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■新産業のインフラをつくる
「利益」より「ミッション」を重視する グロービスの経営 堀 義人 株式会社グロービス代表取締役社長 |
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1992年に社会人教育機関として創業したグロービスグループは、産業構造の転換を見据えて、知識集約型産業のインフラとなる「社会人教育」、「ベンチャーキャピタル」、「人材の紹介」を軸にした事業で高い評価を得ている。ベンチャー企業の多くが成功すれば莫大な利益を手にできるIPOを目指すなかで、グロービスの堀義人氏は「ミッション」を重視し、価値観を共有する仲間とのパートナーシップ型の経営形態を選択した。 先ほどの企業分析で、当社の成功の要因としてミッション志向の事業展開、強力なアライアンス、受講者を含めた人的ネットワークという3つのポイントを挙げていただいた。 若干説明を付け加えれば、社会人教育事業も、ベンチャーキャピタル事業やプレイスメント事業も「経営(マネジメント)」一本に絞り込んで展開している。これもシナジー効果を高めている要因のひとつである。 企業の競争優位性は、規模、範囲、スピード、マインドシェア、アライアンスの5つが基盤になる。ご指摘のように、我々の事業分野ではいかに優秀な講師やベンチャーキャピタリストを集めるかが成功の鍵といえよう。いい人材を集めるのは「金」だけではない。仕事を通じて自己実現ができることや自由な働き方、似た価値観を持つ仲間と好きな仕事ができる環境といったものを求めている人は多い。 ベンチャー企業の多くがIPOを目指しているが、我々は「社会・個人・法人に新たな価値を提供する」というミッションに共感する仲間と共に、パートナーシップ型の経営を行うことを選択した。 学校部門は利益よりクオリティが重要であり、極論すれば利益が出なくてもかまわないと思っている。ここを司令塔にして、前述のようないい人材が自然に集まってくる仕組みをつくることができればいい。こうした発想の背景には、学校部門やそれ以外の部門から上がるフローの収益だけでなく、ベンチャーキャピタル事業による投資リターンが見込めることが大きい。 ■「人を大切にする経営」とは いい人材を集め、その人々を大切に扱うとは具体的にはどういうことか。それには精神的な満足感とフェアな制度が必要である。 たとえば当社では昇進や年俸などのルールを明確にして、全員で話し合って決めている。 また、私は楽しくなくてはいい仕事はできないと思っているので、最初から価値観の合う人材を集めるようにしてきた。具体的にいえば、グロービス・グループのミッションに共感し、いい仲間と好きな仕事をして社会に貢献したいという価値観を持った人間を採用している。採用の際には必ず価値観に関わる質問に長い時間をとり、やりたいことを聞いて、希望を実現できる環境を提供するようにしている。本を書くことが好きな人もいれば、営業が好きな人もいる。単純作業がいいという人もいる。好きな分野や得意な分野はさまざまだが、人はやりたいことをしているときが一番能力を発揮する。それぞれの得意分野がうまく組み合わされればたいへんうまくいく。 採用に当たってそのほかに重視するのは「ロジカルに考える能力を備えているか」、「我々が欲しい分野の知識を持っているか」である。こうした方法によって、我々の会社は価値観を共有しつつ、異なる能力を持った人間が組み合わさっているのでうまく回転している。 仕事柄、さまざまなベンチャー企業を支援し、投資してきたが、ベンチャー企業を目指す皆さんにひとことアドバイスするとすれば「何が一番自分たちにとって大切かをずっと忘れないでほしい」ということだ。IPOだけが目的ではない。さまざまなモデル、さまざまな選択肢のある社会を創造していほしい。 ■確率の高い投資手法を学ぶ グロービス・グループは、知識集約型産業のビジネスインフラをつくることを目的に、社会と個人と法人に新たな価値を提供する企業家集団である。 これを我々の使命として、個人向けには経営(マネジメント)能力を養成するビジネススクール事業、企業家に対してはハンズオン型ベンチャーキャピタル事業、法人向けにはコンサルタント型の教育研修事業を行っているほか、経営関係の出版事業や、法人と個人の間を取り持ち、マネジメント人材の紹介などを手掛けるプレイスメント事業などを展開している。 このなかで、私自身が今もっとも時間を費やしている事業分野はベンチャーキャピタル事業である。投資家から預かった資金を効果的に運用する責任は重いし、投資に失敗しないことは大変難しいことだ。しかし、今まで我々が投資した企業で倒産した企業はない。18社投資して2社が株式を公開し、それぞれ約100倍、約80倍になっている。 ベンチャーキャピタルには、数を打つタイプと、徹底して調べて高い投資確率を狙うタイプがあるが、エイパックス・グロービス・パートナーズ(AGP)は後者である。そのために我々は徹底して投資手法を学び、実践してきた。エイバックスパトリコフグループとの提携も、彼らの投資手法を学びたいという目的があったからだ。我々の投資手法でいけば、大きな失敗はしないという自信がある。先端分野は不透明な部分が多いので、勿論、投資に絶対という事はないのは承知している。投資に絶対ということはないし、先端分野は不透明な部分が多いので、こうした自信が打ち砕かれることもあるかもしれないが……。ベンチャーキャピタルのビジネスプロセスは、ディールフロー(いかにしていい案件が流れてくるようにするか)、デューデリジェンス(案件の精査)、マネジメントサポート(経営支援)、エグジット(売却)だが、いい案件が流れる仕組みをつくり、流れてきた案件をとことん調査することによって、おのずとその企業の成功の仮説が想定できるようになる。これができれば、知恵や資金などのマネジメントサポートも的確にでき、成功の確率が高まる。 こうした我々の成功の仮説が実現したときは心底からうれしくなる。 ■企業家(経営者)の資質 経営者には3つの資質が必要である。 第一に、人を巻き込み、引っ張る力である。第二に何をすべきかを認識して実行する能力である。第三に知的ゲームである起業の勝ち方を理解できる能力である。言い換えれば、経営の定石を理解して実行する能力である。こうした能力開発は大学までの学校教育では行われていない。 我々のビジネススクールではこの3つの能力を高めるため、常に「何が問題なのか」、「どんな解決方法があるのか」を考えるトレーニングをし、ケースメソッドを通じてディスカッションしていく。 皆さんから「終身雇用制や年功序列に代表される日本型経営は、もう通用しないと思うか」という質問が出たが、今までの資本集約型産業には有効な経営手法だったと思う。あるいはこれからも資本集約型産業では有効かもしれない。しかし、スピードやクリエイティビティ、デファクトスタンダードで競争する知識集約型産業には向かない。優秀な人間を核にして、ネットワーク型に広がる組織でなければ、こうした産業に携わる企業は成長できないだろう。 私はハーバードビジネススクール時代に産業構造の転換を実感した。日本に戻り、新しい知識集約型産業のビジネスインフラがないことを知り、それをつくろうと考えた。それが新しい経営スキルを勉強するビジネススクールであり、企業する人々を支援するベンチャーキャピタルであり、人材の流動性を高めるプレイスメント事業である。 ■楽しいことを追求する グロービスを設立して8年になるが、私は30年計画で考えている。先にお話したように、価値観を共有する人々と仕事をしているので、楽しいことがたくさんある。もちろん嫌なこともあるが、結果的にみると嫌だと感じることは何かそれなりの理由があるもので、結果的にうまくいかないことが多い。 かつて多摩大学の学長だった野田氏が「三ない主義を実践しているから毎日が楽しい」とおっしゃっていた。「三ない主義」とは、「会いたくない人には会わない」、「行きたくないところに行かない」、「やりたくないことはやらない」というものだ。「わがまま」ととられるかもしれないが、論理は成り立つ。 私もわがままな生き方をしている部類かもしれない。テレビには出ない、いわゆる一般マスコミの取材は受けない。グロービスという企業がマスに知られなくてもいいと思っているからだ。しかし、知っている人々が強烈に好きになってくれるような企業にしたいと思う。そして、そうした形でもきちんと収益が上がる構造にしたい。 最後に、「人を巻き込み、引っ張る力を育むにはどうしたらよいのか」という質問に答えたい。 私はまず遊ぶことだと思う。好きなこと、楽しいことをしているとき、人は明るくなる。明るさは人が集まる条件だ。その楽しさを人に伝えること、仲間をつくること。そして仲間とサークルやクラブをつくったとき、どうしたら組織をうまく運営していけるかという問題に当たるだろう。こうした中で失敗を積み重ねることで、徐々に人を巻き込み、引っ張る力を身につけていくことができるのではないだろうか。 <米倉先生コメント> 「堀さんの率いるグロービスにはオープンカルチャーがある。これが21世紀のカルチャーだ。皆さんも理科系とか文科系といったメンタルロックを外して、多様性がある社会を創造していってほしい。今は産業革命以上の大きな社会革命が始まっている。この授業ではこうした革命をリードする人々をライブで観て話す機会をたくさん設けたい。堀さんが価値観を共有する異能集団という強力なマシーンをこれからどう操縦していくか、注目していこう」 第2回必修講義
テーマ/「自己投資としての社会人教育」 |
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