■都市を包容するファッション
ファッションは人間を学ぶこと

小池 千枝 文化服装学院名誉学院長


小池 千枝
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 「ファッションは、都市や経済はもちろん、生活の中のあらゆる事象に関係している。ファッションを学ぶということは、人間を学ぶということ」と文化服装学院の小池名誉学院長はいう。今回はボディを使った服づくりの実演やミロのビーナスから現代を代表するデザイナーの服まで、人間の美を表現する数多くの作品を見て、感じる講義が行われ、塾生たちの新たな興味が引き出された。

●ファッションは人間学
ファッションとは人間学であり、デザイナーとは人間に最も近いところで、誰よりも人間のことを考えている人々だ。たとえば、イブ・サンローランの造形はほとんどすべての人の体形を美しく見せると同時に、その人の持っている個性を演出する。また、色の美しさを示し、社会に色の革命を起こしたのは高田賢三だった。
過去の歴史の中で、女性の自由や男女の同格を表現し、象徴してきたのもファッションだ。今、社会の最も重大な関心事の1つである環境問題にいち早く取り組んでいたのも、デザイナーであろう。10年も前に高田賢三は青い空と雲、赤い花が咲く緑の世界の素晴らしさを謳い、それをデザインした。
生活の中で人間は、変わらなくてはならないという本能を持っている。ファッションに関しても、変わり続けることが人間の願望ならば、よりよい方向に変わってほしい。よい服とは人間の好む身体の動きや伸び、考え方についてくるものだと思う。どうせ着るなら、着てホッとする服を着よう。

  ●才能を見つけ、育てる環境
才能が花開くためには、才能を見出し、バックアップをしてくれる人の存在も重要な要素だ。40歳を過ぎてからデザイナーを目指したクリスチャン・ディオールにも、その活動をバックアップするスポンサーがいた。また、今パリで最も注目される若手デザイナーの渡辺淳也も、川久保玲にその才能を見出された人だ。
ファッションの世界に限らず、日本社会の大きな問題の1つに、上司が部下の才能を見分けられないということがある。部下の才能を伸ばせない会社は会社自体も伸びない。
才能を育てる環境は日常の中にもある。たとえば、素晴らしいデザインの高価なオートクチュールの服を見るだけでもファッション感覚や美的感覚は養われ、才能は育てられていくはずだ。
世界的なデザイナーになった高田賢三や三宅一生も、学生時代にクリスチャン・ディオールやピエール・カルダンなど、世界のトップデザイナーの作品を直に見る機会を与えられたことが、今日の活躍につながっている。
フランスではイブ・サンローランの作品1万点以上を集めた服飾美術館がつくられようとしている。一方、日本では美術館が次々と閉じられ、美術にかけるお金は削減されている。このままでは日本は、文明は発達しても、文化は少しも進まない国になってしまう。

●服づくりの視点
服づくりには形態的、心理的、生理的という3つの因子がある。時代によってこの3因子の軽重評価は異なり、それが時代の服づくりに反映される。かつてディオールの時代には、形態、生理、心理の順で重きをおいていたが、現代は心理、生理、形態の順に変わってきている。この3因子に加え、これからの服づくりには情報伝達の機能を付加されるだろう。また、そろそろ形態的な因子が重要な時代に戻ってきてもいいのではないだろうか。
ところで、形態的な美しさとはどう表現されるのか。人間の身体は前、横、後ろのすべてにそれぞれの美しさがある。この美しさを表現するためには立体感覚が不可欠である。また人間は直立不動ではなく、常に身体を動かしている生き物である。身体の動きに伴い、人間の皮膚は伸び縮みする。たとえば、背中の肩甲骨は腕の上げ下げで8センチも伸縮する。立体の美しさを表現し、運動量も考慮した服は立体裁断でなければつくれない。
しかし、立体から得たパターンは当然平面に置き換えられる。立体から平面へ、平面から立体へと置き換えるなかで、立体感と平面的な感覚も養われる。
よい服とは見た目の美しさと着心地の良さを兼ね備えたものだ。それは、立体のボディに布を沿わせ、人間の身体と布の間にいいバランスの空気の層をつくるようにデザインを考えていくことでつくられる。




第13回必修講義

テーマ/「都市を包容するファッション」
講師/小池 千枝 (文化服装学院名誉学院長)
日時/2000年1月27日
会場/アカデミーヒルズ(アーク森ビル36階)


小池 千枝 講義目録
■第23期 アカデミーヒルズインタビュー
■第24期 '00.7.27
 高田賢三の世界
■第23期 '00.1.27
 都市を包容するファッション
■第22期 '99.7.29
 手を動かす、脳を動かす
■第21期 '99.1.11
 Between the Centuries-21世紀への提言
■第20期 '98.7.27
 時代の先を読み取るファッション
 〜ファッションから21世紀への指針〜
■第19期 '98.2.2
 時代の先を読み取るファッション
 〜時代を映すファッションという社会現象〜

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