|
■ハリウッド映画 一人勝ちの秘密 〜産官学の連携が米映画を強くする〜 ジェームズ・ハインドマン アメリカ映画協会理事長 エリザベス・デイリー 南カリフォルニア大学映画学部長 |
|
|
|
世界中でなぜアメリカ映画だけが成功しているのか。そこには映画産業育成のため
の国をあげての確固たる戦略と培われてきたシステムがある。それは産官学の素晴ら
しい連携がつくり出したシステムでもある。映画業界の人材育成に携わる南カリフォ
ルニア大学映画学部のE.ダリ−氏とアメリカ映画協会のJ.ハインドマン氏に米映画界
の成功の秘密を聞いた。
◇エリザベス・デイリ−氏 「南カリフォルニア大学の映画教育」 ●USCの映画人育成 南カリフォルニア大学(University of Southern California/以下USC)の映画学 部は映画芸術科学アカデミーの提案を受けて映画産業に関する専門教育の場として設 立された。ハリウッドで働く人の8%がUSCの卒業生であり、ロバート・ゼメキス監督 、ジョージ・ルーカス監督など高名な人材も多数輩出している。 USCでは映画業界のために専門的な訓練研修を行い、業界の中核となるプロを育成 している。それは、弁護士や医者を養成するのと同じように、映画人をつくるという ことである。従って入学の門戸は狭く、これと思った人材だけを選んで入学させてい る。 まず学生は脚本、監督、制作、映画ビジネス、歴史、理論など非常に幅広いすべて の側面を学ぶ。そしてそれらを収得した後に、それぞれの向いている分野に特化する ことになる。ハリウッドでは、卒業後、最初にエージェント、次にスタジオで働き、 独立系のプロダクションで働くという具合にどんどん職を変わっていくのが通常だ。 ここで重要なのは幅広い教育を大学レベルで積んでいくということなのである。 またプロフェッショナルインストラクション制度があり、脚本、制作、映画学、ビ ジネスを教える講師陣は、それぞれその分野で実際に活躍するプロ達で、学歴ではな く映画づくりの実績で選ばれ、起用されている。 ●新エンターテインメントの創造 多くの産業が変化をくぐり抜けてきたように、映画産業もこれからのデジタル技術 により大きく様変わりするはずだ。今までつくれなかったイメージをつくりだすこと ができたり、配信の仕方も変わってくるだろう。そうした変化に対応できるように、 USCでは撮影学も修めるが、ソフトのプログラミングも勉強する。 また、2000年3月にはデジタル編集施設やモデルショップを持ち、学生が最新のデ ジタル技術をベースに新しいものを制作できる施設「ロバート・ゼメキス・センター ・フォー・デジタルアート」がオープンする。これにはワーナーやユニバーサルスタ ジオも協力していて、新しい時代の要請に産業界と大学が連携して応えるプロジェク トでもある。 今やアメリカでは映画とテレビの世界に境はなく、両方ができなくてはならない。 コンピューターの小さなスクリーンにも、テレビのスクリーンにも、映画館の大きな スクリーンにも対応できる能力をつけることも必要だ。大学ではいろんなエンターテ インメントの側面をあまねく学生に示すこと、そしてスクリーンにまつわることをす べて教えなければならないと思う。100年間培われてきたの映画の歴史をベースに、 教師と学生が一体となって新しいエンターテインメントをつくり出していきたい。 ●映画産業の中核はコンテンツ 技術、アート、ビジネスの3つの要素がバランスよく揃って、はじめて成功するの が映画産業だ。映画産業は通常のビジネスモデルにはなかなかあてはまらない。なぜ なら映画はユニークな製品で、一つ一つの作品がそれぞれプロトタイプであるからだ 。 映画産業の中核ビジネスは、クリエイティブで創意工夫に富んだコンテンツをいか に人々に提供するかであり、技術のビジネスではない。わざわざ映画館に足を運んで もらえるような作品、テレビを見たいと思わせるような作品、やってみたいと思わせ るようなゲームをつくることがビジネスだ。そのために、私達は常に消費者に目を向 け、その声に耳を傾けている。消費者が何を望んでいるのか、何を求めているのかを 常に考えている。 このことはデジタル技術を取り入れて制作のプロセスが変わったとしても何も変わ らない。最も重要なのは世界の人々が望んでいるストーリーを届けることができるか という点なのだ。私達のビジネスはデジタルツールだと考え始めた時から基盤はどん どん崩れていき、観客に背を向けられてしまう。 ●ハリウッドのフロンティア精神 米の映画業界は変化が速く、非常に独断的で冷たい業界でもある。しかし、いいア イデアさえあれば、出身大学や国籍は全く関係がない民主的なところでもある。ベス トのアイデアを持つところに人は集まり、資金が集まる。 ハリウッドには新しいものを開拓し、自らを開拓していこうというフロンティア精 神がまだ残っている。ハリウッドには永遠にいいアイデアを出し続け、失敗恐れず、 アイデアを何とか作品にしていくエネルギーを持ち続けてほしい。エネルギーがある から消費者はついてくる。どんな技術があっても情熱とエネルギーが染み込んでいな ければ、作品は死に絶えてしまう。 ◇ジェームズ・ハインドマン氏 「映画産業におけるAFIの使命」 ●映画の文化的支援組織として アメリカ映画協会(American Film Institute/以下AFI)は映画産業をサポートす る機関が必要だという考えから、リンドン・ジョンソン大統領によって1967年に設立 された。AFIは映画産業のビジネスサイドを支えるのではなく、おざなりにされてい た美術面や芸術面、クリエイティブな面からの支援を目的として設立されていて、米 連邦政府、モーションピクチャーズ・アソシエイション、フォード財団の3つのパー トナーシップから成り立っている。 AFIの使命はいくつかあるが、その一つは映画の保存である。1980年代にテッド・ ターナー氏が映画ライブラリーの重要性を説き、MGMのライブラリーを買収して手に 入れたが、それまでは映画保存の重要性を唱えるものは誰もいなかった。100年の映 画の歴史はアメリカの文化的遺産の一つであり、小説や偉大な歴史上の人物と同じよ うに、教育の遺産の一つとして子供に受け継いでいかなければならない。映画の保存 には莫大な費用がかかるが、AFIでは米で制作された映画のすべてをカタログ化し、 記録を残している。 また、AFIでは「生涯功労賞(Life Achivement Award)」という賞を制定し、映画 やテレビ界で生涯に大きな功績を残した人を顕彰し、高いスタンダードをつくってい る。この賞は1972年の制定以来、ジョン・フォード氏やオーソン・ウェルズ氏、ステ ィーブン・スピルバーグ氏、ダスティン・ホフマン氏など数多くの人が受賞している 。 ●才能を見い出し教育する 新しい才能を見つけ出し教育することもAFIの使命の1つだ。 これまで、新しい才能は業界内から見出されることが一般的だったが、そのシステ ム自体がアメリカでは1950年代に機能しなくなってしまった。フリー制度が普及した ため、フリーでやっていける人材を育てなければならなくなったのだ。そのため業界 以外の教育機関が必要になった。 AFIでは二つの異なるレベルで人材育成を行っている。一つは大学院で、映画学校 のような、芸術、技術関係の教育機関を持ち、全世界から人材を集めている。ここで は、プロたちが映画撮影法、演出、編集、製作、脚本、プロダクトデザイン、デジタ ルアートなどの専門分野に分かれて訓練を受けている。 もう一つは短期コースで、常に新しいものにアップデートし、自らを刷新していく必 要のあるプロのスキルアップに役立っている。 ●デジタル時代のあり方を模索 将来の映画やテレビ像を考えることもAFIの重要な役割である。 新しいテクノロジーとデジタル技術への取り組みは、AFIの基本的な教育モデルの 一つだと考えている。そのために素晴らしいものをつくった人々のもとで勉強しても らうという特別なやり方を考えている。すなわち素晴らしい親方のもとで若者が学ぶ 徒弟制度のような仕組みだ。1991年にはアップル社のパートナーシップをえて、コン ピューターラボを開設し、ワークショップなども行った。またサロンと呼ばれる、業 界の大物たちが参加する場を設け、そこから新しいアイデアや新しいビジネスが生ま れている。 またインターネットがエンターテインメント産業にどのようにインパクトを与える ことになるかを予見し、95年にはウエッブサイト「AFIオンライン」を開設。このサ イトでは、96年にビデオストリーミングを使って、ハリウッドの古典的な作品を米で 初めて流した。99年にはAFIの行ったテレビの講義やインタビューなどのオリジナル コンテンツもスタートさせている。現在、MBCやワーナーなどとのポータルサイトの 設立も検討中だ。 テレビの本格的なデジタル化が見えてきた今、それに対応する技術やコンテンツの 開発にも力を入れている。デジタルが本格化し、米市場で普及するとスクリーン上で 非常に面白いことができるようになる。そこでは従来の放送システムと将来のデジタ ル双方向性を合わせた新しい形のテレビ「エンハンスドTV(Enhanced TV)」が考え られている。「エンハンスドTV」ではコンテンツが拡大し、電子商取引ができ、テレ ビとインタラクティブなやり取りができるようになる。「エンハンスドTV」ではコン テンツはどうまとめられるのか、ストーリーはどうつくられるのか、ワークショップ などを開き、番組制作の試行錯誤を続けている。 デジタル時代は確かにやってきたが、まだ“ミケランジェロ”はいない。まだまだ 疑問や問題点もたくさんある。AFIは問題提起をしながら、企業の協力も得て、また 若い世代の才能を伸ばしていきながら答えを模索していきたいと思う。 第9回必修講義
テーマ/「ハリウッド一人勝ちの秘密」 |
![]() |