■PFIは社会を変える
英国のPFI事業と日本の現状

植田 和男
日本PFI協会専務理事/民間資金等活用事業推進委員会専門委員



 日本PFI協会専務理事、植田和男氏を講師にお招きして、英国のPFI事業の現状を日本と比較しながらお話しいただいた。同協会は、PFIの普及啓蒙と政策提言を目的に1999年9月2日に設立されたNPO法人であり、関連する情報の収集・発信を精力的に行っている。今回の講義では、英国と日本の公共事業の違いや、プロジェクト・ファイナンスの重要性など、PFI事業を進めていくうえでの基本的な注意点や課題が明らかになった。


■プロジェクト・ファイナンス
 日本企業が海外で行ってきたプロジェクトに関わった経験から、発展途上国において日本政府の金融支援によって建設された立派な産業施設が稼働していないというケースを目にしてきた。また、日本政府が外国に融資しても、砂地に吸い込まれる水のように消えてしまうというケースも散見される。なぜ、こうした無駄が行われているのだろうか。
 これは、投下した資金が、間違いなく当初の目的を達成して戻ってくる仕組み、つまり、「プロジェクト・ファイナンス」という考え方がなかったからに他ならない。海外ではこうした反省からプロジェクト・ファイナンスを導入している。
 しかし、日本では未だにスタンダードなプロジェクト・ファイナンスは実現していない。たとえば、公共部門に投下された税金が本当に効果的に使われてきたのか評価し、その結果を納税者に公開する仕組みがないのである。
 今、日本は、国、地方自治体、さらに財政投融資まで含めると、1,000兆円を超す資金がリターンの保証なしに公共部門に流れている。投下した資金が間違いなく返ってくる仕組みを導入しなければ、日本の財政は遠からず破綻してしまうだろう。
 外圧でPFIが脚光を浴びているが、財政難を乗り越えるためにも、日本に本格的なプロジェクト・ファイナンスの考え方を導入して社会の仕組みを転換するためにも、PFIの導入が期待される。
 PFI(プライベート・ファイナンス・イニシアティブ)とは、支出額に対して最も価値の高い公共サービスを提供すること(VFM/バリュー・フォー・マネー)を基本原則として、公共施設などの設計、建設、維持管理、運営に、民間の資金とノウハウを活用し、民間主導で公共サービスを提供する仕組みである。
 また、これは、公共部門を突破口にして、投下した資金が対象資産やそのキャッシュフローで返還できることを基本としたプロジェクト・ファイナンスを、日本に本格的に導入する仕組みとしても大いに期待される。  

■英国PFIの状況
 PFIは英国で生まれた。もっとも、PFIが誕生したきっかけは、サッチャー前首相が来日した際、日本の道路公団の仕組みに着目し、この仕組みを英国の公共事業に導入する研究・開発を命じたためといわれている。その意味では、PFIの種は日本にあったわけである。
 ともかくも、英国は小さな政府を実現し、公共部門と民間部門双方の国際競争力を高めるため、公共事業の民営化、エージェンシー化、アウトソーシング、PFI、PPP(パブリック・プライベート・パートナーシップ/ 官民協力)を進めた。
 先の3つは外部への丸投げ型だが、PFIとPPPは財政的な手法と民間の効率的経営の手法を政府に取り込むことを目的としたものだ。
 現在、英国のPFI事業は、契約調印件数250件以上、契約資産総額は約3兆円を超え、公共事業予算の17〜18%を占めている。PFIの導入で、公共サービスのVFM の推定値は平均17%に達しており、十分な効果を上げているという。

■日本でも1999年法律成立
 日本では1999年7月に議員立法で通称「PFI推進法」が成立し、同年9月に施行された。
 PFI事業の仕組み(図表1参照)で重要なことは、それぞれの関係者が同レベルでPFIを理解し、リスクを調整・分担することだ。どこかひとつ欠けていてもうまくはいかない。特に重要なのは「住民がその公共サービスを必要としているか」という視点である。PFIは、あくまでも公共サービスのVFMを達成する選択肢のひとつであり、主役は公共部門であることを忘れてはならない。
 なお、2000年に入ると、PFI推進法を補完する形で「基本方針」と「自治省通知」が出され、法的な整備が進んだ。自治省通知では、PFI 事業を推進するうえで3つの重要なポイントが明示された。
 第一は、法律に基づくPFI事業に従来の公共事業と同様の財政支援が約束されたこと。
 第二は、民間による公共サービスの提供が特例として認められたこと。
 第三は、PFI事業者が公共サービスを提供する際、公有財産を行政財産から普通財産に変えて利用できることが明示されたことである。
 こうした点が明らかになったことで、自治体などがPFI事業を積極的に検討するようになっている。

■PFIと第三セクター
 ここで、PFIと第三セクターの違いを整理しておこう(図表2参照)。
 PFIと第三セクターの違いが正確に理解されていないために、第三セクターに対する融資で痛い目にあった金融機関の多くが、PFIに対して及び腰になっているところが多いからである。しかし、PFIと第三セクターは全く異なる仕組みなのである。
 第三セクターは公務員が経営する民間事業だが、PFIは民間事業者が経営する公共事業である。PFI事業の経営責任は民間がとるが、その目的が公共サービスである以上、行政も事業存続に責任がある。だから事業が継続できるような事業計画を民間と共に考え、そうした契約を結ぶ責任がある。
 もうひとつの大きな違いはモニタリングである。
 第三セクターの場合、行政は会計上の処理が正しく行われているかをチェックをするだけだが、PFIの場合は経営モニタリングを行う。つまり、今、起きていることが、今後の経営にどんな影響を与えるかを監視するわけである。
 契約時に想定したキャッシュフローなどが達成されていない場合は、その原因をレポートさせ、改善を図る対策案を要求し、それが不可能な場合は、事業会社の入れ替えも検討する。PFI事業の目的が公共サービスの安定的、効率的、継続的な提供であるからだ。

■動き出したPFI事業
 現在までに報道されている日本全国のPFI案件は61件(2000年3月末時点)。地方自治体の財政困窮と地方分権という両輪によって、PFI導入の土壌が整っている。また、これら61案件は、自治省の通知以前に報道されたものであり、自治省通知などで法的な課題がかなり解決されたことから、今後は積極的に取り組む自治体がさらに増加するものと思われる。
 また、日本のPFI案件をみると、国よりも地方自治体の案件が圧倒的に多いことに気づかれたかと思う。これは、公共サービスの約8割が国の事業という英国と比べ、日本の公共サービスの約8割が地方自治体によって実施されていることに由来している。
 英国と日本の大きな違いであり、英国のPFIが比較的スムーズに進んでいる理由のひとつも、こうした構造にある。つまり、相手が国だから、PFI事業者や金融機関は安心して契約を結ぶわけである。
 それに比べて日本の場合は、契約する相手が地方自治体であり、国に比べれば与信リスクが高いという課題がある。地方自治体がいかにPFI事業に積極的でも、参加する民間事業者や民間金融機関が現れない限り、動きはとれないのが現実である。

■英国のファイナンス
 では、英国PFI事業におけるファイナンスはどうなっているのだろうか。
 たとえばロードハム・グレンヂ刑務所の場合、約74億4,000万円の資金のうち、出資者が約4,000万円、スポンサー劣後債が約12億円(固定金利13%p.a.)、残り約62億円が銀行融資である。
 目敏い人は、スポンサー劣後債の固定金利の高さに驚かれたかもしれない。しかし、PFI事業の目的はVFMの達成であり、それが達成されれば、融資金の金利はリスクとリターンの間で自由に設定すればよいという考え方である。
 また、重要な点はプロジェクト・ファイナンスに関する契約のプロセスである。PFIはプロジェクト・ファイナンスであり、貸した金が必ず返ってくるように関係者全員で仕組みを練り上げていくところがミソである。英国では、PFIに関わる全契約内容を付け合わせ、リスクを検討して穴を埋め、最後に関係者が一堂に会して、同時に契約書に調印する。
 日本ではPFI事業契約を結んでから、借入契約などの契約を結ぶことが多いが、プロジェクト・ファイナンスの世界では本来ありえない話である。
 なぜならば、関係者が同じレベルでPFIを理解し、公共サービスを持続的に提供できるように事業計画や契約を組み上げ、リターンを確実なものにしない限り、どの契約も安心して結べないはずだからだ。この点は今後軌道修正が必要であろう。
 PFIの契約は長期であり、内容も包括的で複雑であり、従来の公共事業の契約とは重みが違う。PFI事業に関わる行政も民間企業も金融機関も、契約の重みを肝に銘ずる必要がある。

■PFI事業会社の格付け
 現在、日本ではPFI事業会社の格付けの準備が進んでいる。格付けによって、地方銀行や資本市場から直接資金調達ができるようにするためだ。格付けをきっかけに、PFI事業が適切に行われるよう、行政の意識を変えるきっかけとなることを期待したい。
 今ほど公共事業の透明性が求められている時代はない。情報開示は痛みも伴うが、行政は試練を乗り越えて変革してほしい。
 一方で民間企業もプロジェクト・ファイナンスの考え方を取り入れ、もたれ合いやぬるま湯的な体質を転換していかなければならないだろう。



PFI研究コース

テーマ/「英国PFIの導入状況と事例」
講師/植田 和男
   (日本PFI協会専務理事/民間資金等活用事業推進委員会専門委員)
コース指導
山内 弘隆 (一橋大学商学部教授)
大江 匡 (建築家/株式会社プランテック総合計画事務所代表取締役)
大島 邦彦 (株式会社熊谷組PFIプロジェクト部グループ部長)
日時/2000年5月19日
会場/アカデミーヒルズ(アーク森ビル36階)


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