■PFIは民間主導の“公共事業”
民間のノウハウ活かしVFMを達成

太下 義之
株式会社三和総合研究所 PFI事業推進室 主任研究員
兼 芸術・文化政策室室長



 建設、土木、運輸、金融、鉄鋼などのトップ企業で構成する社団法人・日本プロジェクト産業協議会(略称=JAPIC/ジャピック)は、PFI事業のシミュレーションを行った。今回はその結果の中から庁舎とオフィスビルの合築モデルを取り上げながら、太下氏に、PFIの可能性と問題点を概観していただいた。講義要約は講義前半の概要の部分のみ収録した。


■戦後の公共事業の流れ
 戦後から1950年代にかけての公共事業は、基幹産業の再生に対処するための公共主導型事業として、国家的な産業基盤整備と資源エネルギー開発が行われた。事業主体は日本国有鉄道、電信電話公社など公社・公団だった。
 1960年代から70年代は高度成長を背景として大規模な社会資本が整備された時期である。事業主体は、むつ小河原開発公社株式会社、苫小牧東部開発株式会社などに代表される開発型の第三セクターだった。
 1980年以降は、内需拡大のための経済政策として“民活”という概念が打ち出され、リゾート開発や都市開発が展開された時期である。事業主体は、ハウステンボス株式会社、株式会社幕張テクノガーデンなど民活方式の第三セクターが中心だった。
 そして2000年以降は、公共事業においてPFI事業に期待が寄せられている。

■反省多い第三セクター方式
 数年前に日本経済新聞社が行った第三セクターに関する自治体調査によると、約7割が累積赤字を抱え、そのうち半数以上が赤字解消の目処がたっていなかった。うまくいかなかった反省点として次の5点が挙げられる。
主として公共セクターが事業計画を策定し、民間セクターの創意工夫を活かせなかったこと。
競争原理が働かず、事業に対する民間セクターのインセンティブも作用しなかったこと。
官民の役割および責任分担が不明確であり、株式会社としての健全な経営が実施されなかったこと。
バブル経済の時代と重なり、プロジェクトのキャッシュフロー評価が十分ではなかったこと。
事業計画の見通しについて問題を先送りする風潮が強く、機動的な対応ができなかったこと。
 こうした第三セクターの反省点を踏まえて、今後のPFIを提案する必要があるだろう。

■従来型公共事業とPFIの違い
 PFIと従来型の公共事業には多くの違いがある。民間事業者の側からみた主な違いを挙げると、「関与する期間」「関与の方法」「リスク」「報酬」「改善提案の可能性」「重視される点」となる。
 従来型の公共事業での「関与する期間」は、施設の建設完了までか瑕疵担保期間までだった。それに対してPFIでは通常25年以上に及ぶ。
 「関与の方法」も大きく異なる。従来型公共事業において民間事業者は、公共セクターから指名・発注される下請けの役割だった。しかしPFIでは、事業主体へ参加するか事業主体から指名・発注される下請けの役割である。
 民間業者が従来型公共事業においてとる「リスク」は、関与する特定分野および瑕疵責任に限定される。しかしPFIでは広範囲かつ長期間になる。
 従来型公共事業での「報酬」は一括定額(または定率フィー)だったが、PFIでは年間支払いになる。「改善提案の可能性」も従来型公共事業では限定的だったが、PFIでは自由度が高い。
 最後の「重視される点」についてだが、従来型公共事業で重視されたのは主として公共サイドの手続きであった。しかしPFIではあくまでVFM(Value for Money)が重視される。

■PFIがもたらすメリット
 PFIの導入は公共および民間それぞれにメリットがある。
 公共側のメリットとして初めに挙げられるのは、財政負担を軽減し、財政支出を平準化しつつ、より良い社会資本の整備が可能な点だ。
 第2点は、民間事業者間の競争原理を導入することで、建設・運営での効率が向上すること。第3点はプロジェクトの費用対効果が明確になるため、住民に対するアカウンタビリティ(説明責任)が向上することだ。
 民間部門でのメリットも3点ほど挙げられる。第1点は、新たな市場・投資機会の創出である。第2点は、リスクを適切にマネジメントすれば、安定的・継続的に利益を得ることが可能なことだ。そして第3点目が、競争を通じた技術革新の機会の増大である。

■PFIではVFMを重視
 VFMとは、公共の調達行為に関して、支払うべき額に対し受け取り価値(施設または機器、提供されるサービス)を最大化することだ。公共サービスの質・量を維持しながらコストを可能な限り下げることと言い換えてもいい。
 PFIでVFMを増大させるにはポイントが4つほどある。
 第1点は民間事業者の創意工夫やイノベーションである。
 従来の公共事業では、民間から建設費や運営費の大幅減などの改善提案を出しにくく、VFMも達成しにくい。なぜなら公共のほうが民間より低利の資金を調達できるからだ。
 もし庁舎の新築をPFIでやるのであれば、庁舎とオフィスビルを合築してVFMを出していくなどの方法がある。それが民間事業者の創意工夫やイノベーションという意味だ。
 2点目がデザインビルド方式や仕様発注によるVFMの向上である。
 現在は設計と建設を分けるなど分離発注方式が取られている。それに対して、設計から施工まで一体的に発注するデザインビルド方式にすれば、民間のノウハウを活かすことができる。たとえば、ヒアリング調査によると、庁舎とオフィスビルの合築については、5%程度建設費を下げることができるとのことである。
 PFIでは民間事業者が、設計、建設、運営を一貫して実施する。そのため、効率的な運営を考慮しながら施設を設計するといったことが可能になり、改善提案の自由度が高まり、VFMを達成する道も開けてくる。
 3点目は運営・管理における経費削減によるVFMの向上である。従来型の博物館や美術館の運営・管理は硬直的だ。たとえ経費を削減できても削減分を別の事業に利用できず、経費削減のインセンティブが働かない。それに対してPFIは、博物館や美術館の運営・管理を事業としてとらえ、削減した経費を美術館事業に投資してサービスを向上することもできる。
 最後の4点目が企業努力を通じたVFMの向上である。PFIとは民間事業者がリスクをとった分だけ利益も得られる事業である。リスク管理も慎重になるし、リスクを小さくする努力を惜しまない。

■PFIの資金調達
 英国・王立武具博物館は同国の文化施設のPFIとして初めてのケースであった。その資金構成は、補助金、借り入れ、出資の3種類に分けられる。
 補助金を出しているのは中央政府、リーズ開発公社、リーズ市の三者で合計2,850万ポンド。借り入れと出資金はRAIというプロジェクト会社が受け皿になり、スコットランド銀行から800万ポンドを借り入れているほか、ベンチャーキャピタルの3iをはじめ、エレクトラ投資信託、ヨークシャー電力、ガードナー・マーチャントの四者が合計600万ポンドを出資している。
 これが現時点で考えるPFIの資金構成のモデルだろう。もちろんこのほかのメニューとして、個人投資家の資金を導入する直接金融も考えられる。
 わが国で考えた場合、個人投資家による直接金融は今後の検討課題である。当面は直接金融を期待せずに、公共からの補助金、出資、借り入れの三本柱でPFIを進めていかなければならない。

■金融機関はDSCRを重視
 調達した資金で事業が成り立つかどうかを判断する基準が、プロジェクト全体の利益率を示すIRR(Internal Rate of Return=内部利益率)である。
 王立武具博物館に融資しているスコットランド銀行は、DSCR(Dept Service Coverage Rate) によって、各期の返済に対するキャッシュフローの担保力を測る。融資期間中の平均DSCRが1.3以上確保できれば問題がない。DSCRは返済する金額に対するキャッシュフローの比率だ。金融機関は、その数値が1.3以上でなければプロジェクトに融資しない。
 もうひとつの資金調達の柱がエクイティ(資本)である。ローンの比率を大きくできればエクイティを圧縮できるが、ローンの限界はキャッシュフローの大きさによって決まってしまう。
 事業費から銀行からの融資額を引いた差額を埋めるのがエクイティだ。エクイティについても出資可能性を測る基準がある。それが、エクイティに対するキャッシュフローによる利回りを示すエクイティIRRである。エクイティIRRが10%を超えなければ、出資者を集めることができない。

■鍵握るマネジメント
 庁舎をPFIで建築する際に、民間のオフィスビルを合築すればVFMを高める可能性がある。しかし、オフィスビルにテナントが入らなければ逆ざやになってしまう。プロジェクト会社は、一定の入居率を想定してキャッシュフローを計算するのだが、融資する金融機関は提示されるキャッシュフローを全面的に信頼するわけではない。たとえば入居率90%で算定されたキャッシュフローに対して、金融機関が確実だと判断するのは、その半分か、せいぜい8割程度だ。
 PFIの事業主体としては、施設をいかにフル稼働させるかがマネジメントの要諦である。たとえば、通常のビジネスであれば、大型のテナントの入居が決まると安心だが、PFIでは喜んでいられない。そのテナントが退去することが大きなリスクになるから、むしろ中規模の複数のテナントを入居させてリスクを分散させるほうがいい。
 その他、PFIにはさまざまなリスクがある。誰がどのリスクを分担するかは公共と民間の間で取り決めていくのだが、民間が分担できないリスクがある。また、民間が無理に分担しても軽減できないリスクもある。公共は、PFIによってすべてのリスクを民間にとらせようと考えがちだ。そうした傾向に対して民間側は、妥当なリスクの分担の仕方について発言していかなければならない。

■改善求められる発注方式
 PFIの事業者の選定方法も今後の大きな問題である。これまでの入札制度は馴染まない。
 PFIの目的はVFMを最大化することである。そのため事業者の選定については、アウトプット仕様を導入しなければならない。つまり、提供されるべきサービスの内容および水準を規定したうえで、応募者の提案を公募し、価格、各事業者の能力、経験、意欲などの価値評価を行って委託先を選定しなければならない。
 従来の入札制度ではバリューを重視して事業者を選定することが難しい。公共がPFIに本腰を入れて取り組むのであれば、発注方式から根本的に変えていかないと日本に定着しないのではないだろうか。



PFI研究コース

テーマ/「庁舎とオフィスビル合築をケーススタディとして」
講師/太下 義之
  (株式会社三和総合研究所 PFI事業推進室 主任研究員 兼 芸術・文化政策室室長)
コース指導
山内 弘隆 (一橋大学商学部教授)
大江 匡 (建築家/株式会社プランテック総合計画事務所代表取締役)
大島 邦彦 (株式会社熊谷組PFIプロジェクト部グループ部長)
日時/2000年7月7日
会場/アカデミーヒルズ(アーク森ビル36階)


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