■情報通信産業は
  経済再生のエンジン

情報通信を巡る新しい動きと日本の課題

野田 聖子 衆議院議員
月尾 嘉男 東京大学大学院新領域創成科学研究科教授



月尾 嘉男
講義一覧▼


 郵政大臣という大任を果たしたばかりの野田聖子衆議院議員を招き、月尾先生との対談が実現した。野田議員は郵政大臣として、日本経済再生のリード役として期待される情報通信産業を支援・育成する施策を積極的に推進した。また、現在の政治や情報通信の課題についても率直かつ明快に語り、日本が進むべき道を示した。従来の政治家とは一線を画した新しい時代の政治家の登場に、新鮮な衝撃と爽快感を味わった塾生も多かったはずである。  

月尾 ---- まず、郵政大臣として郵政行政に携わられた1年2カ月について、情報通信分野を中心にお話しいただきたい。また、日本で最初の女性総理になってほしいという個人的な思いも込めて、日本の進むべき道について「野田ビジョン」をうかがいたい。

野田 ---- 最初に小渕内閣発足時の状況と、私が郵政大臣に抜擢されたきっかけについて簡単にお話ししたい。
1年2カ月前に小渕内閣が発足したとき、日本経済はどん底の状態だった。内閣支持率も最低で、組閣1カ月後には平均株価が1万2000円台まで落ち込むほどだった。
組閣にあたって、総理自身、「平々凡々の内閣ではとてもこの状態を乗り切れない」と感じられていた。閣僚には各分野に精通した人々を充て、内閣の目玉として民間人や女性の登用を考えられた。また、総理は経済再生にとって情報通信産業はエンジンであり、産業への波及効果も大きいとして、郵政大臣には情報通信に詳しく、少なくともパソコンやインターネットを使っている人間を望まれた。こうした条件を満たしていたので抜擢していただいたようだ。
私自身、郵政政務次官時代に月尾先生にお会いして情報通信に興味を持ち、若手国会議員と私的な勉強会を開いていた。あるいはそれが総理の耳にも届いていたかもしれない。

月尾 ---- 郵政省の知人は「野田大臣ほど郵政行政に詳しい大臣はいない、ほとんど説明する必要がない」と言っていた。

野田 ---- 月尾先生はじめ石井先生などに随分助けていただいたし、郵政省の若手もよくバックアップしてくれた。
郵政大臣になって最初に考えたことは、小渕総理の念願である情報通信産業を加速させる施策。そこで、月尾先生など情報通信の専門家の方々の力を借りてタスク・フォースをつくった。
経済再生には消費の回復が大切だ。そこで、国民の生活に密着した情報通信機器やシステムを伸ばす施策を打った。次世代型携帯電話「IMT2000」や渋滞情報を提供する高度道路交通システム「ITS」、高速道路の料金徴収システム「ETC」、さらに放送のデジタル化など、「あると便利だ、ぜひ欲しい」と思うものの実用化を後押しした。
もう1つ積極的に取り組んだことは、次世代を担う子供たちがパソコンを使いこなし、インターネットにアクセスできる仕組みづくりだ。これは月尾先生のアイデアだが、学校を高速インターネットに接続し、子供たちが自由にインターネットを使える環境整備に取り組んだ。手始めに研究開発費300億円をとり、全国1050校を高速インターネット回線に接続させたが、日本中の学校に広げてほしい。

月尾 ---- 付け加えるならば、学校インターネット接続事業は郵政・文部省の協力で実現したもの。わけても郵政省が強力に推進したことが実現の原動力になった。ただ、日本のインターネット普及率はまだ世界で20番台と低く、米国には大きく遅れている。インターネットをもっと広く普及させるための課題や必要な政策をうかがいたい。

野田 ---- インターネット自体の問題と日本独特の問題があると思う。
インターネットは米国生まれであり、使いこなすには英語力とキーボードを操作する能力がいる。しかし、子供たちは大人より飲み込みが早いので、どんどんキーボード操作に慣れる機会を与えるべきだ。
また、日本ではインターネットを利用するうえで、「高い、遅い、怖い」という問題がある。これらを解決しなくてはならない。
まず、通信料金が「高い」。打開策として定額料金制への移行や競争市場の確立がある。NTTに対抗できるコンペティターが必要と思い、たとえば無線を活用するソニーに第一種電気通信事業者の免許を交付した。許認可の点では、CATVの事業者の方々にもインターネット接続の事業認可をした。競争市場をつくり出し、低額料金でインターネットが利用できるように取り組んできた。
次の問題は速度が「遅い」こと。インターネットユーザーならおわかりのように、通信速度が遅いことは堪えがたい。光ファイバー網の敷設、衛星を使った通信、CATVなどさまざまな方法で高速化に取り組んでいる。現在、高速・大容量の「ギガビットネットワーク」の実証実験を進めており、近い将来、商用化できるものと思う。
2005年に光ファイバー網が完成すれば、もっと高速・大容量の「テラ」レベルのネットワークが実現する。さらに、未来的な超高速・超大容量の「ペタビットネットワーク」の研究開発費も12年度予算に盛り込んだ。 最後の「怖い」という意味は2つある。1つは子供たちを有害情報からどう守るか。学校インターネット接続ではフィルタリングを入れたが、一家に1台パソコンが普及した場合、親世代以上にインターネットに詳しい子供たちを、有害情報からどのようにして守るかが問題である。
もう1つの「怖い」は、Eコマースなどのセキュリティと個人情報漏洩の問題である。世界的な問題としては、インターネットを通じた海外取引のトラブルをどちらの国の法律で裁くかということもある。これは、まだ世界のコンセンサスがとれていない。日本もきちんと主張していく必要がある。

月尾 ---- ペタビットネットワークの研究開発や教育分野でのインターネット普及、セキュリティ問題などに国は積極的に取り組んでいるが、もう1つ重要な国の役割は国際交渉だ。最近も電話の接続料金に対して米国がいろいろと注文をつけてきているが、日本政府はどうして「内政干渉だ」と突っぱねないのか不思議に思う。
通信のプロトコルの国際的な規約や暗号の問題なども国益を左右する非常に重要な問題だ。野田先生はこうした国際社会での日本政府の態度、あるいは郵政省の海外交渉についてどう考えられるか。

野田 ---- 郵政大臣だった1年2カ月間に海外に6回出張したが、海外出張の許可をとるのも大変で、出張期間も短すぎる。国際会議に参加して痛感したのは、海外で「日本は政府の代表が出てこない国」と思われていることだ。国の代表が英語でスピーチできないことも海外との交渉にはマイナスだ。こうしたことが重なって、相手国の代表とじっくり腹を割って話し、微妙なニュアンスを伝え合う機会を逸しているように思う。各国の大臣とサシで交渉できないようでは日本の国益を損ねてしまう。
また、日本では国内行事が優先され、国会開催中は外務大臣でさえ、重要な国際会議への参加もできない。国内行事の合間をぬって飛行機に飛び乗り、リハーサルもなくぶっつけ本番で交渉してトンボ返りするような状況で、本当に国益に適う成果を引き出せるだろうか。世界や相手国に日本の立場や考え方を理解してもらえるだろうか。国民もマスコミも、こうした国会のあり方や政治の役割を真剣に考えていただきたい。政府代表を国際会議や他国との交渉に送る意義や重要性を認識してもらいたいと切に願う。
総括政務次官が置かれることになったので、今後は国会会期中であってももっと大臣が海外に出掛けられるのではないかと期待している。
また、日本には「米国を怒らせると何をされるかわからない」という伝説がある。マスコミも同じで、しばしば見当違いの記事を見受ける。「政府は弱腰だ」と批判する一方で、外国政府に反対意見を突きつければ、今度は「外国を怒らせるなんてとんでもない」と書かれるのだから(笑)。

月尾 ---- 国際交渉より国内行事が優先されるのは大問題。京都会議でも、環境庁長官が最終日にコミュニケを発表する重要なときに、閣議に出席するため退座して世界からひんしゅくをかった。
もうひとつ私が不満な点は、日本政府は国際交渉で頑張った人を守りもせず、評価もしないことだ。国益のために相手国に意見する気骨のある人を評価しないで、相手国から文句が出ると、閑職に回した例もある。そうした人物を高い地位につければ、相手国に日本の意見を間接的に知らせることになるのに・・・。

野田 ---- 官僚の世界だけじゃない、私たち政治家の世界もまったく同じ。国際的に顔が広い人ほど選挙に弱い(笑)。これは実に残念なことだ。

月尾 ---- 省庁再編がスタートするが、官僚主導の日本がこれで変わるかどうか、行政改革への評価を含めて、これからの日本についてのお考えをうかがいたい。

野田 ---- 行政改革や省庁再編については議論百出。今後の日本の基盤となる情報通信産業を伸ばすために情報通信省を設けるべきだと主張してきたが、実現しなかった。運輸・郵政の合体も提案したが、高度な政治的判断が働いて却下された。結局、郵政・自治が1つになったが、どうも哲学が感じられない。ただ、日本の官僚は優秀なので、地域活性化に情報通信を生かすなど、新しいアイデアを生み出してくれるとは思うが。
それにしても、日本経済が非常に厳しい時期に、人事やら引っ越しの準備やらで忙殺され、現状を打開するための本来の業務に全力を挙げられないことは気掛かりだ。
もっと大きな問題は、省庁再編は霞ヶ関の改革であって、国民のための行政改革にはなっていないこと。国民生活に直結する行政サービスの一元化を図らなければならない。たとえば、身近な郵便局で住民票などがとれるようにできるはず。しかし、従来の縦割り意識が邪魔をしている。

月尾 ---- 霞ヶ関の縦割り行政を変えるのは政治。たとえば、政治家が勉強して専門知識をもって議員立法を増やしていくべきだと思う。

野田 ---- 実は、私が以前から温めてきた法律がやっと議員立法で成立した。これは児童売春や児童ポルノを禁止する法律だが、率直にいって非常に大変だった。厚生省からは「面倒だから議員立法でやってくれ」と言われ、当初の準備は私と妹、あるいは秘書とで行い、賛同者を求めて説明に駆け回った。結局、実現までに5年もかかった。政策スタッフ不足や、行政立法を優先させる政府の姿勢を改めないと議員立法は難しい。

月尾 ---- 議員会館の環境もひどい。あんなに狭くてはスタッフも置けない。

野田 ---- 職場環境は劣悪だし、スタッフも足りない。まるで「仕事をしなくてもよい」といわんばかり(笑)。

月尾 ---- 確かに政治家が本来の仕事に専念できる環境が必要。NPOがこうした部分を支援する役割を果たしてほしい。
新しい時代を感じさせる野田議員に、ぜひ女性総理第一号になってほしいと思う。田中真紀子さんに先を越されないようにがんばってください(笑)。




第1回必修講義

テーマ/「情報産業の新しい動き」
ゲスト講師/野田 聖子(衆議院議員)
講師/月尾 嘉男(東京大学大学院新領域創成科学研究科教授)
日時/1999年10月6日
会場/アカデミーヒルズ(アーク森ビル36階)


月尾 嘉男 講義目録
■第19期 アカデミーヒルズインタビュー
■第26期 '01.4.26
 21世紀の先端技術
■第23期 '99.10.6
 情報通信産業は経済再生のエンジン
■第19期 '97.12.8
 サイバースペースがもたらす社会革命
■第18期 '97.5.26
 インターネットは地方が元気

academyhills.com