■女性をエンパワーメントさせるメディアを
Webマガジンで起業する

矢野 貴久子
 株式会社カフェグローブ・ドット・コム 代表取締役CEO

米倉 誠一郎
 一橋大学イノベーション研究センター長・教授



米倉 誠一郎
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 ITは、まだ十分に活用されていない日本の女性の能力を開花させる大きなツールとなるかもしれない。もともと編集者として多くの男性誌や女性誌に携わってきた矢野氏。彼女が女性たちをエンパワーメントする今までにない媒体をつくりたいと飛び込んだのがウェブの世界だ。HTMLも経営もまったくのゼロから始め、勉強したという矢野氏のバイタリティ溢れる講義に、女性のみならず、すべての塾生が起業意欲を刺激されたに違いない。

■サイト立ち上げの経緯
 雑誌の編集の仕事をしていた頃、海外で活躍する日本人女性たちを取材する機会があり、彼女たちのパワーをネットワークできたらすごいだろうなと感じた。また、彼女たちが日常会話で普通に政治の話をするのを聞いて、日本人はまだまだ未成熟だなとも感じた。私自身も日経流通新聞や日経産業新聞を面白く読んでいたこともあり、美容やファッションの話題が中心の日本の女性誌はこれでいいのか、女性の興味は本当にこれだけなのかと日頃から疑問に思っていた。女性誌の読者アンケートでもファッションや化粧品の話題が上位を占める中で、「結婚しない生き方」や「老後どうする?」といったテーマが4、5位になることもあり、本当はみんなもこういう話を知りたがっているに違いないという確信もあった。
 そのような背景から、政治からファッションまですべての話題を網羅して、薄くて軽く、バッグにポンと入れられるような雑誌をベースにして、最新情報はデイリーにインターネットでカバーし、カバンに入れて持ち歩きたい海外情報のようなものは単行本にするような企画ができればいいなと思った。
 当初はインターネットのインフラもある出版社で展開することを考えていたが、雑誌ではコストがかかりすぎるし、幅広いテーマを取り上げることは困難なことがわかった。そんな時に、「とりあえずインターネットで始めてはどうか」というシンガポールの友人のアドバイスがあり、ウェブで展開することを決めた。
 展開に当たり、ビジネスとして回していくために、まずは会社の設立が必要だと考えた。新聞記事を見て初めてベンチャーキャピタルの存在を知り、99年の夏にビットバレーのメーリングリストにメッセージを載せたところ、次の日にはベンチャーキャピタルからのオファーが殺到。それからは狂乱の日々で、二十数人に会い、話を聞いてもらうことができた。会った方々からビジネスについて教えていただくこともたくさんあった。この時期の経験が今の大きな財産になっている。
 最終的に多くのベンチャーキャピタルの中から選んだのは、アメリカのベンチャーキャピタルだった。その理由は、アメリカが女性サイトの先進国であり、そのノウハウを学ぶことができると思ったからだ。

■知的好奇心強い女性を狙う
 カフェグローブ・ドット・コムの名前は、コンフォタブルでみんながワイワイ情報交換できる"カフェ"のような存在であること、現代の女性たちの意識は世界中どこでも変わらないという"グローバル"性から名づけられている。
 ターゲットは知的好奇心の強い女性。サイト規模は、現在はトータルページビューで1日10万PV、トップページでは1日7,000PV前後という大きさに成長している。
 ウェブ制作作業においてはもう少し具体的にターゲットを絞り込んだ。具体像は20代、30代の働く女性でキャリア志向があり、可処分所得も多い女性である。
 実際のユーザーは女性90%、男性10%、年齢は23歳から37歳(カフェグローブでは働き盛りの女性と呼んでいる)が77%、22歳以下が5%。平均年齢は28.4歳。仕事をしている人は81%、うち60%が総合職や専門職、21%が一般事務職だが、一般事務職の人たちも非常に高いキャリア志向があることが特徴だ。年収は300万円〜1,000万円が54%、400万円〜1,000万円という括りでも45%になる。300万円以下の人は、留学準備中や、キャリアアップのための学校通い、という人も多い。
 2000年6月の衆議院選挙前に、投票に「行く」、「行かない」のアンケートをサイト上でとったところ、ユーザーの77%が投票に「行く」と答えたことからも、ユーザーの高い社会意識や知的好奇心の強さがうかがえる。
 このように、実際のユーザーもターゲット通りに集めることができ、広告的にも価値のある媒体として高い評価を得ている。

■ビジネスモデルの今と将来
 スタート時にビジネスモデルについて考えたことは、まず広告については当面は取り組んでいく必要があるが、必ず頭打ちがあるので広告モデルは将来的には難しいということだ。また、ECについては、メンバー全員が「洋服は実際に着てから買うもの」と考えていたし、CDや本については「ノウハウのある専門ECショップに任せておくべきだ」と考えたので、ユーザーメリットと割り切ったもの以外にはECには着手しないという方針を打ち立てた。
 実際に今、回っているビジネスモデルは(1)スポンサーの商品紹介などの記事広告を制作・掲載するスポンサーシップ広告の展開、(2)他社サイトのプロデュースやコンテンツ制作を請け負うコンテンツ提供、(3)ウェブ上でユーザーとのコラボレーションにより開発を行う商品企画の3つである。
 スポンサーシップ広告は1本当たり100万円前後で請け負っており、カネボウ、ランセル、ソニースタイルなどの実績がある。
 コンテンツ提供では伊藤忠の運営するインテリア用品ECサイトのプロデュース、ショッピングモール「イクスピアリ」のiモードサイトの制作なども行っている。
 商品企画では大手小売店と提携して、オリジナルバッグの開発・販売も手掛けた。現在は第2弾としてニットウエアの商品開発を行っている。ネット上での商品開発は、ユーザーの反応がすぐに返ってくるというインターネットならではの展開と言えよう。

■ゼロからのスタート
 カフェグローブの資本金は2000年12月現在で1億8,250万円。立ち上げ時の初期投資は2,000万円だ。立ち上げに携わった3人で1,000万円を用意し、残り500万円をベンチャーキャピタル、500万円を個人投資組合に持ってもらった。'99年12月20日からサービス開始したが、その直後に日本のベンチャーキャピタルからも6,000万円の追加投資を受けている。
 当初は経営もまったくの素人で、制作費については雑誌編集の経験から見当はついたものの、入ってくるお金がまったくわからなかった。とりあえずホームページのページビューを予測し、それに比例して広告収入をくっつけたという具合で、まさに"お子様キャッシュフロー"と呼ぶような代物だった。
 Webサイトの運営費として見込んだのは年間約1億円で、この数字はほぼ予想通りだった。単年黒字は2002年か2003年を予想していたが、2001年4月には単月黒字が見えてきた。
 最終的に目指しているビジネスモデルは、パッと見ても何で儲けているのかわからないが、裏でどんどん儲けているという仕組み。そのためにはシステムやデータベースをしっかりつくり、ユーザーがどんなものを求め、どんなことをやりたいのか、その声をしっかり反映していくことが重要だと思う。
 この事業の一番の目的は、女性たちをエンパワーメントできるメディアになることだ。IPOはそのための手段として、またリアルワールドに進出するために市場から広くお金を集めるための方法として考えており、来年ぐらいの上場を目指している。

■今後のコンテンツ展開
 2001年にやりたいことはファッションカテゴリ「東京お買いものMAP」(http://www.cafeglobe.com/okaimono/index.html)の充実だ。ショップからの検索ができることももちろんだが、商品がブランドを横断して検索できるような仕組みも考えている。ユーザーにとってはブランドを横断して商品の比較検討ができるし、ブランドにとっては今までターゲットでなかった顧客と接触できるチャンスが生まれることになる。将来的には、オプトインメールやユーザーだけのシークレットセールもできるようにしたいと考えている。
 ファッションに関連したところでは、IT化があまり進んでいないファッション業界のITコンサルティングも考えている。たとえば、自分のワードローブが画面上で整理できるようなソフトをつくって配布し、そこでアパレルメーカーの新商品を紹介するようなこともできるだろう。まずはみんなに使ってもらって、そこに企業が入り込んでいくようなモデルを考えている。
 仕事のデータベース「OSHIGOTO DATA BASE」(http://www.cafeglobe.com/career/oshigoto/)にも本格的にも取り組んでいきたいと考えている。
 また、他のサイトにはないオリジナルコンテンツ「クリック募金」(http://www.cafeglobe.com/donation/index.html)もさらに大きく輪を広げていきたい。このシステムは、ユーザーが「クリック募金」のページにあるスポンサーバナーをクリックすることにより、クリック1回につき100円が広告主である企業からNGOに支払われるという仕組みで、日本初の試みになる。

■最大の差別化はメディア化
 インターネットは参入障壁が低く、誰でもビジネスができる。その中では自分たちがどう独自性を出せるかが重要なポイントになる。
 カフェグローブのアドバンテージは誰もやっていないことをやってきたことだ。今までは、自分たちがやりたいと思ったことは誰もやっていないと言える環境だったが、出版社のウェブサイトも次々と立ち上がる中、その先行者優位もあと半年ぐらいのことだろう。それまでに企業としてきちんと安定し、メディアとして認知されたいと考えている。
 最大の差別化はメディアになることだが、ユーザーからは「カフェグローブは楽しく、便利だ」という評判を、スポンサーからは「この世代の女性のことが知りたければカフェグローブに行け」と言ってもらえるようになることが、今のところ一番大事なことだと考えている。
 現在も将来も、面白くてしっかりとしているという評価を得て、テレビやラジオと連携し、オピニオンリーダーになっていくことが差別化に繋がると思う。
 今後も編集者としてコンテンツがつくれるという点がカフェグローブの強みであることは変わらないが、どんどん変化していく端末に対応し、面白いコンテンツをどう様々なハードに載せることができるかを考えていくことも必要だ。



第5回必修講義
テーマ/Webマガジンで起業〜コンテンツビジネスの舞台裏
講師/矢野 貴久子
  (株式会社カフェグローブ・ドット・コム 代表取締役CEO)
アドバイザー/米倉誠一郎(一橋大学イノベーション研究センター長・教授)
日時/ 2000年12月14日
会場/アカデミーヒルズ(アーク森ビル36階)


米倉 誠一郎 講義目録
■第20期 アカデミーヒルズインタビュー
■第25期 '00.12.14
 女性をエンパワーメントさせるメディアを
■第24期 '00.5.18
 マザーズ1号からの教訓
■第23期 '00.1.20
 イノベーションと企業家精神
 〜日本最大のインターネットモール「楽天市場」の挑戦〜
■第22期 '99.7.15
 イノベーションと企業家精神
 〜創造型ナビゲーター、デジキューブびコンビニエンス戦略
■第21期 '98.11.26
 メガコンベンションと日本の課題
■第21期 '98.12.10
 企業家能力とは何か
■第21期 '98.12.17
 組織構造と経営戦略の相関性
■第21期 '99.1.14
 企業の多角化戦略

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