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■ビジネスの宇宙観が変わった
地動説のインターネットビジネス 松井 道夫 松井証券株式会社代表取締役社長 |
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インターネット株式投資のパイオニア、松井証券は手数料10分の1という価格革命で急激に業績を伸ばした。従業員170人強だが、4,000人クラスの証券会社をも凌ぐ実績を上げている。松井証券を率いる兜町の異端児、松井道夫社長は先見力と行動力、歯に衣を着せぬ発言でさまざまなメディアが注目する人物。米倉教授の先輩でもある松井社長を招き、松井証券のビジネスモデルやインターネットビジネスの本質をうかがった。
※編集部注/この授業は一橋大学イノベーション研究センター長・教授である米倉誠一郎先生のご指導のもと、一橋大学大学院生とアーク都市塾の塾生が協力して事前に松井証券の企業分析を行い、まず、松井社長の前でプレゼンテーションを行いました。その後、松井社長に自由にお話しいただき、質疑応答を行いました。これは松井社長の講義部分を要約したものです。 ■証券業界は天地逆転 今、証券業界は天地が逆転するほどの転換期を迎えている。1年前の予想より現実ははるかに先行している。ベクトルの方向性はほぼ正しかったが、ベクトルの長さがかなり違っていた。 米国は四半世紀も前の1975年に株式売買委託手数料を完全自由化した。最初の20年間はせいぜいディスカウントブローカーの出現があったに過ぎないが、この5年でインターネット株取引が急速に進み、いまや伝統的リテール証券会社はメリルリンチ1社が残るに過ぎないまで激変した。その結果、手数料は10分の1になり、一気に過当競争の世界に入った。日本でも1999年10月1日に手数料が完全自由化された。従来のやり方を続けている限り、証券会社のほとんどが潰れるだろう。 ただ、日本で実際に株式投資をしている人は300万人程度で、米国に比べれば約10分の1と微々たるものだ。インターネットで株取引をしている人はまだそのうちの20万人程度。しかし、今年中には50万〜60万人、2001年には150万〜200万人、2002年には全体の約8割がインターネット取引になると予想している。 さて、日本の大手、野村証券や大和証券はインターネット取引の口座数こそ多いが、稼働率が低くインターネットでの株式取引額では当社の10分の1である。手数料が(当社の)10倍なので、生きた顧客は松井証券に流れている。 なお、皆さんは、当社がコンサルティングをしないことや情報提供が少ないことを不安要因として挙げたが、それについて反論したい。賢い顧客は、ほかの証券会社がよい情報を提供していたら、それを参考にして注文は手数料の安い松井証券に出すだろう。インターネットではそれができる。 また、証券会社の営業マンに本当にコンサルティング能力があるだろうか。投資家自身がそんな甘い世界ではないことを知っている。これはコンサルティング自体を否定するものではない。こうした機能は別のセクターが行えばよいのである。我々は株式チャートを提供する会社や投資コンサルティング会社をベンダーとして受け入れ、当社の金融プラットホームの上で自由に商売をしてもらう。それを顧客が自由に選択するという形がもっともよいサービスを提供する方法だからだ。インターネットの世界では、選ぶのは顧客であり、顧客はナンバーワンしか選ばない。 そもそもインターネットは顧客を囲い込むことはできない世界だ。情報による囲い込みもできない。情報の価値(価格)も取引相手も、すべて顧客が決めるのである。 ■天動説から地動説へ インターネットの登場で、市場は供給者側の論理から需要者側の論理で動くようになる。 ある銀行の頭取が「これからはワンストップショップだ」といっているが、供給者側がナンバーワンを揃えて顧客に提供するという発想は、企業が主体で、その周りを顧客が回っているという天動説的な発想であって、過去のものだ。インターネットという宇宙では顧客が主体。企業はその周りを回っているいくつもの小さな天体の一つにすぎない。インターネットビジネスは地動説なのである。天動説から地動説へ、ビジネスの宇宙観をまったく変えなければならない。 米国企業もさまざまな失敗をしている。米国のオンラインブローカーは「価格競争の次には情報による差別化が来る」といって、アプリケーションによる差別化戦略をとった。顧客は、一時的にはそこに引き寄せられようが、次により良いアプリケーションが出現すると、これを見事に捨てる。これではかなわないのでアプリケーションのバージョンアップを図る。そしてまた捨てられる。捨てられればコストだけが残る。コストだけが先行して収入は常にその後。このビジネスモデルは敗者のビジネスモデルである。オンラインブローカーの大半が赤字なのは、当然の理であろう。これも「自らがナンバーワンをつくって提供する」という天動説から抜け出せなかったゆえの失敗である。 私は顧客を囲い込まず、誰からも囲い込まれず、ありとあらゆるナンバーワンと手を組んで商売をし、利益を分かち合おうと考えている。これこそ地動説である。莫大な利益は得られないが、リスクが少なく、サービスの質も確保でき、フレキシビリティが高い。ちなみにオンラインブローカーで利益を上げているのは日本では当社だけである。 ■実利が市場を変える マスコミは「松井証券はデイ・トレーダーを囲い込んでいる」といっているがこれは違う。日本には米国のようなデイ・トレーダーは皆無に近い。我々の顧客は50歳前後が中心で、手数料が10分の1という実利のために、仕方なくインターネット取引をしているごく普通の投資家である。自己責任で株式投資をしている洗練された投資家ではあるが、デイ・トレーダーではない。ちなみに年間の回転数は60回前後、取引回数は週に1回程度である。むしろ、他社の稼働率があまりにも低すぎるのである。 また、インターネットによって株式投資をする人口が爆発的に増えるというのも誤りである。まして、インターネットで若者の株取引が増えるなんて大ウソだ。運用資金がなければ株式投資はできない。我々はパイを広げるのではなく、価格革命を起こして大手証券から顧客を奪う。 インターネットビジネスの本質は価格革命であり、顧客の実利を伴わないようなものは本物ではない。 ■金融プラットフォーム 当社は現在、ファンドを扱っていない。扱っていないというより、扱わせてもらえない。我々が投資信託の手数料を1%にすると宣言したら、すべてのファンドからスポイルされた。投信会社からすれば、松井証券を入れることによって、他の証券会社が逃げてしまう危険を冒す決断がつかないのだろう。 現在の投資信託は、顧客より証券会社に有利な仕組みになっている。証券会社にとって投資信託はノーリスク・ハイリターンであり、実に美味しい儲け口である。証券業界は投資信託で年間1兆5,000億円あまりの手数料収入を上げているのだ。株投資信託の残高がせいぜい20兆円でこの手数料だ。リスクフリー金利が0.1%の時代にあって、これだけのリターンをノーリスクで得られる商売はない。世の中ではこれを称して虚業という。 私は革命を起こし、顧客の手数料をゼロにしようと思っている。我々の金融プラットホームはまだ3万5,000人程度だが、これが20万〜30万人の金融プラットホームになったとき、投信会社のほうから近づいてくるだろう。そうしたらお客様の手数料はゼロ、投資信託会社からは0.5%程度のプラットホームの場所代をとって投資信託を販売することができる。この価格革命は顧客に実利をもたらすので、必ず顧客から支持されるはずだ。 ■新事業展開の基盤 顧客が20万人を超えれば、この金融プラットホームを基盤にしてさまざまな新ビジネスが展開できる。 ヤフーのプラットホームと我々のネットストックのプラットホームでは大きな差がある。ヤフーのプラットホームは巨大だが、そこにやってくるのは単なる通行人である。いわば東京駅の改札の外を通りすぎていく人々だ。通行人を対象とするのなら、東京駅の外壁に広告を出すか、売店で雑誌を売るかといった稼ぎ方しかできない。 我々の金融プラットホームは、実際に口座を持って莫大な金額をプールしながら、日々株式売買を行っている投資家の集合体である。現在1日150億円の金がこの上で動いている。しかも株式取引で得た1,000万円と、汗水流して貯めた1,000万円では意味が違う。ネットストックは大変に大きな購買力を持ったプラットホームなのである。ここでベンツを売っても不動産を売ってもいい。ただ、そうした商売をするのは我々ではない。この魅力的なプラットホーム上で他社が商売をすればよい。それによって我々は場所代と決済、それに情報代を得る。 では、3万人強の顧客をどのようにして20万人30万人にするかだが、先に述べたように、インターネット取引の比率は今後急増する。ネット取引が300万人になったとして、その1割が松井証券を利用すれば、強力な金融プラットホームができ上がる。 米国企業の参入を懸念する人もいるが、今のところ彼らは失敗している。確かに米国企業は失敗を糧に徹底的に研究して、巻き返してくる力があるので侮れないが、現状では日本の株式市場が米国とは似て非なるものであることを理解していない。たとえていえば、今の米国企業は米国のスーパーハイウェイに相応しいポルシェをつくって日本の市場に乗り込んできたが、日本のハイウェイは途中で田んぼの畦道になっているので走れないといった状態だ。私はその点、四輪駆動をつくっているから怖くない。 他方、日本市場をよく知っている国内の大手証券会社は、失うものが多すぎて抜本的な革新が難しい。 ■IT革命の光と影 話は少しそれるが、最近、米国に行って感じたことをお話ししたい。IT産業による好況に沸く米国社会の光と影である。サンフランシスコの高級リゾートに田舎から出てきた成り金が集う一方で、ロサンゼルスの場末には、没落したホワイトカラーがうつろな目をしてたむろしていた。今までロアークラスといえば有色人種だったが、教養ある白人中産階級の没落が急激な勢いで進んでいるのだ。 20世紀の工業社会では、富の分配を巡る国家間の南北問題があったが、これからは、人種や国家に関わらず「頭脳による南北問題」が大きな問題になってくるだろう。知価社会では所得格差はかつてないほど大きく開く。これは日本人にとっては厳しい世界だ。知価社会では創造力が問われる。日本社会も日本人も規制に守られて自由を失っており、創造力で勝負する知価社会では没落する恐れがある。 今後は経営者と従業員の関係も一転し、雇用者と非雇用者、主と従という関係は崩れる。すでに米国の一部ではそれが起こっている。具体的にいえば、経営者は非雇用者に給料を提供するが、その額を決めるのは雇われる側だ。ただし年収1億円を要求すれば、非雇用者はその3倍の株を取得しなければならない。つまり、雇われる側もリスクをとるわけだ。この仕組みは雇われる側が雇用主を「買う」あるいは「評価する」ことに等しい。 こうなると経営者と従業員は、「知」を前提にした仲間、あるいは共同経営者という対等の関係になる。 こうした社会変化が日本やその他の国にも波及してくると確信している。 私は企業30年説ではなく、企業3年説であると思う。3年たって全く違った企業になっていなければ、それはトップの頭脳が時代からズレている証だ。経営陣が時代についていけなくなったら分け前をもらって速やかにハッピーリタイアするのが正しい。 第10回必修講義
テーマ/「兜町の異端児」 |
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