史郎氏は日産自動車に入社し、約600人のデザイン部門のトップに就いた。以来どのような考え方、どのようなやり方で、「ゴーン改革」を支えてきたのか。いまやカルロス・ゴーン氏に次ぐ日産の顔となった中村氏が、日産ブランドの再生とデザイン戦略について語る。後半は米倉氏の公私にわたる質問を皮切りに、塾生からも活発な質問が飛んだ。
【中村史郎氏】 ■強いブランドを確立する 1999年の「日産リバイバルプラン」で、永続的成長を目標とした経営戦略として、ゴーンは3つの目標を示した。ひとつは事業の発展と市場のプレゼンスの改善。2つ目は具体的な数値目標として、2002年度までに営業利益率4.5%の達成。3つ目として有利子負債の7,000億円削減だ。デザイン部門は、そのなかでも市場でのプレゼンスの改善に向けて、特にブランド・アイデンティティの確立に取り組んでいる。 我々の活動の目標を「世界をリードするデザインで強いブランドを確立する」としてPassion(情熱)とImagination(想像力)を持って実現しようとしている。 我々はブランドを「特徴ある商品やサービスをお客様に一貫して提供し続けるという、つくり手のお客様への約束であり、お客様との信頼関係である」と定義づけている。「なぜブランドか」といえば、高い収益率を確保するために欠かせない重要な要素のひとつだからだ。 ブランドを確立していくプロセスとして、まず、商品やサービスの特徴を明快にし、次にその商品やサービスがお客様の心を捉え、我々の車を選択してもらい、購入して満足してもらうこと。そして信頼関係を築いて日産ファンを増やし、その結果として収益が上がることを目指している。 ■ブランド確立のキーワード ブランドを構成している要素には、親近感、信頼、独自性が必要であり、そのひとつひとつを高めることが重要である。日産は日本市場での認知度においてはトヨタに次いで2位、信頼性に関しても平均値以上だが、独自性において劣っていた。その差はこの1年で大分改善されたが、まだまだやらなければならないことはたくさんある。 ■日産ブランドの訴求 まず我々は今までの日産の財産と将来のありたい姿を基に、日産のブランドアイデンティティを定義した。それは日産のDNAである意欲想像力と情熱、高い技術力、日本らしさはしっかりと受け継いだものになっている。 日産ブランドをお客様に効果的に伝えるために、我々デザインの活動も商品のデザインだけでなく、販売・マーケティングや宣伝・広報などのコミュニケーションなどの分野にまで活動領域を広げている。新しいブランドシンボルマークやエンブレムをはじめとするビジュアルアイデンティティの一新、銀座ギャラリーや本社ショールームのリニューアル、新型車発表会の会場選定から演出企画まで、お客様とブランドの接点全てにデザインが関わっている。 東京などの世界の主要モーターショーでも、ショーブースからユニフォームのデザインにまで関わっている。 これからも、モーターショーから店舗デザインに至るまで、一貫した活動をグローバルに展開していく。 ■日本のDNAを活かす 日産の車はデザインに魅力がないと言われてきたが、過去を振り返れば「フェアレディZ」や「510ブルーバード」を始め、コンセプト・カーの中にも、世界から評価されたデザインの車がたくさんあった。その中には他社のデザインに大きな影響を与えたものも少なくない。しかし、問題は、こうした優れたデザインが必ずしも生産ラインに乗らなかったことだ。 今、我々はこうした財産をベースに、日産デザインのアイデンティティの確立を目指している。 我々のデザインポリシーは4つのCで表される。まずCustomer focusを基本に、Clear, Creative, Consistentである。我々が創り出すデザインは明快で、高い創造性を持ち、日産のラインナップとしての一貫性とそれぞれの車の個性の一貫性を両立させたものにするということを表している。 デザインアイデンティティのあり方では、ドイツのメーカーのように統一性が強いところと、トヨタを始めとする日本メーカーのように多様性が強いところがあるが、かつての日産はどちらの点においても低かった。一般に統一性と多様性は相反するものと思われているが、我々はこの両者を高い次元でバランスさせることに挑戦している。 欧米文化の文脈でいうアイデンティティとは、強い統一性を前提としたものであるが、日本文化の文脈ではアイデンティティのあり方(捉え方)そのものが異なっていると考え、それを活かしたアプローチを選んだ。たとえば都市の景観を見比べてもこのことはわかる。非常に統一感のあるパリの街並みに比べて、東京や大阪の街並みは一見雑多とも言えるような表現が独特の魅力を生み出している。また、AからZまでの26文字のアルファベットに対して、漢字、ひらがな、カタカナそしてアルファベットをミックスして使うなど、日本人には、独自の文化と世界の文化を取り入れて自分のものにする優れた編集能力や多くの要素をうまくバランスさせる柔軟性がある。それを活かせば、独自の方法で統一性と多様性を両立できると考えている。 我々は、クルマ以外の種々な分野のデザインを研究材料に、日本的なアイデンティティのあり方や日本のDNA車のデザインに活かす活動をしている。 ■顧客の期待を超える たとえば、北米で今年の夏に発売する「350Z」の価格は26,000ドル台だが、この価格でこの動力性能を実現したものは今までにない。デザイン品質も同様に競合車の水準を超えるつくり込みをしている。 新型「マーチ」は親しみやすいデザインが特徴で、ボディカラーも12色を揃えた。コンパクトなボディからは想像できないほどの高い収納力、このクラスの新しい基準をつくる高品質感に加えて、インテリジェントキーやテレマティクスなど、価格のヒエラルキーにこだわらず、本当にその車のユーザーが必要とする機能を選択した結果である。 これからも様々な方法で、お客様の期待を超えた車を出していきたい。 ■ルノーと日産の関係 ルノーと日産の提携は両社にシナジー効果をもたらしている。まず、ルノーと日産は世界市場で巧く棲み分け、補完し合っている。 プラットホームなどの共通化を進めているが、我々はお互いの文化とデザインの独自性を尊重している。こうした提携は今までにないものだと思う。プラットホームの共通化は、お客様の期待を超える車を提供するためのもので、デザインの独自性は守られている。単なるコスト削減で共有化を進め、同じようなデザインの車をつくるのであったら、お客様の信頼は得られない。 ■デザインプロセスと組織の変革 デザイン決定プロセスの明確化も重要なポイントである。決定プロセスが悪ければ、素晴らしいデザインも日の目を見ない。最終のデザイン決定を社長が行うことで、明確な経営レベルの決定事項としている。先行デザインの強化も、もうひとつのポイントであり、デザイナー、プランナー、エンジニアが一体となって、デザインの革新と新しい価値の創出に取り組んでいる。 また、お客様が見て、触って、使って感じる「感性品質」の向上にも取り組んでいる。第一印象に関わる全てを対象に、それを専門に評価する部署をデザイン本部内に設けた。 ■デザイン活動の成果 我々は日産リバイバルプランの発表以来、新型車の開発と並行して、約1年半に15台という前例がないほどのハイペースでコンセプト・カーを開発し、発表してきた。そしてその多くが国内外のモーターショーで高い評価を得ている。新型車もまた、日本のグッドデザイン賞金賞や北米カー・オブ・ザ・イヤーに選ばれるなど、国内外で高い評価を得ている。 これらのデザインに対する高い評価が、日本では必ずしも販売に結びついていない部分はある。しかし、我々はこれらの活動が、日産の永続的な成長に繋がるブランドの確立をもたらすものと確信している。 【対談】 米倉 ----- ブランドデザインをお客様に伝えるまでの全工程がデザインなんだ、という話が印象的だった。ところで、ブランドアイデンティティを構築するプロセスで専門のブランドコンサルタントを使われたのか? 中村 ----- 米国の会社が我々の考えをまとめていくプロセスに関わった。 米倉 ----- いすゞ自動車から移るときの気持ちは? 中村 ----- いすゞには25年間勤めていたので愛着も強く、随分迷った。しかし、日本の自動車メーカーでデザインのヘッドに多くの裁量権を与えるところは少ない。その点、ゴーンはデザインのヘッドに幅広い裁量を任せ、バックアップを約束した。25年間やりたくてもできなかったことを実現するチャンスだと思って転職を決意した。 米倉 ----- ブランドやデザインを販売力に繋げる戦略は? 中村 ----- 一気には販売増に結びつかないが、少なくともデザインが悪い車は売れない。販売に繋げる努力はもちろん行っているが、当初から2001年度は無理矢理シェアを上げるような操作をしない方針だった。値引きをすれば販売台数を上げることはできるが、信頼を失うし、収益率も下がる。まず営業収益を上げ、企業としての経営基盤を確保し、新商品の開発とブランド力の強化を目指した。ブランド力の回復は10年をかけて取り組む。 塾生 ----- ゴーン改革の前後では何が一番変わったか。 中村 ----- 経営が透明で、目標が明確になったので、皆自分のやるべきことがわかり、自信を持って仕事に邁進できるようになったことだ。 塾生 ----- ブランド戦略では何を変えるかより、何を変えないかが重要ではないかと思うが、どうか。 中村 ----- そうだ。だから我々は日産の正(プラス)の財産を受け継いだ。日産の新しいシンボルマークも、原形のデザインに込められたコンセプトを受け継いで、それをモダンに進化させたものを採用している。これはデザインのいい悪いだけでは計れない部分だ。会社のイメージが高まれば、ロゴやマークも自然にいいデザインに見えてくる。 米倉 ----- 日産改革から我々が学ぶ点は多い。これはグローバルなロールモデルである。日産のマネジメントチームの強さ、経営の基本の実践、情報公開などを日本の企業は学ぶべきだ。かつて日本人は、世界の動き、他社の動きをベンチマークにして学び、経済大国になった。しかし、それを忘れて傲慢になり、他国あるいは他社に謙虚に学ばなくなった。 日本には資源はない。日本にあるのは人であり、知恵、知識である。こうした実例に謙虚に学び、役立てていただきたい。 レクチャーデータ
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