■行動メディアとしてのロボット
人間の行動を理解し、支援する

佐藤 知正 東京大学工学系研究科機械情報工学専攻教授


産業ロボットは、対象物体の物理的制約に優しいことで作業を実現するのに対し、人へのサービス機構においては、人間の生理、物理、心理、社会的制約に、親和的であることが重要である。通産省工業技術院電子技術総合研究所以来、大学でも知能ロボットの最先端研究を行ってきた佐藤知正氏に、「人に出来ないことをする」というロボットの存在価値について、人と機械の情報交換のためのメディアという観点から、語っていただいた。

●ロボテックルームの試み
病床時、人にわざわざ頼むまでもない簡単な動作をせめてロボットが代行してくれたら、という発想から、医師等の意見を参考に5年かかってロボテックルームを開発した。これは部屋全体が人をモニターして、必要な支援をするロボットシステムを研究している。落とした物を拾うなどの動作の代行機能と、人間の生理モデルを設定し、呼吸の監視モニターやベッドに重さを感じるセンサーを取り入れることで、24時間を通した下支えの作業と状況のサマライズが出来るようになっている。
行動を通じて人と機械が情報のやりとりをすることを行動メディアと捉え、研究テーマを設定した。
まず、行動理解。人は、行動から情報を取っている。ロボットも人をみていて、人の意図を理解すべきである。これが行動理解の研究である。
行動表現。不満の対象にできるペットロボットを設置した。このロボットは、悲しみや喜びを踊りで表現する。人は社会的動物で相手がロボットであっても感情移入してしまうようだ。表現の仕方によって、短時間に多くのことを伝えられることがわかった。
行動相互作用。個人の空間は目の前に伸びていることから、物を渡すときは横から渡すと個人空間を侵さず、親和感を表現できることが分かった。つまり、空間の対人感覚をうまく利用すれば、深いところで人間に心理的な影響を与えることが出来るのである。このようにロボットであっても、うまい人間と機械の相互作用の方法を見出せれば、人間に心理印象を与える動作をつくり出すことが出来るのだ。
このような機能を持つシステムを、ルームという形で実現した環境型のロボットシステムは、システムをつくり込みやすい。調度品、天井、床すべてをセンサー化、ネットワーク化して、総体としてモニターできるという特徴を持っている。これを個人の情報を蓄えて集積する装置として見ると、インターネット時代の次に来る重要な研究テーマになる。

●ロボットの演出工学
一方、人はどういうロボットを欲しがるだろうか。人は、衣食住、健康に次いで、無条件に楽しい脳内活性を求めるのではないか。その証拠に、心のやすらぎを求めてペット産業が盛んである。しかし、手触り、重さなど今のペットロボットにはハードの面でも問題がある。さらに人を納得させ、飽きさせず、倫理観を持つペットロボットソフトウエア、つまり演出工学の研究も重要である。心、感性、コミュニケーション、人と機械の相互作用に関する科学技術であること。これらの視点がないと、ロボットはとても人の世の中には入っていかない。
さらに大事なのは、行動蓄積とその応用である。人が人たる所以は経験である。人は行動し、体験として蓄え、それを内省することで優れた行動を導き出す。計算機が人の体験を蓄え、内省できるようにすることで、脳の持つ情報処理装置+体験蓄積装置という働きを実現出来るのではないか。計算機が数値処理や記号処理のみでなく、経験の蓄積とその応用処理に使われる意味は大きいが、体験の蓄積がただの情報の山にならないためには工夫が大事である。

●時間軸と空間軸の拡大
人間の行動を理解し、支援するにあたって、現在だけでなく、過去の情報を含めて今を支援するというように、時間軸を加えることでアプリケーションが広がる。その応用例には、自動車(個人の運転環境への対応)、マネーカード(人気商品の把握)、ハウス(家族の行動履歴)などがある。個人を助けるには個人を見るしかない。標準人間を対象とするのではなく、メモリーベースドな個人個人を向いたアプローチ、視点が必要になる。
時間軸の拡大とともに、スタンドアローンからネットワーク、無線化からウエアラブルであることが大事で、これは行き着くところ情報処理の5W1H、 on Demand化へと結びつくものである。
これからのロボットは、人と人、人と機械を結ぶ仲介役を果たし、意思表現のための行動をしていくようになってほしい。





第8回必修講義

テーマ/「人にやさしいロボット」
講師/佐藤 知正(東京大学工学系研究科機械情報工学専攻教授)
日時/1999年11月22日
会場/アカデミーヒルズ(アーク森ビル36階)


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