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■次世代インターネットの世界
リアル空間で役に立つインターネット世界をつくる 村井 純 慶應義塾大学環境情報学部教授 |
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インターネットはこの21世紀に技術的にも社会的にも大きな曲がり角を迎えている。インターネットに対する社会の要求がどう変化しているのか、その要求にどんな技術が応えていくのか、さらに、そこで創造されるインフラによって社会がどう変わっていくのか。日本のインターネット黎明期からそのデザインに携わり、「WIDEプロジェクト」でネットワークの研究、指導にあたる村井氏が21世紀のインターネット社会の創造を語った。 ■20世紀はワンピース技術 20世紀社会の様々な活動の中で行われてきた知識や情報の共有というコミュニケーションを支えてきたのはアナログコミュニケーション技術である。電話、放送、経済、教育、運輸、農林水産など、これらの技術の特徴は固有の技術がそれぞれのサービスを支えているという点だ。すなわち、電話は電話のための技術によって、放送は放送のための技術によってそれぞれ支えられている。 たとえば、放送サービスの場合、電波送信のための様々な技術が社会のインフラとして展開されているが、それらはすべてテレビのために使われる技術であり、この技術の本質は何年たっても全く変わっていない。ここでは使い方サービスモデル、使い方ビジネスモデル、あるいは社会の制度が、技術と一体化してつくられてきたということが言える。 電話の場合も同様である。そもそも電話のコミュニケーションとは3.4キロヘルツの周波数帯を使った音声であり、それが電話の正体である。20世紀には電話は社会に広く浸透したが、その技術は非常に高価でインフラに対する社会資本の投下や制度が必要不可欠であった。社会はそれらをつくりながら社会全体として電話の発展を育ててきた。技術とビジネス、制度と社会の発展が1対1の関係で育ってきたのである。 これらの例に示すように、情報を伝達する技術とそれを使ってつくられるサービスが一体化して1つの制度の中に入っているような状況は、上下が一体化した“ワンピース”に例えられる。20世紀のアナログコミュニケーション技術の特徴は“ワンピース技術”と呼べるだろう。 ■デジタルインフラの仮設 20世紀の後半、1990年代は私たちがインターネット、すなわちデジタルコミュニケーションが人の間を行き来するためのインフラの“仮設”を始めた時代である。 デジタルコミュニケーションの考え方は、数字がやりとりできる基盤をつくれば、文字でも画像でも音声でも、数字化して扱うことができるというものだ。同様にインターネットも、数字を自由にやりとりできる場所をつくっておけば、数字になるものは何でも交換・共有ができるという思想のもとにデザインされている。その空間を電話のインフラの上に作ろうとしたのが20世紀後半のこと。それは社会を相手にデジタルコミュニケーションの臨床実験をしたという程度のもので、その意味で“仮設”と呼ぶべきものであった。 すべてを数字化するということは、数字には意味がなく、宗教や文化などから生じるセマンティックスの問題が一切存在しなくなることにある。すなわち、単にデジタル情報が速く処理できるとか、効率よく伝達ができることだけではなく、セマンティックスな世界とシンタックスな世界を切り離すことができるという意味で非常に大きな課題を私たちの社会に投げかけている。 デジタルコミュニケーションインフラの仮設は、それが経済や教育にどんな影響を与えるのか、そもそも国境がないグローバルな空間で文字、画像、音楽などを自由にやりとりすることがどんな意味を持つのかなど、各分野、各軸、各視点でそれぞれの社会、人類、国、文化のあり方を考え直し、新しい社会をつくる必要があることを私たちに気づかせるのに十分なものだったと言えるだろう。 ■ネイティブなインフラ整備 自由にデジタル情報をやりとりできるというインターネットのモデルは人々に受け入れられたが、電話のインフラの上にインターネットをつくったために、インターネットの課金体系は電話のそれに準拠せざるを得ないという状況が昨年後半までの日本にはあった。 政府のIT戦略会議は日本がITを進めていくために必要なものとして、光ファイバー、電波、電線など、インターネットのためのネイティブなインフラ整備の必要性を掲げた。 そもそも、電話とインターネットは設置の思想やデザインが全く違う。世界中の人が1人に1つ各人の道をつくろうとする電話のインフラに対して、何となく使いたい人がみんなで相乗りをする道をつくるというのがインターネットのインフラつくりである。 その相乗り道路をインターネットのために自由につくることができるように、様々なルールの改定を行い、これまでのリソースである電線、電柱、管路を活用できるようにしたのが、昨年から今年にかけての日本の情報通信分野における法改正の一番大きな部分である。そのおかげでインターネットの通信料金を大幅に下げることができるようになったわけだ。 インターネットのためのインフラ整備が急速に進んでいる今、従来のインフラ上で行われてきた様々なサービスがインターネットのインフラ上でも行われるという逆転現象も起きている。たとえば、インターネットのインフラ上で電話サービスが行われたり、電波を通じて楽しんでいたテレビアニメをインターネットで見られるようなサービスも始まっている。 ノンセマンティックスな数字のやりとりでは、映像も音楽も文字もすべてが混在できる。すなわち、インターネットのインフラでは、従来の独立したエリアが融合したハイブリッドなエリアや、隙間エリアの形成が促進される。数字化により、水平な広がりが生まれ、オープンでグローバルな空間ができると、私たちの持っている知識や情報の交換・共有はより効率よく、より速くできるようになる。21世紀の使命は、その空間を創造し、それを利用してお金や知識のやりとりが自由にできる社会を構築することだ。 日本の目指すインターネットインフラデザインは、認証、セキュリティ、課金、著作権、IPv6の問題を経て、その上に電子商取引、電子政府、人材教育、放送と通信の融合が実現する社会基盤(e-japan基盤)を創造することである。 このe-japan基盤の上で構造改革、雇用促進、国民の力向上、経済の活性化、メディアの改革が行われていくことが重要である。とにかく数字の情報が自由に流通できる基盤をつくっておかなければ、これからのグローバル社会で日本が順調な発展を遂げていくのは難しい。現に'95年以降、日本のデジタル情報の発展が他の国に著しく立ち遅れてしまった理由は、あらゆる分野でインターネットやコンピュータを排除するルールがあったからだ。それらを見直し、700を超える法律の改定を行ったことは実に大きな意味を持つのである。 ■水平化がデザイン理念 インターネットのデザイン理念は水平化にある。インターネットには数字をやりとりする技術部分と、それを自由にコミュニケーションに使ったビジネスや社会をつくろうとする上半身部分があり、一方、その下でどんどん発展をしていく通信技術がある。 そして、この上半身と下半身が完全に分離している。それが最初に述べた従来の「ワンピース技術」と大きく異なる点である。たとえば、電話のインフラ上でインターネットを使ってきたときに比べ、光ファイバーやADSLによって通信速度が速くなった今では、その上に乗っているアプリケーションに違いがあるかと言えば、実はあまり変わっていないことがわかる。インターネットでは、上半身と下半身が完全に分離をしていることから生まれる自由度が発展のスピードの違いを吸収しているところに重要な意味がある。 技術動向について見ると、近年、有望なものが数多く開発されている。特に光技術には注目すべきものがいくつかあるが、その一つ「WDM(Wavelength Division Multiplexing/波長多重分割方式)」は日米間の海底光ファイバーにも使われている通信技術である。波長の違う複数の光ビームは互いに干渉しないという性格を利用し、複数の光信号を同時に利用することで、光ファイバー上の情報伝送量を飛躍的に増やすことができる。 このような技術の発展により、インフラコストは大幅に低価格化し、デジタル情報がジャブジャブ使えるようになると予想される。 IT戦略会議では最終的には各家庭に光ファイバーを導入することを目指し、そのターゲットを2005年に設定している。だが、日々変わっていく様々な条件の中で技術の発展速度を正確に予測するのは専門家でも難しい。その中で私たちがやるべきことは、その日が来たときに、どんな社会をつくり、どんなことをやり、ビジネスや生活にどのように生かせるかを黙々と考えていくことだと思う。 ■すべての人にアドレスを DNSは本来、インターネットというグローバルな空間の中で運用上、相手を識別するためのものである。IPアドレスという番号による識別を、より覚えやすい文字列で表現しようというのがDNSなのだ。本来の目的にも拘わらず、今やDNSは「.com」や「.co.jp」のような言葉のイメージがクローズアップされ、知的所有権問題が頻発し、ドメインを売り買いするオークションサイトまで登場するなど、ますますヒートアップする傾向にある。このことはインターネットのアーキテクチャーから考えると実に危険なことである。 そこで相手を識別するための何か別のエレガントな方法として登場するのが「peer to peer」の考え方だ。「peer to peer」とは不特定多数の個人間で直接情報のやりとりを行う方法で、インターネットを通じて個人間での音楽のやりとりを行う「Napster」もこれにあたる。 インターネットの基本原理は、グローバルな空間で自分の情報をみんなに発信することができ、誰もが自律的に自由に受信することができることである。そのためには膨大なアドレスが必要だが、現在のIPv4ではIPアドレスの絶対量が不足している。それを解決するのが次世代インターネットの通信規格として注目されるIPv6(Internet Protocol Version6)であり、研究から開発まで日本が世界の先を行く技術でもある。 リアルスペースのあらゆる人・モノがIPアドレスを持てるようになると、アドレスとアドレスが出合うランデブー空間の重要性はますます高まる。DNSによるランデブー空間の上に地理的なランデブー空間、チャットのランデブー空間、オークションのランデブー空間など、様々な空間がつくられれば、DNSを覚えてもらう必要はなくなる。 ■リアル空間で役立つ存在に すべてのモノが、インターネット上に、自律的に自分の情報を発信する自由度を持ったとき、その情報には非常に大きな価値が生まれる。 昨年、横浜市で行ったインターネット自動車プロジェクトでは約300台の車両を使い、実際に走行している車から走行速度やワイパーの動き、GPSによる位置情報などのデータをインターネットを通じて収集し、リアルタイムでインターネット上に渋滞情報や気象情報を提供した。ネットワーク化された情報は新しい価値を生み出す。1つの情報がマルチに使われることによって、その情報の価値は高まる。そして、これを可能にするのがインターネット環境なのである。 21世紀は、私たちが本当に生きているリアルな空間でインターネットが役立っている社会を実現したいと思う。 第12回必修講義
テーマ/「次世代インターネットの世界」 |
| 村井 純 講義目録 |
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■第26期 '01.8.3 次世代インターネットの世界 |
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■第23期 '99.12.2 エンターテイメント空間 |
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