■e-ビジネスのチャンス到来
〜成功のビジネスモデルとは


吹野 博志  デルコンピュータ株式会社代表取締役会長
國領 二郎  慶應義塾大学大学院経営管理研究科教授 /
        慶應義塾大学ビジネススクール教授


國領 二郎
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今、私たちは数百年に一度のビジネスチャンスの中にいる。その起爆剤が情報通信技術とインターネットである。インターネットを活用した新しいビジネスモデルをどう評価し、行動すればよいのか、慶應義塾大学の國領教授にお話しいただいた。また、ダイレクトモデルという新しいビジネスモデルで成功を収めるデルコンピューターの吹野会長を招き、ビジネスモデルの根底にあるデルの企業理念をうかがった。


【國領二郎氏】
「新ビジネス起業のための視点」

■デジタルネットワークの効用
 デジタル技術によって情報の複製、加工、伝達のコストは劇的に低減することができるようになった。またインターネットによって、誰でも極小のコストで世界中に情報発信ができるようになった。今までにはなかったこのような新しい情報の流れによって、世の中の様々な仕組みが消費者主導型に変化しようとしている。企業においては階層が崩れ、将来、社会秩序全体が変化する可能性もあるのだ。
 ビジネスにおいても、テレビ、ラジオ、新聞などの高コストの既存メディアでは実現できなかったビジネスモデルが、インターネットの利用によって現実のものになっている。

■ビジネスモデルを体系化
 次々と出てくる新しいビジネスモデルを体系化すると、次の3つに分類できる。

   
1)情報の非対称性構造を変化させるビジネスモデル
 非対称性構造を変化させるとは、売り手と買い手など、取引主体の持っている情報の格差が大きい場合に、その格差を縮めることである。例えば、オートバイテルのような情報提供サイトは、車の基本性能はもちろんのこと、メーカーからディーラーへの出荷価格、車の陸送価格、ディーラーのリベート情報までも最終顧客に提供してしまう。ディーラーはサイトの運営費用を出し、このサイトから極めて購入率の高い顧客リストを手に入れ、営業経費の削減ができる。また、市場の中で迷子になっている需要と供給をマッチングさせる、e Bayのようなショッピング・オークションサイトもこのモデルに分類される。今後、この仕組みを物流トラック、余剰電力、建築機械などの需要と供給のマッチングに応用することにより、新しいビジネスの展開が期待される。
2)認知限界制約を緩和するビジネスモデル
 自分では手に負えないほど大量に与えられる情報の処理を、受け手が誰かに委ねるところに生み出されるビジネスがこのモデルである。消費者はネットで情報を探したり、ものを買う場合に、情報の大海の中を探す時間のロスやパスワードをたくさん覚えられないなどの処理能力の不足から、誰かに情報処理を委ねる行動に出る。そこに生まれるのがこのモデルであり、ポータルサイトもこれに当たる。
3)非物財的な特性を生かすビジネスモデル
 情報はものとは異なる情報のコスト構造を持つ。情報は、追加一単位の生産供給コスト(限界費用)が極めて低いという特性を持つ。このコスト構造を活かすところに生まれるのがこのモデルである。
 価格と限界費用が一致したところで市場は均衡すると言われる。米のメジャー紙のウェブサイトで、購読料モデルが維持できているのはウォールストリートジャーナルだけであることを見ても、限界費用がほぼゼロであるデジタルコンテンツ業界にとって、このことは重大な悩みでもある。だが、そのような状況の中でも様々な新しいビジネスモデルが考えられ、儲ける工夫と努力がなされている。

■新しいビジネスに向かう視点
 いろいろなビジネスモデルが次から次へと生まれてくる中で、ある段階でこのビジネスが正しいと判断しても、それはすぐに陳腐化してしまう。重要なのは、仮説を持つこと。そして、その裏にどんなビジネスモデルがあって、インターネットが何を引き起こし、どんなメカニズムで新しいビジネスモデルが生まれつつあるかを考え続けることである。すなわち、自分のフレームワークを持って、常に世界中にアンテナを張りめぐらし、入ってくる情報を正しく処理し、仕掛けることが重要なのである。
 そして、新しいビジネスモデルを考える場合には、誰にどんな価値を提供するのか、どのように価値の生産と供給を行うのか、どのように資源を動員し、利益を得るかという視点を持つことが重要である。
 

【吹野博志氏】
「ダイレクトモデルを支える企業理念」

■格差のある企業の情報化
 日本の戦後はものをつくれば売れるという時代で、明確なゴールがあり、戦略もシンプルだった。戦後50年以上が経ち、このシステムには破綻がきている。しかし、日本の企業の中には、まだ同じ戦略を追いかけているところ、おかいと思いながらも追いかけているところ、もうハンドルを切って戦略を変えたところが混在している。
 企業の情報化の程度は産業によっても異なるし、ビジネスがドメスティックなものか、グローバルなものかによってもかなりの違いがある。グローバルでは、仲間がみんな遅れているのでのんびりとしていられるのだ。最も情報化が進んでいるコンピューター業界では、1984年の全米業界トップ5のうち、現在も撤退せずに残っているのはわずか2社。しかもその2社も、すでにトップ5からは脱落している。情報化投資型のビジネスモデルではかなり激しい競争が起きているのである。その他の産業の中では自動車産業も情報化に熱心である。例えばフォードは、ここ2年間に何百人もの社員をデルに送り込み、デルのやり方を取り入れようとしている。
 e-ビジネスに限らず、新しいビジネスモデルや新しいコンセプトは産業の違いに関係なく広がっていく。日本の例で言えば、ユニクロのビジネスモデルはデルのそれに酷似している。シーズン前に大量につくった商品をメディアで宣伝し、流行をつくり出して売るという従来の手法ではなく、エンドユーザーと生産者を直結し、自社工場を持ち、市場動向で生産を変化させるというダイレクトモデルがそれである。
 ひとりに1台パソコンを普及させるという時代はもう終わった。これからは、それを本当に使いこなしているかどうかが問題だ。ビジネスモデルが変わらなければ、ひとり1台パソコンを持ち、ホームページを立ち上げてもなんの効果もない。

■インターネット活用の利点
 デルが重視しているのは「無駄なことは一切やらない」ということ。目的を決めて、それを達成するために、最もシンプル、スピーディー、ローコストな手段をロジカルに詰めていく。ローコストサプライヤーであるので、一般管理販売費は売上高の10%以下に抑えている。パソコンはどんどん低価格化しているが、物流経費は低減しないので、他の部分で無駄なことはどんどん排除していかなくては、ビジネスは成り立たない。
 インターネットの活用は様々な無駄を排除することに役立っている。例えば、教育プログラムはすべてLANにのせ、ネットラーニングを行っている。これなら、一ヵ所に社員を集めることもなく、短期間、低コストで社員教育を行うことができる。
 また、社内のみならず、顧客対応にもインターネットを有効活用している。例えばコールセンターは、ビジネスが広がれば広がるほど拡張が必要になるが、ウェブ上で顧客が商品の納期確認をできるようにしたことで、コールセンターのコスト削減を図ると同時に、スピーディーかつ明確に納期を知ることができ、顧客のメリットにもつながった。
 このように、会社のすべての活動にインターネットを使うことで、コスト削減や利便性などの顧客のメリットも創出できたのである。


■強さを支える企業カルチャー
 ビジネスモデルや戦略を変えることは勇気のいることである。そこでは社員の優秀さよりもトップマネージメントの優秀さが必要である。戦略を変えた後、実際にそれを具体化するには社員の優秀さが必要だが、もともとの方向が間違っていたら何にもならない。
 今は最新のビジネスモデルといえども、凄まじい速度の変化の中で、そのモデルを捨てなくてはならない局面があるかもしれない。しかし、デルのビジネスモデルは普遍的なものだと考えている。すなわちサービス提供者とユーザーが直結し、自分たちのサービスを使っている客がハッピーかハッピーでないのか、何がほしいのかをリアルタイムで把握ができるという基本コンセプトは変わらない。あくまでも手段が変化するだけなのである。
 ネットビジネスに限らず、儲かる会社と儲からない会社はすべての産業にあるが、儲かる会社は驚くほど似ている。例えば、シスコとデル。権威主義ではなく組織がフラットで、権威で人を動かすのではなくロジックで人を動かすということ、スピードを尊び、すべてを自社でやるのではなく、その時のベストのパートナーとアライアンスを組むという合理的なカルチャーはほとんど同じである。儲けることをゴールにすると、そのために必要なことをすべてやるのが合理主義だ。常識を打ち破るにはロジカルにならなくてはならないし、根拠のない権威に頼ってはいけない。



第3回必修講義

テーマ/「e-ビジネスのチャンス到来」
講師/吹野博志(デルコンピュータ株式会社代表取締役会長)
   國領二郎(慶応義塾大学大学院経営管理研究科助教授)
日時/2000年5月11日
会場/アカデミーヒルズ(アーク森ビル36階)

國領 二郎 講義目録
■第25期 アカデミーヒルズインタビュー
■第25期 '00.11.2
 eマーケティング時代のビジネスモデル
■第24期 '00.5.11
 e-ビジネスのチャンス到来

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