■ポスト冷戦の新しい枠組み
6・15南北共同宣言と国際政治の行方

高野 孟 ジャーナリスト/株式会社インサイダー代表取締役社長兼編集長


高野 孟
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 国際政治や経済など幅広い分野で鋭い論評を発表している『インサイダー』の高野編集長を招き、朝鮮半島の和平を巡る問題とポスト冷戦後の新しい枠組みについて語っていただいた。高野氏は南北首脳会談の意義や、沖縄サミットの印象を交えて、大きく変わる世界の枠組みと日本がとるべき外交戦略について語り、「21世紀に向けて勇気をもって飛ばないかぎり、日本は過去の100年と共に地下に引きずり込まれてしまう」と警鐘を鳴らした。

※編集部注/今回の必修講義は、最初の10分間を使って参議院議員の山本一太氏による日本の朝鮮半島を巡る外交戦略のビデオ講義を行い、その後に高野氏の講義が行われました。これは高野氏の講義を編集部で要約したものです。


■大失敗の沖縄サミット
 先日の沖縄サミットは史上稀に見る失敗であると私は感じた。「苦労をかけている沖縄でサミットを開きたい」という故・小渕首相の思いや、米軍基地移転問題に決着をつけるという意図をもって沖縄開催が決まったわけだが、どちらの狙いも大外れに終わった。
 内容を見ても、森総理は単なる司会者役にすぎず、安全保障問題はもちろんのこと、米軍基地問題やヒトゲノム問題、遺伝子組み換え食品問題などにおいても、日本のイニシアチブはまったく発揮できないまま終わった。
 2000年6月15日には、韓国と朝鮮民主主義人民共和国(以下、北朝鮮)の南北首脳会談が開かれたが、日本はこの動きを捉えて、積極的な東アジア戦略を打ち出すべきであった。沖縄の米軍基地問題などの問題も、東アジアという大きな枠組みの中で考えるべきことだ。しかし、日本の外交戦略は常に後手後手に回っている。
 沖縄サミットに話を戻せば、鮮やかだったのはロシアのプーチン大統領の外交戦略だ。プーチン大統領は、沖縄サミットの翌週に開催された拡大アセアン諸国で安全保障問題を話し合うARF(アセアン地域フォーラム)と、沖縄サミットをひとつながりの舞台として設定し、積極的な外交戦略を展開した。米国のNMD(国家ミサイル防衛)に反対する中国や、NMDのきっかけをつくった北朝鮮を訪問して言質をとってから沖縄に乗り込んできた。
 NMDとは米国が北朝鮮など、米国本土への限定的攻撃に対応するミサイル防衛システムだが、ロシアとのABM(弾道弾迎撃ミサイル)条約の改定が必要となるうえ、世界の核軍縮の流れに逆行するものとして、欧州もロシアのNMD批判に同調している。米国が強引に推し進めれば孤立化は避けられない。
 付け加えるならば、ちょうどその時期に中国の外務大臣がインド、パキスタンを訪問するなど、ロシア、中国、インドというユーラシアの大国が手を組んで米国に対抗するという配置が着々と築かれつつある。
 はたして今回の沖縄サミットに21世紀を考える糸口があったのかと考えたとき、プーチン大統領が主役となって創り出そうとしている、米国に対する新しい枠組みがそれではないかという感想を持った。

■南北首脳会議の重み
 朝鮮半島における南北首脳会議に関してはさまざまな評価があるが、私はこの流れは不可逆的と捉えている。朝鮮半島の和平を喜ばない勢力は厳然として存在し、南北和平を阻止する動きも出るだろうから、短期的には極めて波瀾含みではあるが、大局的に見れば南北和平の方向に進むであろう。
 なんといっても韓国と北朝鮮の最高首脳の直接対話は初めてである。南北首脳会談は、1995年に北朝鮮に乗り込んだ米国カーター大統領と金日成総書記が会談した席で、南北首脳会談の開催を約束したことに端を発する。しかし、金日成総書記が亡くなってこの約束は果たせなかった。儒教的な思想の強い国柄、金正日総書記にとって今回の南北首脳会談の実現は、父親の遺言を果たすという意味を持っている。
 金正日総書記の能力や人柄については諸説があるが、南北首脳会談を見るかぎり、年上の金大中大統領を尊重した言動などから、世界が自分をどう見ているかを自覚していることがわかり、かなりしたたかな計算のできる人物ではないかという印象を受けた。
 余談ではあるが、かつて知人と金日成総書記とその息子の金正日総書記の筆跡や文章を比較する機会に恵まれた。父親と比べ、金正日総書記の筆跡はきちんとしたもので、文章も論理的であり、能力の高さを感じた。
 今後の南北対話の進展の次の段階は、金正日総書記の韓国・ソウル訪問の実現だが、警備をどうするかが最大の課題だ。ガラス張りの無菌室のようなピョンヤンとは違い、ソウルの警備は非常に難しいからだ。しかし、こうした首脳同士の直接対話と並行して、政府高官レベルの交渉などさまざまなチャネルを通じて南北対話が進んでいる。
 今は南北対話の成果を早急に求めるよりも、さまざまなチャネルで南北対話を継続していくことが何よりも重要である。なお、南北対話の内容については、92年の南北基本合意に目指すべき方向や踏むべき段取りなどがほとんどすべて盛り込まれている。

■日本はどう関わるべきか
 さて、朝鮮半島の南北問題が進展していく過程で、日本はどう関わっていくべきか。
 日朝間には拉致問題を含め、複雑な問題が山積しており、簡単に進展するものではないが、常に対話の窓口を開いておくことが、なによりの安全保障政策になる。日朝二カ国交渉では解決しない問題も多いので、日本がイニシアチブをとって、北東アジアという大きな枠組みをベースにした多国間交渉の土俵をつくり、その中でさまざまな問題を解決する糸口を探るべきである。
 朝鮮戦争の当事者である韓国、北朝鮮、米国、中国は、38度線の休戦協定を恒久的な和平協定に発展させようと四者和平協議を設けたが、北朝鮮の核疑惑などで中断している。今回の南北首脳会談をきっかけに、南北首脳会談が先行する形で四者協議会議が進展するという流れが順当であろう。
 次の段階では、この4カ国にロシアと日本を加えた周辺6カ国による枠組みづくりが必要になる。周辺4カ国が見守る中で、南北対話が進展していくことが望ましい。特に北朝鮮の経済再建にはこうした枠組みでの経済協力体制が不可欠である。
 日本のとるべき外交戦略は、ポスト冷戦の新しい枠組みづくりを積極的に進め、その中で東アジアの安全保障を考えていくことである。東アジアの安定のためには、多国間の安全保障・対話システムが欠かせない。この6カ国構想は、金大中大統領が来日した際に、故・小渕首相が持ち出しており、金大中大統領も賛同した。しかし、外務省は6カ国協議に対して時期尚早として消極的であり、その後のフォローがないまま宙に浮いている。
 多国間の安全保障・対話システムの先例としては、ドイツがイニシアチブをとってつくられたOSCE(ヨーロッパ安全保障協力機構)がある。これは東西欧州の全首脳がひとつのテーブルを囲んで議論するもので、当初は単発会議の積み重ねであったが、この活動が長年の相互不信を解消する下地となり、冷戦集結に大きな役割を果たした。冷戦終了後は恒久的なものに格上げされて、国家間の不信を解決するための非常に精密な信用醸成措置が積み重ねられている。

■冷戦後の新しい枠組み
 冷戦時代はNATO(北大西洋条約機構)やワルシャワ条約機構などの敵対的軍事同盟が中心であった。しかし、冷戦後は、OSCEのように地域の各国首脳がひとつのテーブルについて、日常的に話し合う仕組みが「21世紀型安全保障」の主流になるであろう。
 アセアン諸国の指導者たちは、OSCEの考え方を取り入れてARFをつくり、すでに5年あまり活動を続けている。日本海を取り囲む北東アジアにも、こうした多国間の日常的な対話の仕組みが不可欠である。前述の朝鮮半島を巡る6カ国協議の枠組みがベースとなって、こうした形に展開することも考えられる。
 6カ国の間には未だに冷戦時代の刺が数多く残っているが、こうしたさまざまな冷戦後遺症を癒すには、二国間交渉で個別に解決するよりも、多国間協議という大きな枠組みの中で時間をかけて解決する方法を模索するほうが結果的には早道になるのではないか。土俵を大きくつくって、その中で地域紛争を解決する道を探るべきである。
 また、海難事故や航空機事故、多国間医療協力などへの対応方法もこの枠組みの中で構築していけばよい。日本海の漁業資源および海底資源の共同管理なども同様である。
 今後の安全保障にとって特に重要なのは、武力によらず、多国間の対話による紛争解決の仕組みをつくることだ。こうした21世紀型の安全保障の仕組みを示してリードすることこそ、戦争放棄をうたった日本国憲法を持つ日本の役割であり、日本がイニシアチブをとる絶好のチャンスである。
 しかし、現実には何度も述べたように、日本の外交は後手後手に回っている。その間に、ロシアのプーチン大統領は、武力によらない紛争解決を目指したアジア太平洋新憲章をつくろうとイニシアチブをとって動いている。
 こうした仕組みができてくれば、従来の軍事同盟の役割は薄れ、米国の影響力も薄れる。米国の唯一超大国幻想に対しては、欧州諸国もアジア諸国も辟易としている。今後は紛争を国連に持ち込むのではなく、地域PKOなどによって解決していこうという地域的な集団安全保障の方向が次第に熟していくものと思われる。

■次の100年に向けて飛べ
 日本の外務省の外交戦略は、基本的に「二国間交渉」、「外交一元化」、「米国偏重」で進んできた。外務省は日米安全保障が恒久的に続くと考えており、それに代わる21世紀型の多国間の新しい枠組みを考えるという思考は皆無である。そうしたシミュレーションさえも行っていない。アセアン諸国の指導者たちは、そうした日本の外務省を「米外務省日本支部」と侮蔑的に呼んでいる。
 現在、世界の構造は大きく転換しており、新しい枠組みがつくられつつある。18世紀から20世紀にかけて築かれた、国民国家を中心とした国際関係のベースが大きく変わっている。これからの外交戦略は従来のような単線思考でなく、複線思考でなくてはいけない。複数の外交戦略シナリオを用意して交渉し、ディベートを繰り返しながら次々に戦略を切り替えていく戦略的思考方法が求められよう。
 経済、文化、情報、資金などは国境を超えた。これからのテーマは国家・政治という枠組みがどうなるのか、国家・政治が国境を超えるのかという点にある。21世紀は「国家を守る」という保守勢力と、「国家を超える」という革新勢力が鬩ぎ合うことになろう。我々は今、「国家は国境を超えるのか」という世紀末大矛盾に直面しているのである。
 すでに国家を解体する論理が出てきている。米国型グローバルスタンダードしかり、EU諸国の通貨統合や多国間安全保障しかり。EU諸国は、国家権力の根幹である防衛権や通貨発行権まで地域機構に差し出すという世紀の実験に踏み出した。
 我々も過去に引きずられずに次の100年を見極め、勇気をもって飛ばなければならない。過去の延長線上でものを考え、次のチャンスを待っても永久にチャンスは来ない。ビジネスにおいても外交戦略においても、勇気を持って飛ばないかぎり、日本は過去の100年と一緒に地下に引きずり込まれ、生き残ることはできないのである。



第12回必修講義

テーマ/「6・15南北共同宣言と国際政治の行方」
講師/高野 孟(ジャーナリスト/株式会社インサイダー代表取締役兼編集長)
ビデオ講義/山本 太一(衆議院議員)
日時/2000年7月27日
会場/アカデミーヒルズ(アーク森ビル36階)


高野 孟 講義目録
■第25期 '00.11.30
 「生活安全保障」のすすめ
■第24期 '00.7.27
 6・15南北共同宣言と国際政治の行方

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