■根本の課題は安定的な事業継続
PFI事業推進に向けた具体的課題の検討

前田 博 弁護士/三井安田法律事務所


 良質で安価な公共サービスの安定的提供を目的としたPFI事業だが、本格的に離陸させるためには解決しなければならない課題が山積している。それらの課題について前田氏は、参加者との質疑応答を交えつつ、弁護士としてPFI事業に携わってきた経験を基に、より具体的にさまざまな課題について解説した。講義の中で前田氏は、制度が未整備であり経験も浅い事業であるだけに、現状では明確にできない部分も多いことを指摘し、今後の望ましい方向性を示した。


■困難な操業の引き継ぎ
 1999年9月にPFI推進法が施行されたが、実際の案件はさほど多くない。
 PFIを難しくしている理由は3つある。「PFIに対する知識の不足」「PFIを成立せしめる社会的前提の欠如」「法律的・制度的制約」の3つだ。
 PFI事業は、まず民間事業者が出資してSPCを設立し、SPCと公共がPFI契約を結び、銀行がSPCに融資するというのが基本スタイルだ。SPCが提供するサービスの内容にかかわらず、長期にわたり安定して事業を継続することを第一に考えなければならない。
 一般には、SPCを使えば民間事業者が倒産してもPFI事業が頓挫することはないと考えられている。しかし、現実にPFI事業のプラントの操業会社が倒産した場合、操業を継続できるかどうかは大いに疑問だ。
 公共工事として発注された大抵のプラントでは、操業会社の倒産に備えた操業マニュアルはつくられていない。その結果、別の企業が業務を引き継げないのが実状だ。つまり、オペレーションマニュアルなしで誰もが操業できるようなプラントにしておくというような手を打たなければ、本当にリスクを回避できたとは言えない。

■パフォーマンスに対して与信
 最近の商法などの変化に注目していると、1つの会社を持ち株会社と事業会社に分割して、業績が悪い事業会社を整理する方向に動いている。そうした状況下で、銀行は会社のキャッシュフローに対して融資するようになった。それがプロジェクト・ファイナンスである。
 PFI事業におけるプロジェクト・ファイナンスでは、SPCと公共団体との間で結ばれる委託業務契約の内容をチェックすることが重要だ。委託業務契約が安定したキャッシュフローを生むカナメだからだ。委託業務契約をチェックするポイントは、デットの返済に見合うだけの支払いがあるか否かだ。一方で確実な支払いを受けるには、契約通りのサービスの提供が前提となる。当然、建築会社が堅牢な建物を建て、設備メーカーが確かな設備を納入し、操業会社が確実に操業できなければならない。
 特にPFIにおけるプロジェクト・ファイナンスでの与信リスクはパフォーマー次第だ。財務的な与信ではなく、パフォーマンスに対する与信である。
 公共側からPFI事業を検討した場合、安定したサービスを市民に提供するために、操業会社が確実にプラントなどを動かし続けられるかどうかが大きな課題になる。そうした懸念のある事業において、プロジェクト・ファイナンスを通して銀行が操業会社のリスクをチェックするPFIのスキームは、公共に歓迎されるはずだ。地方公共団体の限られた人材とノウハウで監視するよりも、利潤動機で動く銀行が見張る方が確実かつ効果的でもある。

■望ましい企業の分社化
 今後は一段と分社化が進むことだろう。1つの会社を持ち株会社と事業会社に分けるだけでなく、事業部門ごとに部品化された企業が組み合わさって1つの企業体を形づくり、トータルでリターンの高い事業を展開することになるだろう。これはポートフォリオを形成する動きでもある。
 企業の分社化は、PFI事業にとって望ましい方向である。分社化が進んでいれば、スポンサー企業が倒産しても操業会社が生き残ることができ、PFIを使ったストラクチャーも安定する。現在の日本でPFI事業が難しい理由のひとつは、「ウチのやり方」を守ることが各企業の骨の髄まで染み込んでいることだ。プロジェクト・ファイナンスもPFI事業も、会社の部品化が進まなければ日の目をみないだろう。

■プラント停止に備え手だてを
 万が一、PFI事業のプラントが使用不能に陥った場合、契約に定められたサービスが提供できなくなり、PFI契約に基づく支払いもなくなる。当然、SPCは銀行からの融資に対して債務不履行に陥る。
 この場合に銀行には2つ選択肢が与えられる。「プラントの売却」か「追加融資をしてプラントを復旧する」かである。しかし、プロジェクト・ファイナンスがプラントのキャッシュフローに対する融資であることを考えると、追加融資を行ってキャッシュフローを途絶えさせない方を選ぶのが合理的だろう。
 公共の立場から見ても、プラントが稼働しないという理由で業務委託を打ち切り、その結果、代替のサービスを受けられないような事業形態では困る。となると、公共は委託業務を即座に切り捨てても困らないようなPFI事業しか着手しないことになる。
 一方で銀行は債務不履行に備えて、事業が合理的に動き続けるように、公共団体との間になんらかの取り決めをしておかなければならない。サービスの提供が一定以下になり、委託業務が遂行できなくなる場合に備えて、どういう形でプラントを生かすか、あるいは断念するかについて取り決めておくのがプロジェクト・ファイナンスのポイントの1つである。

■厳選したい適切な事業方式
 PFI事業の方式は、DB+O(公設公営、業務委託方式)、BTO(公設民営方式)、BOT/BOO(民設民営方式)の3つがある。PFIの成果として期待されているのは、市民に対して低廉かつ良質な公共サービスを安定的に供給することである。それを念頭に置いて、最適な方式を選ばなければならない。
 各方式には一長一短がある。
 政府などの補助金を受けやすい順に3方式を並べると、DB+O、BTO、BOT/BOOの順になる。施設の減価償却については、DB+OとBTOは公共が負い、BOT/BOOは民間が負うことになる。減価償却を負う方式は民間にとって厳しい。減価償却を考慮した後でないと配当が払えないからだ。
 プロジェクト期間が終了した時点での施設の処分に関する問題についても慎重な検討が必要だ。
 BOOの場合は、イニシャルコストを少なくするために、公共団体から無償で土地を借り、その上にSPCが施設を建てて所有するケースが多いだろう。その場合は、プロジェクト期間が終了すると、民間のコストで施設を撤去しなければならない。この方式に関して公共団体が懸念するのは、15年、20年後に施設を撤去する費用をSPCが負担できるかどうかという点だ。
 一方、BOTでは事業の最後に所有権が民間から公共へ返還される。この方式の場合、施設が継続的に使用できるのであれば、公共はPFI契約を継続するだろう。となると、公共団体が所有権を取得するのは、プラントが完全に使用できなくなった時点である。つまり、撤去するコストを公共が負担する契約である。
 BOT/BOOの手法がアジアで動き出したのは90年代前半であり、まだ10年も経ていないため、BOT/BOOがどういう形で終了するか実例がなく、不透明な点も多い。

■支出の平準化など課題は多岐
 地方公共団体にとり、支出を平準化できる方式であることも重要だ。
 プラントによっては定期的に大きな更新工事を必要とするものもあり、大きな支出が必要になる。しかし、公共は定期的な一定の支出を求めるマインドがある。 そうした公共側のニーズに最も合っているのはBOOだ。施設を公共が所有するDB+O、BTOでは、施設更新のための予算を別途に確保しなければならない。議会で別途予算の承認を得るのには困難がつきまとう。
 満足できるサービスが提供されなかった場合、官民間の契約を解除することによる不都合も慎重に検討しなければならない。最も解除しやすいのはDB+Oであり、逆に最も解除しにくいのがBOOである。
 事業リスクを誰が負っているのかも明確にしなければならない。PFIでは民間がリスクを負わない方式が排除される。なぜなら、民間がリスクを負担することにより、モラルハザードを起こしにくく、自分の不利益になることはしないと考えられるからだ。
 基本的に民間が事業リスクを負うのはBOTとBOOである。DB+O、BTOは負っていると言い難い。
 しかし、BOT/BOOにしろ、SPCの資本は紙のように薄く、しかもプロジェクト・ファイナンスで融資を受けている。これで本当に民間がリスクを負っていると言えるのだろうか。
 PFIにおけるプロジェクト・ファイナンスの問題点は、スポンサーのモラルハザードをいかに防ぐかである。
 資本の論理は、子供にあたる会社であっても見捨てるのが原則だ。捨ててもいい子会社を捨てられない理由があるとすれば、それは債務不履行になったときに自分のエクイティが消滅することだろう。子会社を切り捨てることと、エクイティを失うことの得失のバランスによってしかモラルハザードを防げない。
 瑕疵担保責任を誰が負担するのかも重要だ。引き渡しを受けたプラントが見込み通りに稼働しない場合、公共は民間業者に対して最も責任を追及しやすいのはBOT/BOOだ。

■性能発注に必要な新たな約款
 これまで地方自治団体が行ってきた公共工事は「仕様発注」がほとんどだった。公共側が実施図面まで作成し、その図面に沿って、工事を最も安くできる民間業者を入札で選んできた。しかしPFIでは、民間の創意工夫を最大限に発揮させるために、「性能発注」方式を採用すべきであるとされている。求める性能を公共側が提示し、それに基づいて民間業者が設計し、工事する発注方法である。
 性能発注は、仕様発注と比べて契約の方法も大きく変わる。そのため、これまで公共事業を発注する際に用いられてきた「公共工事標準請負契約約款」では矛盾が生まれる。
 標準約款では、施主である公共団体が「必要と認めた場合」に工事を一方的に中止できる旨を明記した項目がある。基本的に請負契約は施主の利益のために行う工事を目的としているから、施主側は代金さえ払えば、一方的に工事を中止できるとされてきた。しかし、PFI事業の工事は、単なる請負契約による工事ではない。公共側が一方的に途中で工事を差し止めることができなくなるだろう。そのため、どのようなケースに工事中止を指示できるのか、事細かに決めておく必要がある。
 子細に検討してみると、現行の公共工事標準約款を手直しするだけでは性能発注に対応できないことが分かる。
 また、性能発注で求める性能は個々のPFI事業によって大きく異なるために、標準的な約款ですべてのPFI事業に対応するのは非常に難しい。建物の建設に関する標準約款、廃棄物の処理に関する標準約款といったように、ある程度の分野別に約款を設けるなど、新たな約款をつくる必要があるだろう。



PFI研究コース

テーマ/「PFI事業推進に向けた具体的課題の研究」
講師/前田 博(弁護士/三井安田法律事務所)
コース指導
山内 弘隆 (一橋大学商学部教授)
大江 匡 (建築家/株式会社プランテック総合計画事務所代表取締役)
大島 邦彦 (株式会社熊谷組PFIプロジェクト部グループ部長)
日時/2000年6月16日
会場/アカデミーヒルズ(アーク森ビル36階)


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