■何のためのIT革命か
シンポジウム/都市インフラとIT革命
村井 純 講義一覧▼
 慶應義塾大学 環境情報学部教授
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 株式会社プランテック総合計画事務所 代表取締役/建築家
森  稔 講義一覧▼
 森ビル株式会社 代表取締役社長

 今、我々はIT革命に直面している。ITは都市にどのような変化をもたらすのだろうか。産業そして生活はどのように変わるのだろうか。IT時代に求められる都市のかたちについて、それぞれの分野の先端をいく村井氏、大江氏、森氏による熱いコラボレーションが繰り広げられた。壮大な臨床実験に入ったIT革命に乗り遅れることなく、しかも過大評価することなく、人間の本質的な部分を満たす都市づくりについて意見が交わされた。

大江 ----- まず、IT革命によって都市や建築、環境がどのように変わっていくのかについてそれぞれの立場からご意見をいただきたい。

村井 ----- 皆さんは「都市とIT革命」についてどんなイメージを描いているのだろうか。多くの人は光ファイバーが都市に張り巡らされた情報社会を想像しているのではないだろうか。IT戦略会議でも光ファイバーなどのインフラについて議論したが、その間にも様々な規制や環境が凄まじい勢いで変わった。米国の友人から「日本は十二単からすっぽんぽんになっちゃったね」と言われたほどだ(笑)。
 しかし、もっとも重要なことは「ITによって何をするのか」である。デジタルコミュニケーションによって知の共有や交換が自由に安くできるようになったとき、最後に問われるのは人間ひとりひとりの創造性ややる気。それを引き出すインフラをつくり出すことこそIT革命の最大の目標だ。
 また、技術的には無線の問題がある。周波数をどうするか、無線によるデジタルコミュニケーションの環境整備は今後の大きな課題だと思う。

森 ----- 十二単の紫式部の時代から現代に至るまで、人間が本能的に欲していることはそうは変わらない。ITによって一部は補完されるだろうが、すべてをカバーできるわけではない。
 「EからFの時代へ」と言った人がいる。Eはエレクトロニクス、Fはフィーリングとかフェイスツーフェイスを指すのだけれど、いかに技術が進化しても感性とか感覚といったFの部分が満たされなければ、人間はハッピーになれないのではないか。だから都市とIT革命というテーマを考えるとき、ITがどの部分を補完し、都市生活の何を満たすことができるのかを見極め、ITで補完されない部分をどのように満たしていくかを考える必要がある。
 ITによって都市が変わる要素としては、たとえばセキュリティとホスピタリティの両立がある。セキュリティは本質的に他者をシャットアウトする性格を持ち、ホスピタリティは誰でも受け入れる性格のもの。相互に相入れない要素だったが、都市や建物の中にセンサーやモニターをさりげなく配置すれば、多くの人を受け入れながら、一方で泥棒やテロリストなどの危険分子を識別して未然に侵入を防いだり、記録による抑止力を働かせることができる。快適でありながら安全で安心な都市環境ができるのではないかと期待している。
 ただ、ITによって人間の五感、特に味覚や嗅覚、触覚をカバーすることは不可能だ。しかし、ITがこうした感覚や感性を満足させる時間やクリエイティブな時間を生み出すだろう。だから都市の中に心を癒し、楽しみ、喜び、感動するといった時間と場をつくることが大切だ。また、そうした文化産業やエンターテイメント産業を育てていくべきだ。こうした意味から、IT革命と都市革命は真に豊かな社会をつくるうえでの車の両輪ではないか。

大江 ----- 私はIT革命を最終的にはインテリジェンス(知)の革命にもっていかなければならないと思っている。50年、100年先を考えるとき、現在ある民主主義や資本主義も問い直されるだろう。
 IT革命は速度の革命だ。現在の不況の一因は、日本が速度の支配に負けたことにある。歴史をみても、明治維新は蒸気船、第2次世界大戦は飛行機という「速度」によって日本は支配された。フロンティアは速度によって発見され、速度が支配する。速度は政治革命さえも引き起こした。活版印刷によって王制が共和制にとって代わられ、テレビというメディアによって東西冷戦に終止符を打たれた。
 現代の代議制民主主義もIT革命によって変わるだろう。会社の仕組みも変わる。たとえば個人タクシーというビジネスモデルには面白い示唆がある。彼らは個人で仕事をしながら情報と信用を得るために組合に入る。一般企業に置き換えれば、会社というインフラを利用するために自分の稼いだ金の中から上納金を支払うということだ。
 本来、IT革命は根本的な組織改革を誘発する。電子政府も現状の組織のままではだめ。国や行政の窓口の一本化は必然的に組織改革、制度改革、構造改革を伴うべきだし、そうでなければ本物ではない。
 また、先ほど森社長が言われた「EからFへ」も重要な指摘である。エレクトラックス社がインターネット冷蔵庫というコンセプトを考えた。これは冷蔵庫が内容物をセンサーして発注するというコンセプトだ。日用品の補充といった作業は機械にまかせ、人間はその時間を本当に楽しいショッピングに使えばいいという発想だ。流通で残るのは「楽しい」と感じるものだけになるのではないか。このようにIT革命はすべてを本質に回帰させる。インターネットによって物々交換や直接民主主義だって可能になるからだ。
 IT革命は根本的な改革であり、都市も大きく変わるだろう。逆にいえば構造改革や制度改革、組織改革を伴わないIT革命は本物ではない。

村井 ----- 先日、アーク森ビルから慶應義塾大学まで無線を飛ばし、国内外の大学も巻き込んで遠隔授業を行った。すでに技術的には可能なのに現在の法律では授業と認められない。規制や法制度が足かせになっていることがたくさんある。ただ「革命」は世の中をひっくり返すことだから、何のために行うのかゴールを明確にして慎重に進めていく必要がある。しかし、ゴールを定めたら、その達成に不必要あるいは無駄な規制や制度は廃止すべきだ。
 森社長もおっしゃったように、IT革命の目標は「情報技術を使って心を満たすことをしよう」である。うまいものを食べるために情報を利用するといったように。
 ただ、残念ながらIT革命のゴールを設定する立場にある人々が、あまりにもインターネットを使っていない。これが一番の問題かもしれない。

大江 ----- ITはいわば車だ。速度が変わると見える世界が変わるし、構想力も変わる。それは実際に経験してみないとわからない。車でいえば乗ってみなければわからない。ITでいえば使ってみなければわからない。村井先生の危惧にはまったく同感だ。

森 ----- 技術が変わっても制度が変わらないと使えない。関連している人を全部集めて一斉に変えないといけない。今、改革が1分遅れれば日本は大きく後れを取ってしまう。
 ただ、話は戻るのだが、画面を通じた授業と生の授業とではやはりインパクトが違う。今日、ここにお集まりの皆さんも、先生方の話を生で聴けるということで集まっていらしたのではないだろうか。ひとつの場に集まる魅力はやはり大きいと思う。

大江 ----- 確かにそれはある。授業で「デジタル時代の中学校はどうなるのか」というテーマで議論したことがある。国語や数学はインターネットでも学べるし、音楽や体育は都市施設を使えばいい。「それでは学校はいらないか」という話になった。そうしたら「休み時間だけは学校に集まりたい」という意見が出た(笑)。学校は知識を与えることより、子供たちが互いに切磋琢磨して社会のルールを身につける「場」として重要だ。

村井 ----- そうそう。本質を見極めなければいけない。本質があってそれに至るプロセスがある。その順番が大切だ。デジタルコミュニケーションができれば、不要になる制度があるわけで、そうしたものを廃止して自由度を上げていけばよい。よくサイバースペースとリアルスペースを別物のように話す人がいるが、それは誤解だ。現実社会にデジタルコミュニケーション環境が入り込んでいく。

森 ----- 都市でいうならば、そうした場や環境を提供することに価値が出てくるのではないだろうか。
村井 ----- ワイヤレスインターネットビジネスが始まっているが、どこでもインターネットができる環境が人を集める大きな要素になっていくだろう。こうした環境を喫茶店やビルが提供するようになっている。すでにシンガポールのチャンギエアポートはどこでも無料でインターネットにアクセスできる環境になっている。
 座ったり止まって利用する「ノーマッド」と動き回りながらの「モーバイル」に分けて考えると、ノーマッドのワイヤレスインターネット環境を誰がどのような形で提供するか。こうした「場」は非常な集客力を持つだろう。
 「誰が場を提供するのか」という点で興味深い話がもうひとつ。シトロエンのコンセプトカーCitro-Osmoseは5人乗りの車だが、前席に3人、セパレートされた後部座席にゲスト2人を乗せる設計だ。車という「場」を持っている人が、同じ方向に向かう人を拾って空いている空間を提供する仕組みだ。

大江 ----- 「プロシューマー」という造語があるが、生産する消費者という概念である。エネルギーの世界も燃料電池やマイクロガスタービンによって、消費者は電気を消費するだけでなく、自ら発電し、余った電気を電力会社に売るようになる。使う場で個々に生産(発電)もする分散システムだから非常にロスも少ない。ちょうどインターネットにも似たエネルギーの輪ができて、互いに融通し合うシステムが動き出している。

村井 ----- ところで、ある建築家と対談したとき「インターネットは建築の敵である」と言われたことがある。「建築は不変だが、インターネットは可変で親和性はない」と。こうした視点もあるのだという点で、新鮮な驚きだった。

大江 ----- それは相当に遅れている。都市も建築も永遠ではない。臨海部が再開発されているのは、鉄道と船舶の時代から自動車と飛行機の時代に移ったために起こっていること。我々は都市をIT革命に対応できるように変えていかなければならない。モータリゼーションを軽く見て、対応が遅れたために衰退した中心部の商店街の轍を踏んではならない。

村井 ----- 誤解を恐れずに言えば、IT革命は壮大な臨床実験だ。いいことも悪いことも起こるから、非常に慎重に影響を見守っていかなければならない。一方で非常に勇気をもって進まなければならないと思っている。

森 ----- IT革命の結果、運ぶものは人ではなく物になる。職住が離れている必要はなくなり、むしろ住居とオフィス、アート、エンターテイメントなどが近いほど楽しく暮らせるようになる。働くことと生活や遊びの境も曖昧になっていくだろう。私は空を使ってそうしたコンパクトシティを実現したいと思っている。

大江 ----- 職住がシームレスになり、ワークスタイルもマルチウインドウ的になる。つまり、PCのウインドウを切り替えるように、時間を切り分けていろいろなプロジェクトに参加するような働き方ができるようになる。そうしたワークスタイルやライフスタイルに対応した都市が求められるだろう。





第7回必修講義

テーマ/「都市インフラとIT革命」
講師/ 村井 純(慶應義塾大学 環境情報学部教授)
   大江 匡(株式会社プランテック総合計画事務所代表取締役/建築家)
   森 稔(森ビル株式会社 代表取締役社長)
日時/2001年1月18日
会場/アカデミーヒルズ(アーク森ビル36階)


村井 純 講義目録
■第26期 '01.8.3
次世代インターネットの世界
■第23期 '99.12.2
エンターテイメント空間
大江 匡 講義目録
■第25期 '01.1.18
都市インフラとIT革命
■第23期 '99.12.2
エンターテイメント空間
森 稔 講義目録
■第26期 '01.5.17
都市再生への課題と挑戦
■第25期 '01.1.18
都市インフラとIT革命
■第23期 不動産特集
アカデミーヒルズインタビュー
■第23期 '99.1.18
都市再生に向けて舵を切れ

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