| 多元的な社会の構築に向けて進め
挑戦する機会があれば、デジタル・ディバイドは怖くない 竹中 平蔵 慶応義塾大学総合政策学部教授 |
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「日本の前にはフロンティアが広がっている。だからこそ真の政策を考える人間を育てたい」という竹中平蔵先生の思いから「アカデミーヒルズ・ジョージタウン大学 森特別講座」がスタートした。このプロジェクトに寄せる思いや、経済戦略会議で提言した「健全な競争社会」を実現し、日本が世界から敬愛される国家となるために取り組むべき課題などをうかがっているうちに、何が竹中先生を突き動かしているのか、尽きせぬ竹中パワーと魅力の源泉を発見した。インタビュー後半に、その答えが隠されている。
----- アカデミーヒルズとジョージタウン大学との日米テレビ会議※1のすでに4回を数えますが、このプロジェクトの意義をどのように捉えていらっしゃいますか。 ※注1/「アカデミーヒルズ・ジョージタウン大学 森特別講座」/日米の政策担当者やオピニオンリーダー、次世代の政策を担う人々が、テレビ会議を通じてホットな問題を取り上げ、意見を交換する民間レベルの国際会議。2000年2月から2年間にわたり、定期的に開催されている。アドバイザーに電通総研研究所長の福川伸次氏とジョージタウン大学学部長のロバート・ガルーチ氏を迎え、テーマや人選は竹中平蔵教授とジョージタウン大学のマーク・メイソン助教授が軸となって進めている。 竹中 ---- 日米の政策担当者が問題意識を共有し、民間レベルで知的交流をしていくことの重要性はもちろんですが、テレビ会議という新しいメディアによって、フェイス・ツー・フェイスに近いコミュニケーションが可能かどうかという点に大変興味がありました。 もし、これが可能ならば、国際会議や国際交流が日常化し、意識の継続が可能になる。ここに今回のプロジェクトの大きな意義があります。 ----- 感触はいかがでしたか? 竹中 ---- よく知っているメンバーが多いということもありますが、「やあ!元気?」って感じで、本当に相手がその場にいるような感覚で話し合えましたよ。br> ----- では、国際交流の可能性が広がりますね。 竹中 ---- ただ、日本社会は「その場にいること」を重視する傾向が強くてね。すぐに「紙(書類)を出せ」、「印鑑を押せ」、「会いに来い」。これがtエコノミー(伝統的な経済)の三種の神器なんだな(笑)。 日本の取締役会の出席の定義って「その場にいること」なんですよ、商法で決められている。大学の授業もテレビ講義は出席と認めない。時空間を超えて双方向のコミュニケーションができるメディアができているのにね。こうした概念を打ち破る試みとしても、今回のプロジェクトは大きな意義があります。テレビ会議が有効なことが実証されたから、どんどん多元的に展開したいですね。慶應と海外の大学と結んでテレビ会議による国際授業を行うことも夢ではない。 ----- 公的な外交ルートだけでなく、民間レベルの国際交流が増えるといいですね。元郵政大臣の野田聖子さんがアカデミーヒルズで講演されたとき、日本の外交は絶望的だ、国会会期中は重要な国際会議にも出席できない、大臣は英語ができない、国際会議もトンボ帰りで本音の会話をしていない、と嘆いていました。 竹中 ---- 日本では外交一元化といってね、他国へ文書などを送るときは全部大使館を通せ、という時代錯誤のルールがあるのですよ。国としての最終的な意思決定はひとつでなければいけませんが、そこに至るプロセスでは多元的な交流が必要です。国家、政治、企業、個人レベルの多元的な交流があり、多元的な価値観を認める社会こそ本当に強い社会であり、豊かな社会なのです。 ----- 同感です。生き方を選べて、どちらが上だ下だと決めつけない社会がいい。 竹中 ---- そうです。日本はなんでも国家が決めてきた。生き方を決めるのは個人であって国家ではないはずです。実際これだけ価値観が多様化してくると、国のいうことってどこか胡散臭く感じられませんか。選挙公約なんてネガティブなことは一切いわないから、誰だって「嘘でしょう」って(笑)。 ----- その点、経済戦略会議の提言はネガティブ情報も隠さず書かれていたので説得力がありました。でも、政権が変わるとどうなるのだろうと懸念もあります。 竹中 ---- 閣議決定されていませんからね。ただ、私は閣議決定しなくてもいいと思っている。なぜなら、閣議決定という足かせをはめられれば、国の方針と矛盾したことは一切書けない。政府が正式に決めることとは別に、民間から政策提言できることが重要なのです。これが多元化であり、民主主義です。社会の意思決定はカオスの中でなされるもの。官僚がつくった政策しか選択肢がない社会ではいけません。 大体、今まで霞が関には本当の意味での政策を考える必要はなかった。欧米に追いつく政策なんて誰でもわかるのですから。だから政策立案の専門家が育つ土壌がなかったのです。しかし、これからは違う。我々の前にはお手本のないフロンティアが広がっています。その中で、日本をどこに引っ張っていくのかという難しい局面を迎えています。やっと真の政策の専門家が必要な時代が来たのです。 ----- 今回の国際会議も、そうした専門家を育てるためなのですね。 竹中 ----- そうです。日本のフロンティアを切り開くリーダーが育ってほしい。梅原猛氏が『将たる所以』の中でリーダーの条件を挙げています。第一は将来を自分の目で見通すことができる人、第二はその構想を組織の構成員に伝えることができる人、第三は皆が頑張ったとき、その労が報われるような組織をつくる能力を持った人。リーダーには先を予見して、仕組みをつくる能力が必要なのです。 ----- 今までのように「黙ってついて来い」では駄目。 竹中 ----- ええ。異なる考えの人々を率いるには忍耐力も必要です。若い世代を観察していると「別に……」という言葉が耳につく。他人のことに無関心、無感動なんですね。ところが自分の領域が少しでも侵されると「ムカついて切れる」。これじゃ困る。だって国際社会には「ムカつく」ことばかりなんですから(笑)。私は学生たちに言うのですよ、「ムカついて切れるような人間は大学に来るな」とね。忍耐力がなければ国際交流はできません。 ----- インターネットが若者を変えるかもしれません。 竹中 ---- ええ、現実に世界に羽ばたくワカモノが増えてきました。半面で、すぐムカついて切れるバカモノもいる(笑)。この格差はますます開くでしょうが、これも多元化です。格差が悪いのではなく、格差が固定するのが悪いのです。日本は格差の少ない社会といわれていますが、半面で格差の固定化が進んでいる。たとえば、東大の学生の親の年収は他の大学より明らかに高い。階層化が進んでいるのです。 そうそう、先日、ある会議でソフトバンクの孫正義氏、ヤフーのジェリー・ヤン氏、シスコ・システムズのジョン・チェンバース氏、アマゾン・ドットコムのジェフ・ベソス氏とテーブルを囲んだとき、私は思わず心の中で叫びました。「わっ、これこそデジタル・ディバイド(情報化に伴う経済格差)だ!」ってね(笑)。彼らの資産は何兆円、しかるに私は……ですから。しかし、自分自身が選んだ道ですし、変わる可能性もある。デジタル・ディバイドを恐れることはありません、デジタル・オポチュニティ(機会)がある社会にすればよいのです。 ----- 米国にはデジタル・オポチュニティがある。この米国ひとり勝ち状態に日本が一矢報いるには? 竹中 ---- 日本社会も個人もソフトパワーをつけること。ソフトパワーとは、武力とか経済力といったハードパワーに対する言葉で、「引きつける力=魅力」といった意味です。1990年代にハーバード大学のジョセフ・ナイ教授が提唱しました。米国はかつて武力と経済力で世界を制覇し、日本は経済力で大国となりましたが、力の源泉はどちらもハードパワーでした。 しかし、武力や経済力を持たない国、たとえばスイスとか香港とかシンガポールといった国は生き残るためにソフトパワーを磨き、国際社会の中で重要な地位を築いた。いずれも小国ですが、例外があります。それが米国。米国は大国でありながらソフトパワーの重要性に気付き、この力を磨いたから強いのです。 ソフトパワーは知的パワー、情報のパワー、プロフェッショナルのパワーです。知的パワーとしては大学が挙げられます。米国に素晴らしい大学があるから、世界各国から次世代のリーダーを目指す人材が集まってくる。 情報力を示す例としては、世界中の要人がCNNニュースを見ているという事実が挙げられます。CNNは米国の民間放送局ですが、結果的に米国の価値観や論理を世界に流布する原動力になっている。 3つ目のプロフェッショナルのパワーについても、米国には資本主義や民主主義を支える人的なインフラが豊富です。これは大きな力です。たとえば中国で会計基準をつくるとき、米国の国際公認会計士が大挙して押し寄せた。東欧にも米国の経営コンサルタントが殺到して米国式の経営を教えた。ロシアの都市計画にさえ米国の専門家が参加している。国連やWHOで国際紛争の調停案を書くのは米国の弁護士です。国際政治はもちろん、他国の経済やビジネスの仕組みづくりを米国の専門家が支援しているのです。これらのソフトパワーが米国の力の源泉となっています。 ----- これじゃスパイなんて必要ないですね(笑)。私たちはどこから始めればよいのでしょう。 竹中 ---- やはり教育。教育改革は必須です。いろいろな方法があるけれど、欠かせないことは教育にもっとお金をかけること。日本の教育費が高いなんて嘘ですよ。米国のアイビーリーグの大学の授業料は年間約300万円、慶應大学は100万円くらい。3分の1なんですよ。コメに国際価格の5倍も10倍も払う国民が、教育には米国の3分の1しか払っていない。 もちろん教育の中身も変えなければなりません。日本の新しいビジネスリーダーの大半が米国のビジネススクール出身という事実を見ても、日本式の知識の詰め込み教育や習熟型の教育では世界に通用しないことは明白です。「新入社員は雑巾掛けから」なんてやり方ではいけない。習熟も大切ですが、これからは新しいビジネスモデルを創造する能力を育てる大学教育、社会人教育が不可欠。入試制度やカリキュラムも見直すべき時です。 ----- 米国ではどんな方法をとっているのですか。 竹中 ---- 米国の大学は優秀な人材をとるために莫大な時間と金を費やしています。各州にアドミッションオフィスを置き、ハイスクールと密接に情報交換をして優秀な人間を探している。ある分野に突出した才能を持っているとか、非常にリーダーシップがあるといったふうに、学力だけでなく全人格的に判断します。ジョン・F・ケネディは高校時代の成績が中くらいでしたが、どこにいても彼は中心的存在だった。ハーバード大学はそのリーダーシップを買って彼を入学させたのです。 慶應大学でもこうした方式を取り入れています。一般入試と比べるとコストも時間もかかるけれど、入学後の成績はアドミッション方式で選んだ学生が一番伸びている。一般入試の方法も、一部をパソコンや携帯電話の持ち込みを認める方向で検討しています。我々が欲しいのは知識を丸暗記する能力より、考える能力や意欲を持った学生なのですから。 ----- 最後にご自身のビジョンをうかがいたい。ちなみに一橋大学のイノベーション研究センター長の米倉先生は、本を3冊書き上げたらロックシンガーとしてCDデビューしたいとおっしゃっています(笑)。 竹中 ---- いいですねえ。私もCDデビューを狙ってますよ。ロックじゃなくニューミュージックですが(爆笑)。 ----- わあ、アコースティックギター抱えて? 竹中 ---- 当然でしょう(笑)。そのほかにも実は3つほどやりたいことがあるのですがね。ひとつは、政策研究という概念を日本に定着させたい。もうひとつは経済学を社会教育として広げていくことです。 ----- 『経済ってそういうことだったのか会議』※2を拝読しましたが、目から鱗でした。さまざまなメディアを通じて、多くの人に経済学の本質を優しく語ってくださる先生のような方がたくさん出てくると、日本人の意識も変わると思います。話の腰を折ってしまいましたけど、最後のひとつは何ですか。 ※注2/『経済ってそういうことだったのか会議』日本経済新聞社刊/だんご3兄弟で大ヒットを飛ばしたクリエイター、佐藤雅彦氏が、竹中平蔵氏に経済について素朴な質問をぶつける形で構成された異色の経済解説書。切り口や経済の本質をついた内容の面白さはもちろん、ユニークなタイトルや装丁も話題を呼んで、爆発的な売れ行きとなった。 竹中 ---- 実はね、手話をマスターしたいのです。 経済戦略会議で我々は「健全な競争社会の実現」を提唱しましたが、日本が自己責任を原則とした競争社会になったとき、ハンディキャップを持った人々こそ幅広い知識や情報が必要になります。そうした人々に、経済のこと、世界のことを手話で語りたいのです。 |
| 竹中 平蔵 講義目録 |
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■第25期 '01.1.10 3つのリスクと1つの可能性 |
| ■第24期 アカデミーヒルズインタビュー |
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■第23期 '98.6.22 痛みを恐れず金融正常化に舵を切れ |
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■第20期 '00.2.3 日本の金融ビッグバンを検証する |
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