■リスク評価とマネジメント手法
リスク管理は事業全体・全期間にわたるダイナミックな概念

美原 融
株式会社三井物産戦略研究所 プロジェクトエンジニアリング室長



 PFI法に基づく事業が始動しようとしている。しかし、我が国では経験のない事業形態であるだけに誤解も多い。特に事業の要諦であるリスク管理についても「PFIによりリスクが軽減する」といった認識もあるが、この事業形態に造詣が深い美原氏は「それは大きな誤解」と論破。「事業を成功させるには、事業全体の広がりと時間の中でリスクを評価し考えることが重要」と主張しつつ、PFIにおけるリスクの評価と管理の問題を細部にわたって解説した。


■リスクの評価と管理
 プロジェクト・リスクとは、プロジェクトに係わる一定の帰結が参加者の合理的期待を反映しない蓋然性(起こり得る可能性)である。また、リスクの評価とは、プロジェクトや事業に係わるリスクを組織的、理論的に分析・認識・判断し、定量化して定性分析のうえ評価・判断することである。
 プロジェクト・リスクの分担は単純ではない。所与のリスクを評価・判断して、それぞれのリスクを最も安い費用で管理でき、リスクの蓋然性を最小化できるプロジェクト関係者にリスクを割り振ることである。
 プロジェクト・リスクの管理は、プロジェクト・リスクの評価を通じて、リスクを管理するプロセスでもある。管理のひとつはリスクの蓋然性を減らすことであり、同時に顕在化しないように努力することである。さらに、リスクが顕在化した場合には、帰結を最小化してプロジェクトへの影響の軽減を図り、プロジェクトの崩壊を防ぐ努力を指す。
 リスク管理は、事業全体を通じて管理する継続的でダイナミックな概念である。また、プロジェクト・リスクは、見る人の立場によって評価と管理のあり方が違ってくる。その差異を正確に理解し、全体を鳥瞰することが事業としてのリスク管理の根本である。
 特に注意しなければならないのは、リスク分担のあり方が時系列的に変化する点だ。さらに、リスク自体も時系列的に変化するし、リスクを評価する主体の受け止め方も時系列的に変わるというように、リスクは固定的な概念ではない。

■多様な手法でリスクを軽減
 リスクを軽減する手法は3つある。1つ目は、契約当事者間でリスクを合理的に分担する方法である。2つ目は、市場における解決手法を利用するもので、リスクをコスト化して処理する手法である。3つ目は、市場に手段がない場合に採られる手法で、リスクが顕在化した場合の軽減措置を合理的に約定において関係当事者と取り決めて、リスクの蓋然性を定量化するなどの手法である。
 契約行為やリスク分担は、これらの手法をどのように実際の社会の中において適用するかという問題だ。リスク分担の基本は、認知されたリスクを最も適切に管理できる最適なプロジェクト関係当事者に分担させることだ。高い費用をかければ、リスクの解決手法は必ずある。しかし、それでは経済合理性がなくなるし、実効性もなくなる。また、歪んだ形でリスク分担を実行すれば、費用が高くつく。その結果、競争に負けたり、事業が破綻したりして社会的費用が高くなってしまう。市場で支持されないリスク分担は実効性がない。
 PFIやプロジェクト・ファイナンスについて「リスクが分散され、軽減化される」と説明されるが、それは大きな誤解だ。プロジェクト全体のリスクの総量が減ることはない。
 しかし、合理的、効果的に分担することにより、リスクが生じる蓋然性を減らせる。蓋然性が減るメリットをプロジェクトの関係当事者で分け合うという発想に立たなければいけない。

■適切な関係者がリスクを負担
 リスクの蓋然性とリスクが顕在化した場合の影響力の検討も必要である。特に蓋然性よりも影響力の方が重要である。蓋然性は高いが影響力が小さいリスクより、蓋然性は極めて低いがプロジェクトを崩壊させるような影響を与えるリスクの方がより危険である。  一般的には、事業そのものの継続を左右するようなリスクに着目する。同時に、リスクの顕在化を防ぎ、顕在した場合の救済と修復のあり方を多層的に考慮することが契約の実態である。契約では、守りを二重、三重、四重にしておかなければならない。  リスクを評価する最初のステップは、プロジェクトを取り巻く不確実な要素を正確に把握し認識することだ。2番目はリスクの定量化である。定量化できなければ定性的な価値を把握する。それに付随して、影響力を評価し、リスクのコストを評価すると同時に対処手法を考える。  次に、リスクを管理できる能力を評価する。どういう分担者であれば、リスクを分担できるか考える。リスクの顕在化を防ぐ能力とともに、顕在化した場合に対処できる能力と財政的な帰結を担える能力がなければ、分担しても意味がないからだ。

■重要な「リスクの絶対値の総量」
 巨大事業の場合、リスク・エキスポージャーを考える。エキスポージャーとは、一定のプロジェクトに関与することにより、一企業が晒されるリスクの絶対値の総量である。これには、金銭的エキスポージャーと法的エキスポージャーがある。
 法的エキスポージャーとは契約行為に基づく法的義務である。これが重要な理由は、最終的に金銭の問題になるからだ。常に法的義務を金銭価値に換算して計算しなければいけない。しかし、金銭的エキスポージャーの一部は法的なエキスポージャーに転換できる。事業者と金融機関がよく使うテクニックであり、金銭債務が法的義務に転換するわけだが、どちらが有利かは秤にかけなければいけない。
 プロジェクトの関係者はいずれも、不必要なエキスポージャーを取ってはいけない。スポンサーが抱えるエキスポージャーは、融資契約締結直前に最大化し、融資契約締結とともにその最大値が確定する。だから、事業者の立場から見たリスク管理の目的と志向は、金銭的、法的エキスポージャーの総体の最小化を図って案件を実現・推進することと、リスクのオフバランス化を図ることである。
 この時、プロジェクトがリスクを支える構造にしなければならない。スポンサーに対して法的・金銭的義務が遡及しない構造を志向すべきである。

■デフォルトが判断のボトム
   リスクの判断基準のボトムラインは、事業がデフォルトに至った場合の企業の最大損失額である。その場合のエキスポージャーの総額は、投融資、保証債務、債権、損害賠償などの合計となる。
 注意すべき点は、プロジェクト・ファイナンスを志向する場合、融資銀行団が融資契約上課すデフォルトと公共主体が民間事業者に課すデフォルトと二重にあることだ。通常、融資銀行団が課すデフォルトの方がより厳格な規律になる。
 事業権契約上のデフォルトは融資契約のデフォルトを誘発するが、融資契約上のデフォルトは必ずしも事業権契約上のデフォルトを構成しないことがある。この最悪のリスクをどうプロテクトするかがリスク分担の基本だ。
 だから思考パターンは、まずボトムラインのリスクのあり方が最優先事項となる。次に影響力の大きいリスク要素から段階的に措置を検討する。
 プロジェクトの開発は、法的エキスポージャーと金銭的エキスポージャーを積み上げていく行為だ。エキスポージャーのマキシマムがほぼ見えるのは事業権契約と融資契約を締結した時点だ。最大理論値がここで確定する。その後の建設段階に資金を投入し、施設が完成した時点でリスク・エキスポージャーが実際値として確定する。
 このようにリスクは時系列的に変化するし、主体によっても受け止め方が変化することを考えると、リスク分担のあり方は二次元ではなく三次元であるべきだ。単純なリスク分担では、時系列的に変化する実体経済のダイナミズムに対応できない。また、環境の変化に対応できるリスク分担を考えなければならない。
 契約をデザインする際は、リスク分担者におけるリスクの受け止め方を把握することが重要だが、状況に応じて契約当事者の認識は変化する。そこで契約をデザインする際は、プロジェクト関係当事者のモチベーションを把握し管理するような契約構造にしなければならない。プロジェクト関係当事者が事業を継続できるようにする行動パターンを取るように契約的規律をデザインし、リスク分担を図ることだ。その前提がリスクとリターンの相関関係でもある。
 リスク分担の取り決め方の手法は、契約上の権利義務関係である。契約的規律とはリスク分担を具現化する手段であり、契約事項とはリスク分担以外の何ものでもない。なかでも重要なのは、価格の取り決め方と支払い条件のあり方で、これが規律の基本だ。

■官民のリスク分担の基本
 公的部門にとって、公共性と公益性が非常に特徴的な判断基準になる。事業リスク分担の根本は、公的部門と民間PFI事業者のリスク分担である。その際に注目すべきは、「デフォルト」「治癒・修復」「救済」についての総合的なあり方と、その実現と執行のあり方である。
 官民のリスク分担の基本は、民間では取れないリスク、あるいは民間がリスクを担った場合に費用的に高くなるリスクを民間が分担すべきではない。ただし、管理できるリスクは積極的に分担するということに尽きる。
 民間によるリスク分担は、費用と時間が有限的であることが前提となる。ただし、合理的な判断により、そのリスクが管理できる場合はこの限りではない。この判断は微妙だ。
 プロジェクトの資金は通常、資本金と銀行団からの融資の組み合わせである。ただし、万が一、資金が足りなくなった場合は、誰が追加資金を出すかを銀行団と取り決めておく。スポンサーの最大の金銭的エキスポージャーは、追加出資分を含めた総額になる。
 資本と負債のリスク分担のあり方を考えると、負債(銀行)はリスクの管理主体ではありえない。ただし、リスク管理の枠組みの創出と規律遂行を厳格にモニターする。
 銀行は与信リスク(デフォルト・リスク)を取るが、それ以外のリスクは基本的にプロジェクトとスポンサーが取るのがプロジェクト・ファイナンスである。それを実行するために、融資銀行団は、プロジェクト・キャッシュフローをコントロールすると同時に、事業主体、出資者、プロジェクト関係者をコントロールする。これも大きなリスク分担の考え方のひとつである。
 注意しなければならないのは、資本と負債のパーセンテージである。負債のパーセンテージが高い、すなわち資本にとってレバレッジの高い構造は特有のリスク分担をもたらすからだ。負債の比率が高いと、キャッシュフローの大半を元利金返済に充当しなければならない。そこで、銀行団はキャッシュフローをネガティブにするあらゆる変動リスクをプロジェクトとスポンサーに押しつける形でリスク分担を考慮する。
 また、銀行団は、事業主体の全キャッシュフローを管理し、資金の使途と優先度を明確に規定するなど、キャッシュフローを減少させないようにさまざまな手法を組み合わせた対策をとる。これがプロジェクト・ファイナンスの典型的なパターンである。



PFI研究コース

テーマ/「リスク評価とマネジメント手法」
講師/美原 融
   (株式会社三井物産戦略研究所 プロジェクトエンジニアリング室長)
コース指導
山内 弘隆 (一橋大学商学部教授)
大江 匡 (建築家/株式会社プランテック総合計画事務所代表取締役)
大島 邦彦 (株式会社熊谷組PFIプロジェクト部グループ部長)
日時/2000年6月9日
会場/アカデミーヒルズ(アーク森ビル36階)


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