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■問題解決という「問題」
新しい学問領域、「問題学」入門 妹尾 堅一郎 慶應義塾大学助教授/同大学知的資産センター副所長/株式会社慶應学術事業会 代表取締役副社長 |
妹尾 堅一郎 講義一覧▼ |
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企業人として長年にわたり実務・プロジェクト経験を持つ妹尾氏。慶應義塾大学助教授、知的資産センターの副所長でありながら、慶應の戦略的子会社と言われる慶應学術事業会の代表取締役として21世紀に向けた慶應義塾の新規事業をプロデュースしている。新しい学問、「問題解決」行為自体を検討する「問題学」を立ち上げようとしている世界で唯一の「問題学」研究者。今回は入門編として、実務家の皆さんに問題解決のどこが問題なのか、問題解決が陥る罠について語っていただいた。
■ホテルのエレベーター問題 まず、これから話すホテルのエレベーターにまつわる問題を、どうすればよいか考えて欲しい。 大手のホテルチェーンのひとつで、それなりに儲かっているビジネスホテルがある。かなり繁華な駅前に近い。12階建てで細長く、200室ある。12階はレストラン、地下1階はカフェ、フロントは1階だとしよう。そこに新しい支配人が赴任してきたが、早々に客からクレームが次々と来るので、支配人はまいってしまった。実は、このホテルにはエレベーターが1基しかなく、旧式でスピードも遅いために人の流れが悪く、待たされるというのである。そこで、支配人はコンサルタントのA氏のところへ相談に出かけた。 さて、皆さんがコンサルタントだったらどうするだろう?関連情報を補足すると、このホテルは有名なホテルチェーンの1つ。利用客は30〜40代のビジネスマンが中心で、利用率は高く、財政状況は好調。他の昇降施設は3つの階段があるのみである。 ●今回、皆さんからは次のようなアイデアが提案された。 ・12階のレストランを下に持ってくる ・下から順に客を埋めていく ・時間によって、エレベーターの待機階を変える ・階段を使うことで優遇する(ポイント制等) ・チェックアウトの時間を柔軟にする ・階段を壊してエレベーターをつくる ・エレベーターを有料にする。利用の度にカードに料金が加算される ・エレベーター自体をなくす(なければあきらめるだろう!) ・チェックインとチェックアウトをIT化(フロントに行かなくて済む) ●他の講義では次のような提案もあった。 ・エレベーターを増設する ・階段をエスカレーターにする ・アスレチックホテルにする ・エレベーターを外付けにする。隣のビルを利用して渡す ・おわびの張り紙を付けておく ・「ごめんなさいレディ」を置く ・「支配人は留守だ」と言う ■問題を分割するか、問題を変えるか さて、第2幕である。A氏は4つのチームを編成し、半年間にわたる調査を行うことで問題解決に当たることにした。4つのチームはそれぞれ次のような問題設定をした。 1.エレベーターの込み具合の実態調査と分析 2.クレームの解析、他社の動向調査 3.投資の可能性と実効性の調査 4.ホテル改造の可能性調査 これらは、それぞれ、学問の分野で取得できる手法等に対応していることがわかるだろう。上から順に、オペレーションリサーチ、マーケティングリサーチ、財務分析、建築設計・施工、である。このことから、「問題は分析してから、それぞれを解決し、それらをまとめて結論を出すと良い」ということに気がつく人がいるだろう。これはアメリカンスタイルのコンサルティング手法であり、米国のMBAがまず教わる手法である。A氏もそのようにして結論を導いたのであった。 これを聞くと、なるほどそうやるのか、と思う方々も多いことだろう。しかし、これで話が終わるわけではない。次のどんでん返し、第3幕があるのである。このようにして出したA氏の結論は、予算2億円でエレベーター1基を増設すると良いというものであった。 第3幕は、こうだ。A氏の出した提言を支配人は好まなかったのである。この手の話はよくあるだろう。 支配人は、コンサルタントのB氏に再度依頼をすることにした。B氏は翌日現場に出かけ、半日ずっとエレベーターホールを眺めていた。そして出した結論は、エレベーターの前に鏡を置くというものであった。設置の予算は200万円。B氏は、待っている人に時間を感じさせないことが大事であることに気づき、鏡を設置することで、「ビジネスマンたちは身なりを整えることで待たされていると感じることが少なくなる」と考えたのだ。 この話は実話に基づいている有名な話である。この話のお陰で、現在多くのホテルに鏡が備え付けられていたり、TVをロビーに備えたりして、待ち時間を感じさせないようにしてある。たとえば、山の手線の車両の中のCM画面も、この効果をねらった1つとも言えるだろう。 さて、ここまで来ると、「そうか、鏡を置くと良いのだ。いかに斬新なアイデアを出すかがポイントだな」と思われる方も多いだろう。しかし、ここで終わっては、問題学にはならない。さらに、第4幕が待っているのである。 ■「問題」と視野・視座・視点 よく考えてみよう。A氏とB氏は解決策が異なるのだろうか。いや、実は、解決策ではなく、問題の設定そのものが違っていたのである。つまり、問題にどうアプローチするかがまったく違うのである。A氏は、エレベーターが顧客数に対応していないことが問題と捉えた。B氏は、顧客が待たされると感じていることが問題だと考えた。つまり見ていた問題が違う。ちなみに、A氏はMBA取得者、B氏は社会心理学を専攻していたと言われている。 問題というものは、視野・視座・視点によって違ってくるものだ。同じ状況の中でも何を問題と捉えるかで、問題設定と、したがって問題解決そのものが異なってくるわけだ。 桃太郎の鬼退治を「退治」と捉えるか、鬼を「いじめ」ていると捉えるか、村民の「解放」と捉えるか、人間からの「復讐」と捉えるのか、それまでの鬼の悪さの「天罰」と捉えるのか・・・どれも、立場が異なれば違って見えるのである。 さて、ここで、もう一回念を押すために確認したい。A氏の解決策は問題を解決しなかったのだろうか。そうではない。A氏の解決策も問題を解決し、状況を変えたのである。しかし、B氏の解決策も状況を変えたのである。どちらも状況を「改善」したはずである。つまり、問題の設定によって、解決された後の状況自体が大きく違ってくるということなのである。これは何を意味するだろうか。我々は、まず問題解決策を考える前に、問題そのものの設定を吟味する必要がある、ということだ。 問題解決という行為の問題の第1は、我々が、問題を吟味せずに、解決策に走ってしまうことなのである。 ■「よりふさわしい問題」を探索する ある状況は、見る立場によって、異なって見える。これは悪いことではない。違う視野・視座・視点から見ると、状況が立体的に見えるのだ。逆を言うと、社長から担当者まで、同じ観点からモノを見ている会社は危ない。営業部長、技術部長、経理部長が異なった観点から状況を吟味するから、より深く考察ができるのである。それを行う中で、よりふさわしい問題設定をしていくこと、問題意識を持って、自分で状況判断をして「探索」すること。それが豊かな状況改革に繋がるのである。 ■問題解決とは何か? さて、次に、問題は果たして「解決」するものなのだろうか。その点を問いかけたい。そもそも問題解決とは何だろう。問題解決の古典的定義は「あるべき姿(基準)と現実の乖離、逸脱を埋めていくこと」をいう。つまり、現実をあるべき姿に持っていくことを、最大化・極大化、問題解決(solution)という。 しかし、問題は「解決する」だけではない。他にもいくつかのやり方がある。たとえば、問題をそのままにして自然と解決されるのを願うことがある。つまり、成りゆきに任せるわけだ。これを問題の先送り、あるいは問題の放置(absolution)という。 次に、現実を最大化はするわけではないが、満足状態に持っていくことがある。これを状況改善・満足化、「改善・改良」(resolution)という。 また、逆にあるべき姿を現実に近づける「容認」や、あるべき姿と現実の歩み寄りをする「妥協」ということがある。 さらに、問題そのものが発生している状況自体を再構成し直し(システムをつくり直し)、問題そのものを解消(dissolution)してしまうやり方もある。これは、理想化再設計と呼ばれているものだ。 こういった問題への対応の仕方をマネジャーがどの時点でどのように判断して選択するのか。これがマネジメントのポイントであろう。 こうした問題への対応には、個人の癖や傾向があるかもしれない。自分の成功体験にしばられてしまうということもあるだろう。我々は、問題解決という行為自体を吟味していかなければならないのである。 ■問題解決シンドローム 「問題解決シンドローム」と私が呼ぶものがある。日本の大問題だ。この症候群は、問題は与えられるもの、問題には唯一の正解があるもの、唯一の正解は誰かが知っていて採点してくれる、と思い込んでいる。これが問題解決症候群である。おわかりのとおり、これは受験勉強の発想法である。しかし、現実の世の中は、受験勉強のように、「唯一の正解があると予めわかっている問題」だけが出されるわけではない。そんなものは、例外中の例外である。我々は、この症候群から早く抜け出さねばならない。 一方、「3トリ症候群」と呼んでいるものがある。職場で、「トリあえず、トリ急ぎ、トリつくろう」ということだ。今までは、こういうことに長けている人が評価されてきた。確かに、実務家としては、このような「その場しのぎ」ができなければならない。しかし、これからは、「とりあえず繕って、本質を先送りにする」だけではならない。「状況の本質を考え抜く」や「まずやってみながら学習していく」といった態度も養成しなければならないはずである。 さらに、問題解決にまつわる問題として、自分の得意な解決策から逆に問題を設定するというスタイルが挙げられる。状況にふさわしい問題設定ではなく、解決策から問題を規定するという「本末転倒」のやり方である。これをbook shelf solutionという。だからこそ、ソリューションビジネスには細心の注意が必要なのである。 ■「問題解決」だけか? そもそも人間の行為は問題解決だけだろうか。経営とは、問題解決のことだけを言うのだろうか?もっと広く考えれば、状況対応には3つのフェイズがある。困難を解消する、課題を達成(成就)する、疑問を納得(了解)する。それぞれの捉え方によって対応は異なるものなのである。 いずれにせよ、問題解決という行為自体を扱う「問題学」を新たな実践的学問領域として開拓していきたい。「日本問題学学会」をいつの日か皆さんと立ち上げていきたいので、ぜひご支援をお願いしたい。 第9回必修講義
テーマ/「問題学入門〜“問題解決”が陥る7つのワナ」 |
| 妹尾 堅一郎 講義目録 |
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■第25期 '01.2.8 ”問題学入門〜“問題解決”が陥る7つのワナ |
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■第20期 '98.4.24 ”意味付け”から考えるマネジメント革命 |
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■第19期 '97.11.14 問題解決とマネジメント |
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■第17期 '96.11.8 混沌の状況を切り開く |
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