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■ロボットと暮らす新世紀
ロボットデザインは5つの工学で構成する総合芸術 松井 龍哉 科学技術振興事業団 ERATO 北野共生システムプロジェクト研究員 特定非営利活動法人IRoDA国際ロボットデザイン委員会 会長 |
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世界の最先端を行く日本のロボット技術が、近年、21世紀を担う産業として注目を集めている。ヒューマノイド・ロボット(人間型ロボット)「PINO」の開発・デザインを手掛けた松井龍哉氏は、日本のロボット研究にアーティストとして参加する異色の人である。これからのロボットと人の関係は、ロボットデザインの本質とは、ロボット研究のトップを走る日本の役割とは…。氏の提言は私たちが次世代を生きる大きなヒントになるだろう。
■デザインとは何か デザインとは見えないものに形を与えて意味をつくり出す行為である。デザイナーの最大の能力はクリエイティビティである。デザイナーは何のためにこの形があるのかをイマジネーションすることができる人たちで、様々な研究を形にすることにより現代や未来を具現化する。デザインは我々の知識や知性を洗練していく記号であり、我々の現在とこれからを映すシンボルなのである。 企業文化が叫ばれている現代では、マーケティングを促進するためにデザインがあると誤解されがちだ。特に日本においてはデザイナーという職種がまだ根付いておらず、そのポジションは低く、発言力も弱い。しかし、これから勝つのは、デザイナーの本当の資質であるクリエイティビティを優先して取り入れていく企業ではないだろうか。目先の利益だけで、マーケティングの結果から売れるものを何となく形にして売っていくのではなく、もっと長いスパンで、開発の根本からデザイナーを関与させることにより、50年先を見据えたモノの形が見えてくるはずだ。 僕の場合も、生物学の最先端プロジェクトの基礎研究にアーティストの立場で参加しているが、このような考え方はヨーロッパでは珍しくない。かつて、コンピュータ業界でもアーティストやデザイナーなど、別の世界のクリエイティビティを持っている人たちを研究所に迎え入れることによって、GUIやマウスのような新しい概念を生み出してきた。 最先端の分野に別のクリエイションを持った人たちが参加することにより、総合的に大きな効果が得られるのだ。 ■ロボットデザインとは 昨年秋、ホンダから「ASIMO」、ソニーから「SDR-3X」の2つのヒューマノイド・ロボットが発表された。2つの企業はある意味、日本を象徴する企業であり、この2つのロボットは日本のロボット研究のシンボリックな頂点になった。 ロボット研究に関しては、様々な技術がいろいろな研究所でパラレルに行われているが、そうした技術をインテグレートさせて1つのわかりやすいプロダクトにしていく必要がある。その時に必要なアプローチは、様々な要素・技術を使って何をするかということだ。 日本人は技術的な細かい部分を見る目は持っているが、そういう技術を使って何をするのかをイマジネーションすることが苦手である。 デザインとは、スタイリングの意味ではなく、技術を使って何をするかを考えるところから手掛けるものだ。ロボットを使ってどういう表現をするのか、その形の存在の意味を考えることがロボットのデザインであり、日本から発信する初めての芸術ジャンルになる。 これまでのデザインはオブジェクトのデザインだったが、ロボットのデザインはダイナミズムのデザインになる。知性を持ち、動いたりしながら環境の中に入り、さらに環境に応じて自分で形を変えていくような自立性を持つモノをどうデザインしていくかが、ダイナミズムのデザインである。 ロボットデザインは環境、情報、システム、道具、人間の5つの工学による総合芸術デザインであると言えよう。 ■ロボット「PINO」の意味 2000年のベネチア・ビエンナーレに出展したヒューマノイド・ロボット「PINO」はピノキオをモチーフにした、ヨチヨチ歩きの赤ん坊のようなロボットである。この「PINO」に込めたメッセージは、ロボットの持っているマシニズムとしての象徴ではなく、"マシンは不完全なもので21世紀に我々はそういうものと関わり合いを持ち、共に生きていかなければならないのではないか"ということだ。 産業革命から始まる20世紀に、我々は戦争という大きな負のイメージを機械に対して抱いてしまったが、この21世紀は機械と人間の関係を見直す時期にきている。その見直しのきっかけとして、"機械は完璧ではなく、人間が手をかけてあげないと動くこともできない存在だ"ということを「PINO」で伝えたかった。 ■ロボット研究から人を知る ロボットの研究は「人間とは何か」という根源的な欲求を満たすものである。 知性は環境変化から身を守るために人間がつけた知恵の一部が残ったもので、いわば、環境変化における副産物である。そのような人間の知性や知能のメカニズムを探るには、コンピュータのシミュレーションだけではもはや不可能である。そこで、人間環境の中に、人間の身体と同じようなものを持ったロボットを解き放つことによって、人工知能の新しいパラダイムが見えてくるのではないかと考えている。 ロボットを研究していると、人間がいかによくできたものなのかがわかってくる。僕たちは工学的にそれを解明しているが、それだけでは解けないことがたくさんある。今後は社会学者や心理学者など様々な人たちが複雑に絡み合って、ロボットをモチーフに人間とは何かを研究していかなくてはならない。 ■期待されるロボット活用 今後、家電の情報端末化が進むと、それらをコントロールするリモコンに代わるインターフェースとしてロボットが活用されるかもしれない。少子高齢化が進むにつれ、音声認識による入力が家庭内ではますます重要になるであろうこと、人の形をしているロボットはコミュニケーションをしやすい存在であるということから、ロボットは次世代の新しいインターフェースになると言われている。 また、ロボットは次世代産業の中核としても期待されている。特に産業用ロボットの市場は日本が世界の70%弱を占める分野でもあることから、その期待も大きい。 21世紀には家電や車は人工知能搭載型のマシンとして、人間の新しいパートナーになるだろう。産業用ロボットは単純作業や力仕事を行う少子高齢化社会の労働力として、またヒューマノイド・ロボットは危険地作業や物販配達の労働力としての役割が期待される。 ■ロボットで都市を見直す ロボットを今の都市に徘徊させることは不可能だ。なぜなら、ロボットは足裏センサーからの情報により平衡感覚をコントロールしており、センサーが埋め込まれていなければ上手に歩くことはできない。 また、視覚的にも街の様々なネオンサインやノイズはCCDカメラでは正しく認識することができない。ロボットにとってのこのような都市環境は、実は人間にとってもストレスフルである。こうした意味で都市を見直すことにもロボットは活用できる。 たとえば、ロボットを歩かせるために都市にセンサーを埋め込めば、それは人間にとっても重要な情報インフラになる。車イスに歩行機能をつければ、センサーを頼りに階段の昇降ができるようになるし、信号にセンサーをつければ、信号情報が車に送られ、自動運転ができるようになるかもしれない。 ロボットに優しい都市は人間にとっても優しい都市になりえる。 ■ロボットデザインを産業に ロボットの社会性、ロボットそのものの潜在意義を考えていく団体として国際ロボットデザイン委員会(以下IRoDA)を発足した。 産業革命時に、規格化された大量生産のモノの美や価値観を考えるバウハウスと呼ばれるデザイン運動があったように、過去、産業の大きな変革期には産業の背景や意味、美学を考える団体が必ずあった。 これからの21世紀はロボットが情報をキーワードとする1つの産業になり、情報から得られたものをどうやって形にするのかという新しい産業革命が起こる。その時代を産業情報革命による"ロボットの時代"と呼び、その時代の1つの哲学と美学を考えるのがIRoDAのあり方だと考えている。 ■ロボットの美学、哲学 ロボットデザインは日本技術のアイデンティティをシンボライズするものだ。欧米諸国からは、技術立国、経済立国としての評価だけでなく、文化立国としての価値もなければ成熟した大人の国とは見られない。だから、技術だけでなく、ロボットの美学、哲学をつくるのもロボット先進国日本の役目だと思っている。 IRoDAの活動はディスカッションのほか、今後は国際シンポジウムやロボットデザインのエキジビジョンも計画している。また、これまでの学会は情報収集、公開に終わってしまっていたが、IRoDAではデザインラボをつくり、自らがつくり出したモノを世界に発信していきたいと考えている。 さらに、出てきた議論を構築して学問体系にすることも目標にしている。具体的には日本の工学部にロボットデザイン学科をつくり、産業の若い芽を育成していきたいと考えている。ネットワークの持つアクティビティがすでにDNAに備わり、社会と個人の位置関係が半ば逆転したような価値を持っているネットジェネレーションたちが社会進出してくる次世代に、彼らをどう育成するかという点でもロボットは彼ら向きのテーマである。彼らはロボットを使うことにより、人間とは何かを学び、ロボットづくりによって忍耐力を養うこともできるだろう。 また、デジタライズされた社会の中でつくる新しいモノとの関係を学ぶこともできる。そして、そういった環境の中で新しいクリエイティブな人材が育ち、ロボット産業のアップルやフェラーリが出てくることを期待している。 第11回必修講義 テーマ/ロボットと暮らす新世紀 講師/松井 龍哉 (科学技術振興事業団 ERATO 北野共生システムプロジェクト研究員/ 特定非営利活動法人IRoDA国際ロボットデザイン委員会 会長) 日時/2001年3月1日 会場/アカデミーヒルズ(アーク森ビル36階) |
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