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■3つのリスクと1つの可能性
日本経済を左右する金融リスクとIT革命 竹中 平蔵 慶應義塾大学 総合政策学部教授 |
竹中 平蔵 講義一覧▼ |
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「日本経済の本当の姿を知りたい」と集まった塾生を前に、竹中平蔵氏は日本経済が内包する3つの危険と1つの可能性について語った。1,300兆円という金融資産に頼って、なすべき改革を先送りしてきた日本。竹中氏は講義前半で、今だ20兆円を超す不良債権という爆弾や膨らみ続ける財政赤字、米国経済の行方というリスクを抱えた日本経済の実態を示し、講義後半では日本経済復活のカギとなるIT革命の真の意味を明らかにしていった。
■20世紀の特殊性 21世紀を考える前に、まず、我々が生きてきた20世紀がどんな時代だったのかを認識しておこう。 20世紀、人類は凄まじい量的拡大を体験した。1900年の日本の人口は4,400万人、現在は1億2,700万人。100年間に人口は3倍になった。GDPも1900年は15億円〜25億円(推計値)だったのが、現在は500兆円。人口1人当たりのGDPは100年間で11万倍に拡大し、物価上昇分を差し引いた1人当たり実質所得も約35倍になった。 また地球人口もこの100年間で16億人から60億人になった。ローマ時代の地球人口は1億5,000万人といわれているから、1900年かかって10倍になった地球人口が20世紀に一気に4倍になったわけである。圧倒的な量的拡大の中で、日本の出生率は1900年の5.1から1.3まで急降下した。ちなみに人口を維持できる水準は2.1だ。 このように20世紀は様々な意味で特殊な時代だったのだ。 日本的といわれる年功序列や終身雇用、貯蓄率の高さ、株式の持ち合いも歴史は意外に浅く、20世紀という特殊な時代の産物なのである。年功序列や終身雇用制度は1920年代から、貯蓄率が高まったのも戦後であり、企業の株式の持ち合いも1970年以降に進んだものだ。いずれも日本に長く根づいていた制度や文化ではない。 また、20世紀は政府が経済に大きく介入した時代でもあった。 20世紀の量的拡大にある種の限界が来ており、政府の介入に関しても見直すべき時期が来ているという認識を前提に、21世紀の日本経済についてお話ししたい。 ■水面下に潜む危険性 政府は2000年度の経済成長率を1.4%、2001年度1.7%と見込んでいる。しかし、企業の内情に詳しい某大物財界人は、2001年の経済のダウンサイド(下振れ)リスクを懸念している。この状況は、年初予測では経済が回復に向かうとされていながら、年後半の金融・証券の経営破綻で失速した1997年に似ている。 2000年度上期の企業収益は著しく回復し、銀行を除く上場企業の連結決算における純収益は前年同期比2.8倍になった。それにも関わらず株価が落ちているのは「実物経済はそこそこ順調だが、フィナンシャル(金融)リスクがある」と市場が見ているからだ。 ■3つのフィナンシャルリスク 金融面での下振れリスクは3つある。 第1はバランスシート調整が終わっていないこと。不良債権がまだ残っている。大手銀行はこれまでに50兆円の不良債権を償却したが、あるシンクタンクの推計では22兆円の不良債権が残っている。バブルの清算は7合目。すべて償却するまでにあと2.9年はかかる計算である。これが償却されないかぎり本格的な回復は見込めない。そごうのような大型倒産が起こり、金融が揺らぐ危険性が残されている。 第2は膨らみ続けている財政赤字だ。国と地方の財政赤字は650兆円、GDPの1.3倍である。単年度のGDPの8〜9%を占める財政赤字は、米国や英国の大不況期より多い。米英では6%台の財政赤字で金利が上がり、民間部門に資金が回らなくなって民間投資が停滞した。 しかし、日本では今も低金利が続いている。これは1,300兆円の個人金融資産があるからだが、これらはいずれ食いつぶされてしまう。私は、数年後には地方財政の破綻が起こるのではないかと懸念している。なぜなら全国3,300の地方自治体の7割が公務員の退職給与引当金を積んでいない。長野県や栃木県の知事選で政治の主流にいる候補が敗退したことは、財政破綻への県民の危機感の表れではないか。 財政再建のタイムリミットは2007年である。2007年をピークに日本の人口は減少し、税収も減少に向かう。税収が減少する中で財政再建を進めるのは極めて困難だ。人口が増加している2007年までになんとしても財政再建を終えなければならない。 ただ、不良債権処理が完了する2003年頃までは経済の本格的回復は望めない。それから財政再建に取り組み、2007年までに終えなければならない。かなり厳しい状況である。 第3は米国経済のリスクである。米国経済はデジタルエコノミーを組み込んでいるので、ソフトランディングできると私は見ている。しかし、4〜5%成長が2.5%程度でソフトランディングしたとしても、日本経済に与える影響は多大だ。米国の経済成長率が2%下がったら日本の経済成長率は0.8%程度押し下げられる。1%台の経済成長率である日本経済にとって、これは非常に厳しい。 ■金融の新しいルート整備を 金融とは、金が余っている人から足りない人に融通することだ。金の出し手は家計、受け取り手は企業や国である。銀行を介したルートが間接金融であり、株や社債、国債といった形で家計から企業や国に直接金が流れるルートが直接金融である。日本は間接金融への依存度が非常に高いため、銀行の破綻が金融全体を揺るがしてしまう。 ちなみに銀行の貸出率は1980年頃まではGDP比70%台で安定していた。しかし、バブル経済の中で急激に上昇し、1990年には108%に達した。バブル崩壊後もなかなか下がらず、現在の貸出率はまだ100%に止まっている。しかも、わずか8ポイント下がっただけで「貸し渋り」の大合唱が巻き起こった。米国ではGDPに対する銀行の貸出率は30%程度。日本も米国のように多様な直接金融のルートを開拓し、整備していく必要がある。 日本の銀行の問題点はアセット(資産)が大きくなりすぎていることだ。効率の悪い融資などを切り、資産を圧縮しなければROEは改善されない。銀行も変わりつつあるが道のりは遠い。 ■ITは経済成長の牽引車 このようにマクロ経済の実態は厳しいが、日本経済復活の可能性をITに期待したい。 10年前、米国の著名な学者ロバート・ソロー氏は「コンピュータはそこにある。皆が使っている。しかし、生産性の向上は見られない」と言った。この提示はソローのパラドクスと呼ばれ、以来、多くの学者がこのテーマに取り組んだ。1997年、統計データの裏付けと共にこの問題に決着がついた。私は1997年という年を、米国がニューエコノミーに目覚めた年と位置づけている。 米国商務省は早速、国民に2つのことを約束した。第1はIT関係の統計の作成。第2はIT革命と経済の関係を示す年次報告だ。年次報告では、経済成長の3分の1がIT関連による直接効果であり、3分の1が間接効果だと分析した。米国の経済成長の3分の2はIT革命によるものである。 ■アジア諸国にも劣る日本 インターネットの捉え方は人によって様々だが、私は「デジタル情報をやりとりするスペースであり、それ以上でもそれ以下でもない」と捉えている。デジタル情報は文字や音声、映像などをすべて数字に置き換える。これによって多くのビジネスがインターネットに吸収されていくだろう。 しかし、日本のインターネット人口はまだ20%であり、米国の52%はもちろんのこと、香港やシンガポールの40%にも遠く及ばない。昨年は韓国にも追い越された。光ファイバーなど高速通信インフラの整備率もアジアの発展途上国より低い。高い技術と資金を持つ日本が、なぜこれほど遅れたのか。世界の国を比較すると興味深い事実がわかった。電気通信事業を早期に自由化した国ほど整備が進み、独占を許してきた国ほど整備率が低い。日本は後者の典型である。 IT戦略会議では規制を緩和し、競争を促進して5年間で高速通信インフラ網を整備するという目標を立てた。さらに「IPV6」に着目した。IPとは、デジタル情報をやりとりするスペース上で、主体を認識する番号を割り振る仕組みである。現在のIPV4は43億分しかないが、IPV6ならば無限大に拡大する。 IPV6は、ライフスタイルやビジネススタイルを根本的に変える可能性を持っている。ITによって新しいライフスタイルを生み出し、新たなビジネスモデルを創造するのは人間の英知であるが、今の日本はそれ以前の段階である高速通信インフラ整備というIT革命の入り口にいる。 ■情報リテラシーをどう高めるか もうひとつの課題は、新しいライフスタイルやビジネスモデルを生み出す情報リテラシーの養成である。日本のインターネット人口が20%程度と低い主因は、ある年齢以上の人々が情報リテラシーを身につける努力を怠っているからだ。我々は「ITバウチャー(切符)」の配付を考えたが、多くのマスコミは「地域振興券と同じバラまきだ」と批判した。地域振興券は確かにバラまきだったが、IT講習券は経済の供給サイドを活性化するものである。その辺を理解できないマスコミに私は失望している。 ただ、ひとつだけ傾聴に値する批判があった。それは「アメの政策だけでムチの政策がない」という批判だ。確かに大学生のインターネット人口が3倍に急拡大したのは、企業の多くが就職試験の登録をネット上で受け付けたからである。同様に、確定申告や住民票の取得はネットでしか受け付けないといったムチの政策をとったならば、インターネット人口は飛躍的に増えるかもしれない。 大学の入試も、一部は「パソコン持ち込み可」でよいと私は思う。記憶力より考える力が重視される時代を迎えているのだから、こうした入試方法があってもいいのではないか。 様々な方法でITによる新たなライフスタイルやビジネスモデルの創造を国民的な運動に高め、それによって豊かな生活と経済再生を実現する時代が来ているのではないだろうか。 過去を振り返れば、日本にも新技術を梃子に新たなライフスタイルや新産業が興隆した時代があった。1920年代は、東芝や日立、松下といった日本の代表的製造業あるいはその前身が次々に誕生し、1925年にラジオ放送が始まった。これらのメーカーがラジオを製造し、放送開始7年後には100万台のラジオが販売された。 また、1923年の関東大震災を契機に富裕層が都市近郊に移り住み、郊外型のライフスタイルを生み出した。それと共に鉄道が発達し、1929年には天才的経営者、阪急の小林一三がターミナル駅型百貨店・梅田阪急をオープンさせたのである。 我々には1920年代に新技術を梃子に新たなライフスタイル、新たなビジネスを花咲かせた歴史がある。もう一度それができないはずはない。 第1回必修講義
テーマ/「日本経済復活の金融改革」 |
| 竹中 平蔵 講義目録 |
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■第25期 '01.1.10 3つのリスクと1つの可能性 |
| ■第24期 アカデミーヒルズインタビュー |
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■第23期 '98.6.22 痛みを恐れず金融正常化に舵を切れ |
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■第20期 '00.2.3 日本の金融ビッグバンを検証する |
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