| ■都市再生に向けて舵を切れ 規模の経済を応用し、 発想を転換すれば都市は甦る 岩田 規久男 学習院大学経済学部教授 森 稔 森ビル株式会社代表取締役社長 |
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21世紀は国際的な都市間競争の時代といわれている。しかし、日本の首都・東京
の魅力は年々下落するばかり。どこに問題があるのか。また、魅力ある都市に再生す
るためにはどうしたらいいのか。 こうしたテーマで、経済学者の岩田氏と森ビルの森社長にそれぞれの解決策を提言 していただいた。その後、岩田・森対談となり、塾生も交えて活発な質疑応答が行わ れた。ここではそれぞれの都市再生の提案のみ紹介する。 ◇岩田規久男氏 「都市づくりにも規模の経済を」 これまでの日本の国家政策は国土の均衡ある発展を目指し、東京への一極集中を抑 制してきた。公共投資は地方に傾斜し、地方交付税などによって東京から地方へ金が 流れた。都市計画も都市化を抑制する色合いが濃い。 その結果、日本をリードすべき東京が疲弊した。慢性的に渋滞する道路、遠い空港 、職住分離の都市構造に起因した過酷な通勤など多くの問題を抱えている。21世紀 の世界的な都市間競争に勝ち残るために、また、住み、働く人々にとって快適な都市 にするためにも東京を再生しなければならない。 ●従来の分配システムを改めよ そのためには、まず、東京から税金を集め、地方交付金や公共投資として地方にば らまく従来の分配システムを改め、大都市へ集中的に社会資本投資を行うべきだ。大 都市の基盤整備が遅れた原因は、国家政策が「国土の均衡ある発展」に傾注しすぎた こともあるが、東京都自身も基盤整備を怠った時代があった。反対があると必要な公 共工事を進めなかったため、都市基盤の整備が大きく遅れたのである。 道路などの基盤整備を進めるには私権を制限する必要が出てくるが、日本の戦後民 主主義は、公共性のある事業を進めるために社会的合意をとって敢然と進める仕組み を持たなかった。 ちなみに、米国では事業計画を公聴会で十分に討議し、決定した事業の実行を事業 者や行政に義務づける。日本ではこうした仕組みが不十分であり、土地収用法も使え ないのが実態だ。 行政の不作為が許されている限り基盤整備は進まない。住民、行政、開発業者を巻 き込んだ透明な議論と、決定した事業の実行を行政や事業者に義務づける仕組みが不 可欠である。 ●財源確保と開発促進の仕掛けを 道路や公園などの都市骨格は原則として公が積極的に進めるべきだ。PFIを使っ てもよいだろう。しかし、いずれの場合も財源の確保がポイントになる。財源には固 定資産税(地方税)はもちろん、現在、国税となっている譲渡益税を地方税にしたり 、地方自治体も自由に起債ができるようにして基盤整備の財源を確保するほか、地方 交付税の見直しも必要である。 たとえば、地方交付税の人口割り部分の比率を増やすべきだ。人が多く集まる自治 体に、より多くの交付金が割り当てられる仕組みにするのだ。ドイツではこうした手 法で自治体の住宅開発が促進された事例がある。現在のまま地方分権を進めれば、地 方自治体の多くが開発抑制に走り、優良な開発も進まなくなってしまう。 ●グランドデザイン作成の視点 都市のグランドデザインを作成するに当たって、基本的な視点を確立すべきである 。私は、都市づくりも「規模の経済」、「規模の利益」を追求すべきだと考える。 日本の大都市は個々の敷地が小さく、平面的にしか活用されていない。そのために 住宅地はだらだらと郊外に広がり、自然を食いつぶしている。世界に冠たる日本の鉄 道網もこれを後押しした感がある。さらに零細な敷地に日影規制などの単体規制がか かっているため、結局、使いにくいものしか建てられない。これでは規模の利益は追 求できないし、都市環境も改善されない。 「規模の経済」を実現するために、街区が大きい場合は高い容積率を認めて土地の 立体活用を促進し、より多くの床を生み出すよう誘導すべきである。そうすれば大量 の床が供給され、床当たりの単価も下がり、もっと多くの人々が都市を利用したり、 住んだりできる。その代わり建ぺい率は低く抑えて都市に緑を取り戻せば都市環境は 改善されるはずだ。 ●都心を高度化、郊外開発抑制 ニューヨークのマンハッタンには超高層建築が立ち並び、土地は極度に高度利用さ れている。反面、車で1時間もいけば森と湖がある。 日本も「中心部を高度利用することによって郊外の自然を守る」という都市づくり に転換してはどうか。都心は大きな街区を立体活用しながら人工的に緑地を整備して いく。一方で郊外は開発圧力を弱めて昔ながらの自然を残すのだ。 大都市の自治体はこうしたグランドデザインを示したうえで、基盤整備を着実に実 行し、開発は民間に任せればいい。都市開発のリーダーシップは原則としてリスクを 負うものがとるべきである。 ◇森 稔氏 「時間、空間、選択肢が倍増する都市に」 国際的にみても東京の魅力が年々落ちている。この一因には暮らしにくい都市構造 がある。職住分離型で平面的な都市構造は通勤やショッピング、遊び、業務間交通な どに時間と費用がかかりすぎる。これでは世界の人々や企業から敬遠されてしまう。 ●豊かな都市生活の条件 私は東京の魅力をとり戻すために3つのことを挙げたい。 第一は自由時間の倍増である。職、住、遊、文化など多彩な都市機能をコンパクト に集めた都市に再生し、通勤時間などに割かれていた自由時間を取り戻す。自由時間 が増えれば文化的活動や消費も進み、新たな都市型産業の興隆にも繋がる。現代の豊 かさを支えるものは自由に使える時間なのである。 第二は居住空間、執務空間、病院、学校、商業施設など、すべての都市施設の空間 を倍増する。日本人はこれまで空間的な豊かさを味わうことができなかったが、これ は国土が狭いからではなく、土地の使い方を誤ってきたためだ。敷地をまとめたもの に対して高い容積率を与えればより多くの床が供給され、都市空間は倍増できる。 第三は選択肢を増やすことだ。諸機能がコンパクトに集まった都市構造であれば日 常生活の選択肢が広がる。また、多彩な賃貸住宅を増やし、分譲住宅の中古流通市場 を確立すれば住まいの選択肢も増える。選択肢が多いことが豊かさに繋がる。 付け加えれば、地震にも安全で、緑豊かな環境を備えた都市にすることが挙げられ よう。 ●都市政策の誤り〜その1 東京が魅力のない都市構造になった原因としては都市政策の誤りがある。 第一の誤りは戸建て住宅・持ち家定住主義を推奨したことだ。もし、1世帯に約1 00坪ずつ宅地を配分したら、関東平野は住宅だけで埋め尽くされてしまう。人口の 集中する都市では、住宅は集合住宅を基本にすべきだ。集合住宅もつくられたが、公 団住宅のような魅力に欠けたものが多かったため、日本人には「集合住宅は所詮仮住 まい」という意識が根付いてしまった。テクノロジーが進歩しているのに、未だに3 0年前後しかもたないような貧弱な集合住宅をつくっているのは非常に問題である。 また、モビリティの高い都市生活には賃貸住宅が便利なのに、国は持ち家政策を促 進した。良質な賃貸住宅が供給されないため、未だに「賃貸住宅では肩身が狭い」と いう意識が強い。優良な賃貸住宅の供給を阻害してきた要因としては、借家人を過度 に保護した借地借家法も挙げられる。 ●都市政策の誤り〜その2 第二の誤りは用途純化主義である。戦後、米国を真似て職住分離の都市政策を進め た結果、都市はどんどんスプロール化してしまった。 郊外の自然を破壊して住宅地をつくり、都心のオフィスまで片道1時間以上もかけ て通うような生活がはたして合理的で文化的な暮らしといえるだろうか。米国でも都 市に住みたいと考える人々は増えていると聞く。 ちなみに東京都心4区(千代田、中央、港、新宿)の居住人口は約50万人。ほぼ 同じ面積のマンハッタンには3倍の約150万人が住んでいる。土地をまとめて街区 面積を大きくし、立体的に活用すれば、現在の居住人口を大幅に増やすことができる し、個々の居住面積を増やすこともできるのだ。 ポイントは細分化した土地をまとめて高度利用することである。零細な土地に容積 率だけ与えれば建物が建て詰まり、都市の環境は悪化してしまう。 新しいグランドデザインは高度利用地域とそうでない地域を組み合わせ、メリハリ のある都市にするべきである。たとえば、23区の2割を超高層化すれば、関東平野 の既存住宅をすべて収容できる。空いた土地はゴルフ場でも公園でも自由に利用すれ ばよい。 また、都心8区で鉄道の2路線が交わる駅の半径400メートル圏内を超高層化し て、職住近接のコンパクトシティをつくる方法もあろう。それ以外は開発を抑え、緑 を取り戻すエリアにしても、現在住んでいる人はもちろん、都心居住を希望する人々 を受け入れるだけの住宅は供給できるのだ。 発想を変えればまったく違う選択があることをわかっていただきたい。 ●経済的にもメリットあり 職住近接型の超高層の街ならば、最初に挙げた自由時間の倍増、空間の倍増、選択 肢の倍増、安全な暮らしや緑の環境が実現できる。建物には150年くらい使える耐 震性・耐久性を持たせ、社会的な資産となるものにする。そうすれば、ライフサイク ルコストは少なくなり、床単価も下がり、買うのも借りるのにも経済的負担が少なく てすむ。ランニングコストも低く、職住近接で日々の生活費も下がる。 また、賃貸を基本にすれば、これを証券化して皆で持ち合うことも可能になる。家 賃は払うが、証券の配当を受け取れる。持ち家主義をやめ賃貸を基本とするならば、 ライフスタイルやライフステージに応じて合理的に住み替えていくスタイルが実現す る。定期借家権の創設や不動産証券化といった新しい制度を使って優良な賃貸物件の 供給を増やせば、選択肢も増え、理想的な都市生活が営める社会が実現する。 そうすれば東京の魅力が高まり、世界から人材や企業が集まってくるだろう。 ●都市政策のベクトル転換を 都市再生には、都市政策のベクトルを変えなければならない。持ち家一戸建てを基 本としてつくられた建築基準法や都市計画法、税制を見直すべきだ。 新しい基準と して明るさを示す「天空率」や、緑の比率を示す「緑被率」といった方法の検討を提 言したい。耐震基準についても人命を守るだけでなく、揺れを抑えて建物内が安全な 水準まで強化すべきだ。また、容積率を上げる代わりに建ぺい率は現行より大幅に抑 えれば、都市環境は改善される。 税制も小規模宅地の優遇をやめ、土地に重く建物 に軽くすべきである。 建築行政、都市行政は、従来の統制経済的なやり方から市場経済を重視した方向へ 転換させ、最適利用を進めていく必要がある。 第7回必修講義
テーマ/「都市の経済学」 |
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