■すべての源はキャッシュフロー
PFI事業の財務分析とプロジェクト・ファイナンス

横山 洋一郎
日本政策投資銀行 プロジェクトファイナンス部次長



 企業・銀行の経営変革がもたらす資金調達構造の変化に伴って志向されているプロジェクト・ファイナンスは、健全なPFI事業を推進するうえでも欠かせない存在となっている。今回は、PFI事業との関連性のなかで、その特質、リスク分担と回避の手法、キャッシュフローの分析方法など、プロジェクト・ファイナンスの基礎を横山氏に解説していただいた。


■基本的な定義と要点
 プロジェクト・ファイナンスとは、大規模プロジェクトへの融資であって、原則として貸し手がそのプロジェクトの資金繰りおよび収益を返済財源とし、またそのプロジェクトの資産を担保として融資を行うものである。ポイントをまとめると次のようになる。
・借り手は特定事業の遂行のため設立された単一目的会社(SPC)。
・借入金返済原資をプロジェクトからのキャッシュフローに求める。
・担保は事業遂行のために必要となる資産・諸契約を基本とする。
・貸し手は事業スポンサー(出資者)に対する訴求権(リコース)が限定される。
・通常、大規模事業の資金調達に用いられ、多数の金融機関がシンジケーションローン形式で参加する。

■資金調達構造の変化に対応
 プロジェクト・ファイナンスへのニーズが高まっているのは、資金調達構造が変化したからだ。これまでは企業の信用力を背景とするコーポレート・ファイナンス主体であり、メインバンク体制が確立していた。しかし、大手銀行の統合・再編、貸倒れリスクへの管理体制の強化で、メインバンク体制が崩壊しつつあり、従来型の融資が困難となってきている。
 一方、株主重視の経営を志向する企業側が、バランスシート・資産効率を重視することから、大規模プロジェクトにかかる財務負担の増加を回避し、債務のオフバランス化を推し進めていることもプロジェクト・ファイナンスへのニーズを高めている。
 さらに企業は資金調達手段を多様化するため、銀行借り入れと並んで資本市場から社債による直接調達手段を確保するために、債券の格付けを意識せざるを得ない。
 こうした流れのなかで、企業は資産をなるべく小さくし、リスク管理の強化に努めている。それにはプロジェクト単位でのリスクと利益の管理強化が必要であり、プロジェクト・ファイナンスを志向する動きを促している。
 金融機関においては、BIS規制や信用リスク管理体制の強化がプロジェクト・ファイナンスへと向かわせている。2004年に導入が検討されている新BIS規制では、自己資本率を単に8%以上維持するだけに止まらず、金融機関の保有する資産の質に応じてリスクを管理する体制を強化しないと立ち行かなくなる。
 また、信用力がある親企業の保証などが困難な場合には代替措置を講じる必要があるし、プロジェクトをスポンサーの倒産から隔離する必要があるなど、金融機関として分担するリスクを明確にしなければならない。
 このような状況下で、プロジェクトごとに採算性を確保すると同時にリスクに応じた金利を設定するなど、リスクとリターンを明確にした融資方法としてプロジェクト・ファイナンスが求められている。

■多様なリスクと対応策
 プロジェクト・ファイナンスに関わるリスクは多様である。大きくは、フォースマジュール(不可抗力)、カントリーリスク(政治リスク)、コマーシャルリスクに分けることができる。
 戦争・天災などのフォースマジュールと政策変更や通貨危機などのカントリーリスクは、当事者間では避けられないリスクである。当事者間でコントロールできるのがコマーシャルリスクである。これには工事を完成させるまでのリスク、工事が完成してからの操業リスク、市場ニーズに関するマーケットリスク、予定通りのキャッシュフローが生まれるかといった経済性リスクなどがある。
 リスクに応じたコントロールの方法がある。たとえば、工事完成リスクを避けるには、まず確立された技術を選ぶことが重要だ。完成までの設計・資材調達・建設の各段階で発生するリスクを避ける方法として、実績のある企業に一括して依頼する方法がある。
 パフォーマンスボンド(履行保証債券)により、工事完成リスクを避ける方法もある。これは、工事が完成しない場合に備えてコントラクター(契約当事者)以外の損保などが債券を発行することで、損害補償金などの支払いを保証してリスクを分散する方法だ。そのほか、完成保証、工事費を固定して増額を認めないランプサム契約、遅延損害金保証、予備費などを必要に応じて組み合わせ、工事完成リスクを避ける。

■従来型融資は馴染まない
 従来型のファイナンスによるPFI事業は、既存企業が公共と契約を結んでPFI事業を行い、金融機関は既存企業に対して融資してきた。この形態では、PFI事業そのものが不調になっても、既存企業の他の事業で支えることができる。しかし、逆に他の事業の運営が不調になると、PFI事業に影響する恐れがある。
 公共側にとってPFI事業は安定したサービスの提供が前提である。その点で不安定な従来型のコーポレートファイナンスはPFI事業に馴染まない形態である。PFI事業を安定して継続させるにはプロジェクト・ファイナンスが最適なファイナンス形態だ。プロジェクト・ファイナンスによる融資形態では、プロジェクト会社と既存企業(スポンサー)が出資契約を結ぶ。同様に、保険会社と保険契約、地主と賃貸契約、原材料供給会社と供給契約、運営会社と保守・運営契約、建設会社と建設契約というように、さまざまな契約を結びリスクを分担する。
 金融団はリスクが分散されているのを確認したうえでプロジェクト会社に融資する。金融団と公共は直接契約を結び、公共サイドがなにかの事情でPFI事業を中止する場合に損害賠償を請求できる仕組みをつくる。
 基本的に公共は、こうした私的な契約に関して民間企業と同列で参加するのに非常に抵抗を示すが、意識を変えてもらわなければならない。

■ファイナンス組成の流れ
 プロジェクト・ファイナンスを組成する流れは、スポンサーにおける事業計画の検討から始まる。同時にスポンサーは、プロジェクト・ファイナンスによる事業化の仕組みを考える。
 事業計画を検証し、資金調達計画が策定されると、金融団の幹事に向けて事業計画書を提示する。
 金融団は事業計画書に基づき融資条件の交渉、投資目論見書の作成に入り、銀行間の調整も行われる。この段階では法律面の詰めなどが行われるため、長い時間を要する。
 とくに注意を要するのは事後管理である。PFI事業では施設が完成してから20年程度は運営していかなければならず、その間に起こる問題に的確に対処しなければならない。そのために、契約に基づいた自己責任の原則、チェックシステム、事実の開示などがキーポイントになる。
 また、リスクを分解したうえで、スポンサー、建設会社、金融団、その他(政府、保険会社)などの関係者でリスクを分担する。このうち金融団については、参加する複数の金融機関でリスクを分担する。各金融機関はプロジェクトのリスクをコントロールできる仕組みを考えながら、リスクを引き受けて大きなリターンを求めていくことになる。

■キャッシュフローの振幅に注意
 プロジェクト・ファイナンスでは、プロジェクトのキャッシュフローについて、ベースケースを中心に悲観ケース(下限)と楽観ケース(上限)を想定する。それぞれを現在価値に戻してみて、借入金と出資金をすべてカバーできれば問題がない。悲観ケースと楽観ケースの振れが小さく、悲観ケースの場合でも出資範囲で吸収できる程度なら、借入金は返済できる。逆に、楽観ケースで出資を上回った分は出資者の丸得になる。
 問題は楽観ケースと悲観ケースに振れが大きい場合だ。楽観ケースはキャッシュフローが出資を大きく上回るからいいが、悲観ケースでは出資分を上回ってキャッシュフローが不足するため、借入金さえ返済できないことが起こり得る。借入金を返済できない部分については、劣後融資や優先株などの形で、ハイリスク・ハイリターンを望む投資家を参画させるといった仕組みをつくらなければならない。あるいはリスクが高い場合には、出資分と劣後融資・優先株などメザニンファイナンスを除いた分と同額の最低収入保証を自治体が設定することも考えられる。そうすれば、出資金は返済できないにしても、借入金は返済できる。
 キャッシュフローの振れの小さいケースはプロジェクト・ファイナンスに向いているが、振れが大きい事業は不向きである。

■強度を測るさまざまな指標
 キャッシュフローとは「税引後償却前利払い前利益」である。金融機関は、3つの指標によってキャッシュフローの強度を測る。
 1つ目は、「当該年の税引後償却前利払い前利益」を「当該年の元本・利息支払い所要額」で割ったDSCR(Annual Debt Service Coverage Ratio)である。目安としてDSCRが1.2を超えるようであれば余裕を持って返済できる。
 2つ目のLLCR(Loan Life Coverage Ratio)は、「融資期間を通じた税引後償却前利払い前利益(キャッシュフロー)総額の現在価値」を「債務残高」で割った数字である。融資期間を通じて1.5程度は目安として必要である。
 三つ目のPLCR(Project Life Coverage Ratio)も重要な数字である。これは「事業期間中の税引後償却前利払い前利益総額の現在価値」を「債務残高」で割ったもの。プロジェクト全体の利払い能力の参考指標となる。
 プロジェクトの収益性を考えるのがIRR(Internal Rate of Return=内部利益率)分析である。プロジェクトIRRとは当該事業が生むキャッシュフローの利回りである。「事業期間中のネットのキャッシュフロー総額の現在価値」が「投下資本額の現在価値」と等しくなる割引率である。
 エクィティIRRとはスポンサーにとってのIRRである。「配当および事業期間終了時の残存キャッシュ総額の現在価値」が「出資額の現在価値」と等しくなる割引率である。
 プロジェクトIRRが資金調達コストを上回らなければ採算性が合わない。だから資金調達コストについても分析する必要がある。その指標がWACC(Weight-Average Cost of Capital=加重平均による資本調達コスト)である。
 条件をさまざまに変えながらこれらの数値を分析することで、キャッシュフローの強さやプロジェクトの問題点などを抽出することができる。
 従来の損益計算書は、過去の実績を測定し税金を算出するための損益計算である。それとは別の見方で将来発生する本当のキャッシュフローだけを分析しないと、プロジェクト・ファイナンスは行えない。



PFI研究コース

テーマ/「PFI事業の財務分析とプロジェクト・ファイナンス」
講師/横山 洋一郎(日本政策投資銀行 プロジェクトファイナンス部次長)
コース指導
山内 弘隆 (一橋大学商学部教授)
大江 匡 (建築家/株式会社プランテック総合計画事務所代表取締役)
大島 邦彦 (株式会社熊谷組PFIプロジェクト部グループ部長)
日時/2000年6月23日
会場/アカデミーヒルズ(アーク森ビル36階)


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