AcademyHills Interview
分断されたものをネットが繋ぐ
異質なものが連帯して輝きを増す社会へ

國領 二郎 慶應義塾大学大学院 経営管理研究科教授


國領 二郎
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ひとりひとりが世界中のネットワークに繋がる情報端末を使いこなす時代を迎え、産 業界では次々に新しいビジネスモデルが誕生している。個々の生活レベルでも様々な 変化が起こっているが、ネットワーク社会の全体像はなかなかつかみ切れない。そこ で、経営情報学の先端を走り、オープンネットワーク型の社会を提唱されている國領 二郎先生に素朴な疑問をぶつけた。


----- オープンネットワーク型の社会になったとき、ひとりひとりの生活はどのよ うに変わるのでしょうか。

國領 ----- 今までの工業社会は圧倒的な物質的豊かさを得るために様々なものを分 断してきましたが、ネットワーク社会では分断されたものが繋がっていきます。
 たとえば、工業社会では働く場と生活の場が分離されました。働く場からは生活の 場が見えないし、生活の場からも働く場が見えない。食物を例にとっても、都会では 果物や魚はスーパーに並んでいるものであって、誰がどこでどのようにして生産して いるか、また、誰がどのように消費しているか互いに見えない。生産と消費は切り離 され、サプライチェーン(供給連鎖)は長く伸びてしまいました。
 これに対してネットワーク社会は働く場から生活が見える、生活の場から働く場が 見えるような社会。物理的に近づくかもしれないし、離れていてもネットを通じて互 いに見えるようになります。

----- 「繋ぐ」がキーワードなのですね。そういえば専門分化していた学問の世界 や技術の世界が繋がり始めているようです。私のまわりでも異なる分野の人々が積極 的に連帯し始めています。

國領 ----- 企業を取材していて、そうした現象に度々巡り合いました。すごい技術 が出てきたとき、「これはすごい」といち早く気づいて研究している人がどの企業に もひとりぐらいずついます。しかし、そういう人は組織の中では孤立している。彼ら がネットを通じて知恵を結集すれば、その技術はどんどん進化していくはずです。
 三次元CADが生まれたときも、最初は金喰い虫といわれてとても使えるようなもの ではなかった。しかし、ネットを介して横に連帯しながら育てていったものが、時代 のニーズと合致したときに大きく開花した。

----- 今までの企業は人も技術も囲い込んできましたが、これからは企業の枠を超 えて縦横にネットワークを広げるほうが強い?

國領 ----- 従来の囲い込み型の経営でいくか、情報を積極的に発信して他者を巻き 込んでいくオープンネットワーク経営でいくかは個々の企業の自由ですが、創造性の 最大化を目指すなら後者のほうが適している。内外の異質なものを生かし、取り込ん でいくことで新しい技術や発想が生まれやすくなるからです。
 個人レベルでみても、今までの企業はマイノリティにはとても生きにくい組織でし た。身近な例でいえば働くお母さんが挙げられます。彼女たちは会社でも家庭でも孤 立している。でも、ネットで連帯すればとても大きな集団になりうる数ですし、それ をバックに組織や社会を変えていけるかもしれません。
 良し悪しは別として、今まで分断されて孤立していた人々がネットを通じて連帯 し、力を持つ可能性があります。

----- ただ、情報技術が進むにつれ、ますます忙しくなっていくみたいです。24時 間ネットワークに繋がっている生活というのも正直いってキツイな、と(笑)。

國領 ----- 自由ってとても贅沢なものです。ITによって得られるものじゃなくて、 自分で勝ちとらなけりゃならない。そういう僕自身も、昼寝というささやかな望みさ えままならないのですがね(笑)。
 ただね、ひとつ言えることは、仕事には形式通り処理していく仕事とクリエイティ ブな仕事がある。どちらも尊いのですが、資源のない日本は人間の能力の付加価値で 勝負するしかないのです。ネットワークには知的な結合を誘発し、創造性を最大化さ せる力があります。
 ネットワーク社会はおっしゃるようにいい面ばかりじゃないけれど、それでも私た ちはIT革命にキャッチアップして、オープンネットワーク型の社会を築かなければな らないのです。今、これに取り組まないと日本の未来がなくなるくらい厳しい状況な のです。

----- 閉鎖的といわれている日本社会や日本企業が短期間に変わることができるで しょうか。

國領 ----- 囲い込み体質や閉鎖性が日本固有の文化に根ざすもののようにいわれて いるけれど、歴史的に見ればそんなに根の深いものではありませんよ。日本社会は本 質的にはネットワークやコミュニケーションに向いているはずです。
 ネットワークが成立するには、ことばやモジュールが共有されていなければならな いし、コミュニケーションも語彙、文法、文脈、規範が共有されていないと成立しな い。それも意図を持って蓄積されていかなければなりません。その点、日本はかなり 早くから標準化や共有化が行われてきた。畳という素晴らしいモジュールを考え出 し、広めました。囲碁や俳句、連歌もそう。モジュールの統一や文脈の共有が高度に 進んでいたから、広く文化が伝播されたのです。
 連歌は見知らぬ人同士でもコミュニケーションできるでしょう?まして囲碁なんて 位置情報だけですから、言語を共有していなくても対局できる。しかもその背景に は、定石とか過去の名対局といったデータの蓄積や共有がある。これなどデジタル文 化の極致。
 日本文化の本質はアナログじゃない、デジタルなんです。それが崩れてきたのは戦 後のことです。

----- かすかに希望が見えてきました(笑)。

國領 ----- 以前、ポケベルの研究をした学生がいるのですが、たった12文字に実に 大量の情報を圧縮することができる。その圧縮技術や表現形態の裏には、何百年とい う日本の文化の蓄積があります。

----- 「あうんの呼吸」といった濃密なコミュニケーションも日本社会の特徴ですね。

國領 ----- ただ、一方でこれが行き過ぎると社会全体の多様性を押し殺してしまう 危険がある。仲間同士でしか意思疎通ができないようでは他者と協働は進みませんか らね。あうんの呼吸や社内用語、独自の仕様や作業手順にどっぷり浸った組織は異質 なものを生かせず、新しいものを生み出せなくなってしまう。
 多様性と標準化のバランスがとても重要なのです。異質なものが生き生きと活動で きる共通基盤(プラットホーム)をつくり、結合するチャンスを与えれば、そこから 新しい発想や技術が生まれ、社会全体の多様性も維持できます。

----- そうした協働が始まっているようですが、ネット上で生み出された価値の知 的所有権や収益の分配はどうなるのでしょう。

國領 ----- それは今後の重要な課題です。価値の増殖プロセスをみると、オープン ネットワークで誰もが参加できる形のほうが適しているのですが、収益化が難しい。 収益はなんらかの希少性によって発生するものだからです。しかし、ネット上で公開 される情報には希少性はない。そこで、ひとつには物財やサービスの希少性に帰着さ せて情報の対価を得る収益モデルがあります。
 そのほかにも方法はありますが、価値の自己増殖現象と収益性を両立させるには、 まず、情報の編集価値と希少性に基づく経済価値を分けて考えること。
 片側で自由に情報の自己増殖現象を進めつつ、片側では成果物の収益化をサポート するビジネスをつくる。そして収益の中から報酬を払う仕組みをつくり、情報を発信 した人々が正当な対価を得られるようにしていくことです。

----- こうした方法も進化途中なのですね。

國領 ----- ええ。ただ、あまり悠長には構えていられません。デジタルコンテンツ の著作権問題もそうですが、ごく近い将来、もっと大きな問題として浮上してきそう なのがデジタルコンテンツ課税。OECDも国も課税の方向で検討しています。

----- 自由な知の集積や増殖を妨げそうです。

國領 ----- 課税の方法を間違えると、収拾のつかない混乱が起こる可能性があるの で要注意です。ただ、わからないといって決定しないままで先に進むのも、ビジネス にとっては不確実性が高まって耐えられない。ここは「今後5年間は非課税」という ような宣言(モラトリアム)を発するといいと思っています。取ろうと思っても技術 的に取るのは大変に困難ですから、実害は少なく、効果は大きいと思います。

----- ところで、先生の著書やお話には歴史がよく登場しますね。

國領 ----- 僕はいわゆる帰国子女でしてね、11歳から15歳までイギリスにいて、帰 国するとすぐに受験でしたから日本の歴史を全然知らずに育ちました。
 異質な文化の中でいろいろな考え方があることを知って鍛えられた半面、アイデン ティティ・クライシスにも陥りました。そんなことがあって、寄って立つところがあ ることの大切さを強く意識するようになりました。

----- それで歴史を?

國領 ----- ええ。歴史を知れば知るほど、現在の日本社会や日本型経営の特性とし て喧伝されていることが、必ずしも日本の本質ではないと感じましたね。
 たとえば、10年くらい前には「日本は同質性が高いから強い」といわれ、今は「同 質性ゆえの脆さが露呈した」なんていわれているけれど、日本社会は本当に同質社会 でしょうか。
 日本民族だってどこからきたかわからないし、江戸時代でさえ決して均質な社会で はない。幕藩体制も一種の連邦制です。すごく多様なものを分散的に維持してきた社 会であり、本質的には共通性と多様性を共存させていた社会だったと思います。
 だからね、僕は日本社会が本来持っていた多様性をネットによって引き出したい。 ネットが日本中を一色にしてしまうのではなくて、共通基盤の上でキラキラ光る異質 なものが繋がって輝きを増すようなネットワーク社会になるといいなあって思ってい るのです。

----- ネットワーク社会のイメージが湧いてきました。最後に、先生が今一番やり たいことをひとことで。

國領 ----- 昼寝です、寝て暮らすことが僕の夢!(笑)

----- そのお答えで、先生の24時間を垣間見たような気がいたします(笑)。本 当にお忙しいなかありがとうございました。


國領 二郎 講義目録
■第25期 アカデミーヒルズインタビュー
■第25期 '00.11.2
 eマーケティング時代のビジネスモデル
■第24期 '00.5.11
 e-ビジネスのチャンス到来