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■イノベーションと企業家精神 日本最大のインターネットモール 「楽天市場」の挑戦 米倉 誠一郎 一橋大学イノベーション研究センター長・教授 三木谷 浩史 楽天株式会社 代表取締役社長 |
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「インターネットは自動車や建設といった産業の枠を超え、全産業を横串で貫く基盤であり、産業革命に匹敵するパワーを秘めている」と米倉先生は語る。今回はインターネットというサイバーフロンティアに日本最大のインターネットモールを築き、急成長を遂げるベンチャー企業の覇者、楽天市場の三木谷社長を招いて、「楽天市場」というビジネスモデルを構築した過程や概要・特徴、ベースとなった氏の人生観についてもお話しいただいた。
◇米倉誠一郎 「挑戦できる社会へ」 先程、「この講義を聞いて、たった2人でもいいから会社をやめようと思ってくれれば成功だね」と三木谷さんと話していた。今日の講義はこれを目標にして「世の中で、今、何が起こっているのか」をお話しする。 最初に私が経営学の視点から話し、後半は三木谷さんに楽天市場のことや自身の生き方について自由に話していただく。 ●大企業時代の終焉 日本社会は深刻な問題を抱えている。ソニーやホンダなど世界に通用する企業もあるが、そうした日本企業のほとんどが製造業だ。しかし製造業がGDPに占める割合は25%にすぎない。 また、日本は米国に比べて企業の新陳代謝が遅れている。米国社会は企業の廃業率が13%と非常に高いが、開業率はさらに高くて16%。それに対して日本は廃業率6%、開業率3%であり、廃業率が開業率を上回っている。人口構成と同様に企業社会も高齢化が進行しており、このままでは日本経済はますます活力を失ってしまう。 しかも、今まで日本をリードしていた大企業は厳しいグローバルコンペティションに直面している。皆さんはまだ「大企業にいれば安泰だ」と思っているかもしれないが、それは違う。 なぜならグローバルコンペティション下で、大企業は「雇用なき回復」の道を辿るからだ。競争はデファクトスタンダード(事実上の標準)に則って行われる。現在のデファクトスタンダードは米国の経営であり、株主重視のコーポレートガバナンスである。 つまり大企業は常に世界の機関投資家からのプレッシャーを受けながら株価を上げることを最優先しなければならないのである。大企業は絶え間ないリストラクチャリングとリエンジニアリングを続ける宿命にあり、雇用を拡大することは大変難しい。 ●誰が日本経済を救うのか こうした状況は米国も経験している。米国が大不況のとき、大企業は「雇用なき回復」の道を辿って全体として800万人の雇用を失った。しかし、米国経済の強さは、ベンチャー企業などの台頭で1200万人の新たな雇用を創出したことだ。こうしたダイナミズムがあったから米国経済は復活したのだ。 日本社会の活力を引き出すためには、製造業に代わって日本経済をリードするベンチャー企業を生み出す必要がある。21世紀はモノではなく、「解」や「知恵」を生み出す産業を育てなければならない。 ちなみに日立の年間売り上げは8兆円弱だが、企業の時価総額はそれを大きく下回る。一方ソフトバンクの売り上げは5282億円だが、時価総額は11兆円を超えている。インターネット総合研究所(IRI)の売り上げはたった7億円強だが、時価総額は7000億円を超えている。これからはソフトバンクやIRIのような企業が輩出し、活躍する社会をつくらなければならない。 ●今年はIPO元年 米国ではなぜベンチャー企業が次々に誕生し、新産業が台頭したのか。 その一因はシリコンバレーモデルに代表される「数を打つゲームができる仕組み」を築いたからだ。不確実で瞬時に変わる市場には「数を打つ」ことが有効だ。それは宝くじのようにエントリーリスクが低く、リターンが大きい仕組みである。 米国で新しくビジネスを始める企業家にとって有利なことは、銀行融資のように起業する側から見てリスクの高い資金(必ず返済しなくてはならない)ではなく、リスクの低いベンチャーキャピタルがあったことと、株式を比較的簡単に公開でき、これによって莫大な利益を得られることだ。 こうしたシステムがあったから、米国の優秀な頭脳がこぞって新しいビジネスに挑戦したのである。 また、米国には世界最大の小売業ウォルマートのように、ストックオプションによって社員ひとりひとりに「頑張れば億万長者になれる」というモチベーションを持たせて成功しているビジネスモデルもある。大企業であっても、社員にエキサイトメントをもたらす仕組みがあれば活力は生まれる。 日本でもやっとベンチャーキャピタルや、マザーズやナスダックといった株式市場ができた。そうした意味では「エントリーリスクが低く、リターンの大きいゲーム」に挑戦できる土台ができたわけだ。2000年は日本のIPO元年といえるだろう。ベンチャー企業の台頭に期待したい。 それでは、実際にインターネットビジネスという魅力あるフロンティアに挑戦し、急成長を遂げている楽天市場の三木谷社長にバトンタッチする。 ◇三木谷 浩史 「最大のリスクは企業家精神を失うこと」 3年半前、世間がインターネットビジネスに懐疑的だったとき、僕は僕なりの仮説に基づいてインターネットモール「楽天市場」を立ち上げた。 多くの人が「なぜ、そんなリスキーな挑戦をしたのか」と聞くが、僕にとってはリスキーな挑戦ではなかった。僕にとって最大のリスクは、僕や社員がベンチャースピリットを失い、企業の成長のスピードが鈍ることである。 また、「(ベンチャー企業なのに)どうして成功できたのか」という質問もよく受けるが、僕はむしろ「どうして大企業が成功できるのか」と聞き返したい。頑張っても報われることが少なく、若いうちから権限と責任を持って新しいことに挑戦するチャンスが少ないような現在の大企業のシステムの中で、どうしてひとりひとりが高いモチベーションを維持できるだろうか。 楽天市場の成功の真の理由は、ひとりひとりがベンチャースピリットを持って挑戦し続けていることである。 ●相手が見える楽天市場 楽天市場はインターネットモールとして世界最大であり、B to C(企業から個人へ)という一般的な販売方式のほか、昨年からはC to C(個人間取引)のオークションも始めた。 これは個人が1個100円で商品を出品し、売り上げの5%を手数料としてお支払いいただく個人間取引のシステムだ。現在、取り扱い商品は1万点だが、月々倍増しており、2000年3月末には取り扱い商品は5万点を突破すると見込んでいる。 楽天市場のコンセプトは、 ・ デジタル革命とアナログ的サービス ・ マスマーケティングからリレーションシップマーケティングへ ・ インターネットの短所を克服したモールである。 最大の特徴は買う人と売る人のコミュニケーションを重視したことにある。インターネットを自動販売機のように捉えている人がいるが、そんなクールなサイトでは楽しくないから人は来ない。楽天市場は顧客との関係性を重視して、コテコテ系の人間臭い市場を目指したのである。 楽天市場がオープンした'97年5月の段階では、モールに出店した企業はわずか13社、月間売り上げは30万円だった。実は僕や社員が買っていたから実売額はもっと少ない。しかし、'99年4月には参加企業は500社、月間売り上げは2億円になり、2000年1月には2000社、月間売り上げは15億円に達している。 ●退社から会社設立まで この講義の目標は皆さんの中から会社をやめる人を出そうということだから、なぜ、僕がサラリーマンをやめてベンチャービジネスに身を投じたのかについても簡単にお話ししよう。 僕は一橋大学商学部を卒業して日本興業銀行に入った。3年間働いた後、今でもありがたいと思っているが、企業が米国のハーバードビジネススクールに留学させてくれた。 そのときの仲間たちはベンチャースピリットに溢れていて、皆、「ピンクのシャツを着たいとき、ピンクのシャツを着ることができるような人生」を目指して勉強していた。この留学経験が現在の僕のベースになっている。 MBAを取得して帰国してからは銀行でM&Aを担当。そのときに、ソフトバンクの孫さんなど日本有数のベンチャー企業の経営者と出会ったことも大きかった。 '95年に銀行をやめてコンサルタント会社を設立した。企業の情報網がなくなることが心配だったが、それは杞憂に終わった。インターネットで情報がとれるし、詳しい情報を知りたければ世界中の友人にメールを打てば、その日のうちに非常に有益な返事が返ってきたからだ。このとき、ひとりのユーザーとしてインターネットのすごさを実感した。 コンサルタント会社はそこそこに成功していたが、コンサルタント業にいささか疲れ、自らインターネットビジネスを立ち上げることにした。 当時、インターネットビジネスに世間は懐疑的だったが、インターネットはもっともっと便利になって普及していくという確信があった。また、商品を販売するうえでの強力なツールになること、デジタル革命によって物流や消費が大きく変わること、日本人がインターネットでモノを買うようになるという自分なりの仮説を立てていたから、この挑戦自体に迷いはなかった。 ●原動力は挑戦する喜び 皆がダメだと思っているとき、合理的な仮説がつくれたら、そこにビジネスチャンスが生まれる。だから楽天市場の現在のノウハウやシステムはどんなに真似されても怖くはない。僕等がそれ以上に新しいことに挑戦していきさえすればよいのだ。 ビジネスは山登りに似ている。そこに山があるから登山家は挑戦を続ける。どんなにお金持ちになっても、挑戦すべきビジネス(山)がそこにあるかぎり、挑戦はやめない。人生の最大のリスクは後悔すること。後悔しないために僕はビジネスを始めた。 話は戻るが、インターネットモールに着目したのは、前述の仮説に加え、人と人とのコミュニケーションそのものが楽しいエンターテインメントであり、そうした要素を組み込めば必ず人々はアクセスしてくると思ったからだ。 そこで、誰もが少ない費用で簡単に店舗を持て、店舗側で内容をつくり更新が容易なことと、「対面販売」的な要素を持たせるという視点から楽天市場のシステム開発をしていった。 インターネットビジネスはベンチャー企業に向いている。この世界はまだまだ挑戦の余地が多く、大変なスピードで進化しており、不確定要素が多い。まるでヨットレースのように、不確実な情報をもとに素早い決断と舵取りが必要だ。それは非常にエキサイティングな世界だが、大企業ではそうしたスピーディーな舵取りは難しいだろう。 皆さんが起業を目指すならば、自分のビジネスコンセプトと仮説に基づいて、まわりの人の意見に振り回されずに自分のビジネスを遂行してほしい。 多くの人が新しい挑戦に対して失敗を恐れるが、これからは、選択肢の少ない大企業にとどまるリスクのほうが大きいのではないだろうか。 第12回必修講義
テーマ/「イノベーションと企業家精神」 |
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