|
■不動産価格はどのように決まるのか
市場特性と価格形成のメカニズムを考える 前川 俊一 明海大学 不動産学部教授/経済学博士 |
|
|
| ||
|
不動産の取引価格の形成プロセスには不透明な部分が多い。分譲マンションのように原則的に定価販売の形をとるものは別として、都心の土地売買などは相対取引で行われ、取引情報もオープンにされることは少ない。こうした不完全市場で買い手と売り手はどんな行動をとるのだろうか。前川氏は、不透明な市場での価格形成プロセスやそのポイントを示した。まず、不動産とその市場の特性を整理し、ゲーム理論を用いて理論的に明らかにしていく。 ■はじめに 不動産市場は経済学のファンダメンタルモデルでは解明できない部分が多い。不動産の特性と不動産市場について整理し、不動産価格がどのように形成されるかを考えてみよう。また、不動産市場に登場する売り手(供給者)や買い手(需要者)の行動原理や留保価格についても考える。 経済学では、需給ギャップの調整によって価格が決まるという完全な市場、ワルラス型市場を考える。しかし、競り人がいて価格が形成されていくようなワルラス型市場は、現実社会では比較的少ない。証券市場や農産物市場がそのひとつである。 現実に多い市場としては売り手が定価を設定する定価市場や、売り手と買い手の交渉によって価格が決まる交渉市場がある。定価市場になるか交渉市場になるかは、交渉による利益と交渉にかかるコストによって決まる。 たとえば、情報が行き届いた完全な市場であり、たくさんの売り手と買い手がいれば、交渉によって価格が動きにくいため定価市場が成りたつ。一方、交渉相手が少なく、情報も不完全な市場は交渉市場となりやすい。 ひとくちに不動産市場といっても、中古住宅の流通市場、新築住宅の分譲市場、都心商業地の市場などによって、市場特性や価格形成のプロセスは異なる。しかし、基本的には不動産市場は交渉市場であるといえるだろう。 ■不動産の特性と市場 不動産の特性は次のようになる。
その原因は情報の不完全性によるところが大きい。不動産の個別性、プライバシーの問題、都心商業地などのように類似の不動産が少ないことなどから、取引市場の範囲が相対的に狭くなり、また、取引内容がオープンにされないため、情報は不完全になりやすい。 ■不動産市場の情報の流れ 不動産市場の情報は、次の3つに分類される。
2は地域の不動産価格水準や価格変動、賃料水準、賃料変動、需要・供給の量と質、需要者・供給者のタイプ、空室率などの情報がある。 3の個別物件に関する具体的な情報としては、取引価格や評価額、賃料、供給物件の売り希望価格や立地・形状・建物の質、供給物件数、買い希望者に関する情報などがある。 次に情報がどのように形成されていくかをみてみよう。まず、一般的に社会・経済・制度の変化が原因となって、不動産市場の環境に関する情報が形成され、それが不動産市場に影響を与え、市場の一般情報となって伝達されていく。それがまた個別の物件に影響を与え、個別物件の取引結果に表れる。その取引が、社会・経済・制度に影響を与えるというように、同じプロセスが繰り返される。 ■情報の非対称性と市場特性 社会・経済・制度などに関する情報はマスコミなどによって報道されるため、誰もが比較的容易に入手することができる。しかし、その受信能力や情報の分析能力は各主体によって異なる。 一般的にいえば、大手企業のほうが一般個人より情報の受信能力や分析力が高く、情報の非対称性が見られる。 特に価格の変動期は、変動の情報が行き渡るまでの間に各主体の情報格差が大きくなる傾向がある。これによって売り手と買い手の留保価格のギャップが大きくなり、結果的に取引価格のバラツキが大きくなる。 留保価格とは、需要者(買い手)であれば、その不動産を買ってもよいと考える上限値であり、供給者(売り手)であれば、その不動産を売ってもよいと考える下限値のことである。 不動産市場に関する一般的な情報についても同様の傾向が見られる。公的機関や民間の調査機関が公表しないかぎり、市場に精通している専門家や市場の分析者などしか得られない情報が多い。 個別物件の具体的な情報も、取引情報を公開するシステムがないことやプライバシー保護の問題などから、情報はオープンにされていない。個別情報に強いのは地域密着型の中小不動産会社であり、一般の人々にはほとんど流れない。 このように、不動産市場は不動産の特性から必然的に交渉市場となる。 また、情報の流通の不完全性から各主体間の情報の格差が生まれやすい市場となる。 ■交渉価格決定のポイント 交渉市場では、第一に売り手と買い手双方の留保価格がポイントになる。買い手の留保価格が売り手の留保価格を下回っていれば、交渉は成立しない。買い手の留保価格が売り手の留保価格と同じか上回っていれば、交渉が成立する可能性がある。 次に影響を与えるのは、交渉相手の数である。新しい交渉相手を見つけるチャンスがどのくらいあるか、また、新しい交渉相手を探すコストがどのくらいかかるかが取引価格が形成されるうえでのポイントになる。 つまり、住宅市場のように比較的物件数が多い競争型市場であれば、新しい交渉相手と巡り合うチャンスが多いし、新しい交渉相手を探すコストも比較的少ない。こうした場合は、交渉を中断して新しい相手と交渉するという行為に出る可能性が高い。 しかし、都心商業地の不動産取引のように交渉相手が少なく、新しい交渉相手を探すことが難しい場合は、最初に巡り合った相手と交渉を継続したいと考えるだろう。 経済学では交渉相手が多く、サーチコストもゼロという完全市場を想定しているので、ひとつの価格に収斂する。しかし、都心商業地のような不動産市場は、比較的交渉相手が限定されていて、しかも新しい相手に巡り合うコストもかかるため、最初に誰に出会うかがポイントになり、取引価格のバラツキも大きくなる。 第三に、情報の完全性が交渉に影響を与える。端的に言えば、情報が不完全であればあるほど取引価格にバラツキが出る。 不動産市場の環境を巡る情報や不動産市場に関する一般的な情報、個別の具体的情報が不完全であれば、各主体(売り手や買い手)の留保価格のバラツキは大きくなる。また、交渉相手に関する的確な情報(留保価格など)を持たないで交渉する場合は交渉が長引き、時間コストが増加する。そして、こうした情報が不完全な市場では取引価格のバラツキは大きくなる。 不動産市場の取引価格はこうした特徴を持っているため、取引価格を一点に絞ることは難しく、価格帯として見ることが妥当である。不動産鑑定など第三者が市場を分析する際には、どんなプレイヤーが登場し、どんな留保価格を持ち、どのように取引が進むかを分析することが重要である。 ■留保価格はどう決まるか では、不動産市場に登場する売り手や買い手の留保価格はどのように決まるのだろうか。 まず、買い手(需要者)が自己使用を前提とした場合の留保価格は方程式で表される(方程式は略す)。 各需要者の留保価格のバラツキは収益予測の違いや、リスクの捉え方および対応方法の違いによってリスクプレミアムレートが異なり、対象不動産への投資に対する期待収益率が異なるために生じる。 一方、供給者の留保価格は、保有を継続して自己利用したときの価値と、売却を選択したときの価値のどちらか大きいほうで決定される。 前者は前出の需要者の留保価格とほぼ同様に算出される。 後者の売却を選択したときの価値は、不動産市場で成立している取引価格や将来予測、さらには需要者の留保価格の予測に基づいて算定される。 なお、農家などで土地保有を継続する傾向がまだまだ強いのは、取引・移転コストに加えて精神的コストが付加するからである。住み慣れた地域を離れたり、先祖伝来の土地を手放す苦痛、職業を変えて新たな仕事に就くことへの抵抗などの精神的コストなどが大きいため、保有を継続した場合の価値が相対的に大きくなり、なかなか売却に踏み切れない。このように精神的なコストも考える必要がある。 不動産評価コース
テーマ/「日本での公募事例の研究」 |
|