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■IT革命にコンテンツで挑む
コンテンツビジネスは才能の発掘から 丸山 茂雄 株式会社ソニー・ミュージックエンタテイメント代表取締役社長 |
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日本の文化やコンテンツを十分に理解していない経営者が多いと言われている。そんな中、文化を体系的に理解し、才能あるアーティストの気質を把握して、ビジネスを成功に導いているのがソニー・ミュージックエンタテインメントの丸山代表取締役である。ソニー・コンピュータエンタテインメントの副会長としても活躍される氏に、音楽とゲームのビジネス、経営者の視点から見たコンテンツビジネスとは何かをうかがった。
■クリエイターが時代を拓く 新しい技術、ものすごいハードが出てきた時に、コンシューマーに向けてどのようにモノやコンテンツをつくっていったらよいかをハード側が考えているかというと必ずしもそうではない。今、世の中で盛んにいわれているブロードバンドでも、ブロードバンドの時代がやってきた時に何が起こるか、何がビジネスとして成り立つのかは本当は誰にもわかっていないのではないだろうか。 「プレイステーション」の時ですら、あれがどう発展するのか見極めていた人はいなかった。「プレイステーション」が決定的にコンシューマーに受け入れられるような環境をつくったのは、ソニー・コンピュータエンタテインメント(以下SCEI)でも、プレイステーションの開発スタッフでもなく、ナムコの『鉄拳』や『リッジレーサー』をつくったチームやスクウェアのクリエイターたちだ。そういう人たちが新しい技術を使って、こんなソフトをつくるということを見せてくれたのだ。 ハードをつくる人たちは、「こういう能力があるものをつくった」というところでおしまいで、そのハードの技術を生かしてどう料理するかはソフト側の人間に託されている。しかし、誰にでもできることではなく、新しい技術を使って、ユーザーがびっくりするような新しいものをつくるのが天才である。そうして天才がつくったモノやコンテンツをベンチマークとして、続々とその他のクリエイターたちがその分野に参入し、産業として発展していく。 クリエイターとは無のところに新しいものをつくるという才能があり、その才能を何らかの作品として具現化し、コンシューマーに受け入れられるものに仕上げる能力がある人だ。だからこそみんなが尊敬するのである。 エンタテインメントのクリエイターは危険も高いが、成功すれば見返りも大きい仕事である。若い人たちは次々とこのジャンルに挑戦しているが、20人が挑戦して、成功するのはわずか1人ぐらいなものである。日本の音楽の世界でいえば、年間400人近くがデビューするが、3年後に残っているのはそのうちの5%ぐらいで、20人に満たない。 今年7月、米・ニューオリンズで行われたSIGGRAPH(Special Interest Group on Computer Graphics/シーグラフ)で、SCEIは「プレイステーション2」のCPUを16個ぐらい並べた映像・ゲーム製作のための業務用コンピュータを発表した。現在、映像製作に使われているシステムにはOnyxがあるが、Onyxなら数億円はするところを、「プレイステーション」16個なら約80万円でできてしまう。 これまで高価格路線であった映像製作の世界が低価格になることは、世の中に大きな変化を与えるだろう。だが、このコンピュータを使って、映画以外にどんなものが出てくるのか、世の中がどのように変わるかは、今はまだわからない。それを考えるのが、クリエイターや今は無名の次世代の天才たちである。 アメリカではケーブルテレビが世の中を変えた。ベルリンの壁が壊されたのも、CNNの電波が壁を越えて東欧諸国に流れ込んだことが大きな原因だったといわれている。経済情報のブルームバーグチャンネルを見ると、つくりはシンプルだが、必要な情報がきちんと画面に収められており、新しいつくりは必要に合わせて生み出されるということがよくわかる。ブロードバンド時代にも、また新たな表現形態が考えられ、世の中は変わっていくだろう。 ■コンテンツビジネスとは ブロードバンド時代に向かう今、大企業や資金力のある海外の企業がコンテンツを集めようと何千億円というお金を持ってやってくるが、私は「そんなことは止めたほうが良いのでは」と申し上げている。 ソニー・ミュージックエンタテインメント(以下SME)で年間の売り上げがおおよそ1,000億円だとすると、宣伝費は別として、そのうち500億円がレコードの原価としてかかる。コンテンツに1,000億円といっても、それはSMEの2年分の経費でしかなく、しかも3年経って残っているのはわずか30〜40曲なのである。ソフトのビジネスは10のうち1つか2つ当たるかどうかというもので、空振りしてしまった作品は10年後にも基本的にはあまり価値がない。 空振りしたものもひっくるめて、1本当たった時に残りの分のマイナスを差し引きして、それでも会社が存続するようにしていくのがエンタテインメントビジネスの基本である。だから1,000億円でも2,000億円でもつぎ込むことは一向に構わないが、基本的には1本ヒットがあればいいという世界だということを覚えておかなければならない。 「プレイステーション2」では半導体の工場に第1期1,250億円の投資をした。ハードの投資の場合は、仮にそれがうまくいかなかったとしても、半導体技術自体は他のものに転用できるので1,250億円の価値はそのまま残る。しかし、ソフトは空振りすれば何も残らない。だから、同じ金額の決断でも、ハードのための投資とソフトのための投資では全く意味合いが異なる。また、ハードは論理的な説明ができるが、ソフトへの投資は「○○が命をかけて頑張ると言っているので許可してやってください」というような説明しかできないものなのだ。 コンテンツビジネスというのは基本的には極めて不確定なもので、技術の進歩があった時に、それに合った新しいコンテンツをつくってくれる才能を見つけ出すこと、ただこれ一つにかかっている。また、新しい技術をつくっている時には、新しいコンテンツのことはほとんど考えていないという具合で、極めていい加減なように見える。だが、ハリウッドのメジャー映画会社も、大手レコード会社やゲーム会社も、そこのところの失敗と成功のバランスをとりながらコンテンツビジネスを成立させているのだ。 ■ブロードバンド時代の戦略 ブロードバンドが敷かれた時に家庭用のサーバーが必要だと言われている。そのサーバーが「プレイステーション」に大きなハードディスクを積んだものになるか、ハードディスクを積んだテレビになるかはどちらでもいいが、こうしたテレビの普及には時間がかかるので、今のところは「プレイステーション」側にサーバーをつけることを考えている。 ブロードバンドに関して、もう一つ気になっていることは、双方向でやっていくとすると途中にサーバーが必要になることだ。家庭用のサーバーとは別にそのサーバーを、誰がどのように用意するのかが気になる点だ。ハード側で用意するのはとても無理で、そうした企業・業者が出てくるだろうと考えている。 では、ブロードバンドが普及した時にレコード会社の役割はどうなるのか。 ブロードバンド時代には生産者とコンシューマーが直接結ばれるB to Cの関係になり、その間のレコード会社も中抜きされる可能性がある。その中でレコード会社がある種の存在感を出すことができるかどうかは、才能を見つけ出せるかどうかにかかっている。アーティスト各人がそれぞれのレコード会社を持ち、それがソニー系とかワーナー系とかという具合に緩やかな連邦制を持つ形態に変化することも考えられる。 ■ソフトに携わる経営者として 我々がこれまでうまくやってこられたのは、正直に言って、たまたまいつの時代も稼いでくれる才能あるクリエイターがいたからであり、運が良かったということにつきる。 私は1968年にCBS・ソニーに入ってからずっと音楽の仕事に携わっている。レコード会社の仕事は将来売れそうな人と契約できるかどうかにかかっている。そのためには売れそうな才能を発掘できる“目利き”を社員にできるかどうかが大切だ。“目利き”が最低ひとりいれば会社はもつ。経理や契約などの勉強が必要なベーシックな部門はちゃんと試験で採用しているが、“目利き”の採用はそうはいかない。実践でやらせてみないと分からないからだ。 ミュージシャンとは30年近くつきあってきた。新人の時にはみんなおとなしいが、いったん、世の中に受け入れられると一気にわがままになる。だが、それは彼らに能力がある証拠であり、彼らの才能なくして世の中にソフトは生まれない。 1993年に「プレイステーション」をやるためにSCEIをつくり、久夛良木健氏と一緒に仕事をしてきた。久夛良木氏も才能のあるミュージシャンと同じタイプの人間で、異能の持ち主である。私には技術のことは全くわからないが、彼が私を必要としている間は、一緒に仕事をしていこうと考えている。SCEIでの私のスタンスは久夛良木氏のマネージャーであると思っている。 良くも悪くも、モノをつくる人でも技術の人でも、若干ギトギトした野心のある人がいいものをつくる。そういう人を自分の仲間にしていくよう心がけている。 ■グループ戦略とソフト戦略 SMEは新しい会社なので、古いものを引きずっておらず、斬新なイメージがある。それが結果的にはソニー全体の斬新なコーポレートイメージと統一感を出すことにつながっている。だが、これから20年後、コンシューマーに斬新なイメージを持ち続けていてもらえるかは分からない。 SMEがつくる商品で「このジャンルはやらない」というものはない。ソフトはジャンルを決め込むと、その時代が過ぎると一気に経営のバランスが崩れる。メジャーでやっていこうと思ったら、ジャンルは決めないほうがいい。 ハードのソニーとの関係では、基本的にソフトメーカーは特定のハードに片寄るわけにはいかない。乱暴な言い方をすれば、我々ソフトメーカーは、松下であろうと東芝であろうと出てきたものには何でも対応するのである。ソフトメーカーとして最も正しいのは、あらゆるメーカーに対して等距離外交を基本とすることだ。 ソニーにはインフラやプラットホームビジネスについての方針はあるが、それが必ずしもソフトビジネスに及ぶものではない。ソフトは会社の方針に従ってつくられるものではなく、コンシューマーの意向によってつくられるからだ。ソニーの経営者がそういったソフトビジネスの本質を分かっているからこそ、我々は自由にやらせてもらっている。 第13回必修講義
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