■インターネット時代の
    マーケティング

個人の「好き」や「面白い」が
広がる時代


奥出 直人 慶應義塾大学環境情報学部教授
佐藤 雅彦 慶應義塾大学環境情報学部教授/映像作家>

 


21世紀はインターネットをはじめとするマルチメディアを駆使して、新しい考え方を新しい手法で表現する時代になるだろう。どんな考え方が登場し、どんな手法が登場するのか…。デジタルメディア制作の実践的研究に取り組んでいる慶應義塾大学教授の奥出先生からは新時代の表現技術について、また同じく慶應義塾大学教授で、映像作家でもある佐藤先生からは人の心を捉えるものの法則とインターネット時代の広告についてお話しいただいた。

◇奥出直人氏
「コンテンツを引き立てる技術」


●アートエンジニアリング
デジタルメディアを企画し、デザインし、制作する過程において、必要な知識を体系的に学ぶこと、すなわちメディア制作の実践のための理論がいま必要になっている。  デジタルの世界は絵が描け、音楽がつくれ、数学的な計算ができ、マネジメントもできるという総合芸術の世界だ。そこに必要なのは、発想、企画力はもちろんのこと、それ以外の新しいリテラシーだ。そのためには、安易なデジタルツール教育ではなく、創造力と論理的能力を一人の人間に内在させるような教育が必要なのである。  アートエンジニアリングとは、表現、プログラミング、複数人による共同作業をマネジメントするプロジェクトマネジメントの3要素がひとつになったものといえるのではないだろうか。


●デジタルメディア制作の実践
デジタルメディアづくりの実践として、リアルタイムのバーチャルリアリティ−実験に取り組んでいる。  96年にはグーテンベルグの聖書をデジタル化し、コンピュータの中でページをめくったりしながら読めるようなものを制作。97年にはNTTと共同で、フィレンツェのサンマルコ寺院をモチーフに、コンピュータがつくった空間の中に人間が入って自由に動き回り、自分の空間として認識できるような試みを行った。さらにこれの大がかりなものとして、98年に凸版印刷と共同で、大きなVR装置を使い、システナ礼拝堂が散策できるものをつくっている。  続くアプローチでは、人が動いたり、細かなコミュニケーションができるなど、よりインタラクティビティ−を追究したものとして、能の「井筒」をモチーフにした作品を制作。そこでは、長さや鑑賞方法などが選べる仕組みも取り入れられている。  これらの作品は、リアルなものをデジタルで複製したものには違いないが、実際の現場では近寄ったりすることができないところでも、バーチャルの世界では間近で見ることができるなど、デジタルならではの体験ができることは重要なポイントである。


●プロダクションのメソッド
コンピュータの高性能化と低価格化はものすごい速さで進んでいる。5年前には3億円もしたものが、2003年には家庭用として使われるまでになるだろう。そういう時代がやってきた時のために、闇雲に制作をするのではなく、論理的なプロダクションの方法も研究しておく必要がある。
 プロダクションには次の3つのフェーズが規定される。
(1)企画・分析フェーズ
(2)設計フェーズ
(3)実装フェーズ

(1)企画・分析フェーズでは、シナリオ・ストーリーの作成、仕様書の制作、さらにオブジェクト指向方法論を用いた問題領域の分析とモデル化が行われる。具体的には仕様書から名詞や動詞を抽出し、それらの関係と動きのルールを決定し、つくりたいものの構造を分析していく作業である。
(2)設計フェーズではコンピュータ領域のクラスを導入し、UML(Unified Modeling Language*)を用いてシステムを動かすための設計を行う。シナリオだけではわからない、実際の舞台上で の動きを設計していくのがこのフェーズである。
(3)実装フェーズはモデリング、テクスチャーマッピングなどの作業やUMLをもとにプログラムを描いていく作業である。デジタルで何かをつくるというのがこのフェーズにあたる。
面白いのはプログラムが上手な人が必ずしもうまくできるというわけではなく、またアイディアのある人がうまくできるというわけでもないこと。要は両方の素養を持ち合わせていることが重要なのだ。



●新しいマネジメント手法
これら3つのフェーズのほかに必要なのが、マネジメントの要素である。  作業の進め方として、これまでは、分業で作業を行い、最後のゴールで一体化するというウォーターフォール方式が広く行われてきた。しかし、複雑なデジタルメディアの制作では、共同作業において、作業工程にいくつかの一里塚を設け、一歩進んだらインテグレーションして動くことを確認し、次のステップに進んでいくというマイルストーン方式の導入が必要である。  共同作業において重要なのは情報の共有である。これにより、それぞれのパートの進捗状況や問題点が把握でき、場合によっては、遅れているパートを他のパートのメンバーが手伝って、作業スケジュールをこなしていく。  ここでも必要なのは、メンバーの誰もがすべてのパートに参加することができる素養を持っていること、すなわち、総合的な技術や知識を持っていることなのだ。
*UML(Unified Modeling Language)… 統一モデリング言語。さまざまなオブジェクト指向開発方法論の表記法を統一するものとして注目されている。



◇佐藤雅彦氏
「マーケットを惹きつける表現」


●狭場の世界を意識する
広告で大切なのは大きなマーケットというより、私たちが生活している範囲の「狭場」の世界を意識し、そこで効果があるものを考え、つくることだ。  テレビコマーシャルなら、会議室でプロジェクターで見ることを想定するのではなく、お茶の間やリビングでテレビの前に座っている人が何を面白いと思うかを考えること、スナック菓子のパッケージデザインなら、コンビニの棚の前でどれをカゴに入れようかと思案している主婦や学生の立場になって考えてみることが大切なのだ。  世の中とはみんなのことであり、みんなはひとり一人から構成されている。ひとり一人とは、すなわち自分自身と考え、その立場だったら「自分がどんなものが好きか」にこだわり、コマーシャルをつくってきたことが良い結果に繋がっていると思う。


●要素還元化でルールを発見
ある新しいイメージのクラクラするような、発見やひらめきがあった時、なぜ「クラクラ」としたのか、なぜ「!」ときたのかを要素還元することにより、見出した表現方法の2、3のルールがある。全体としては、「面白いものや美しいものには規則性がある」という仮説に基づいている。そのうちいくつかを紹介する。

 
(1)言葉のルール
「一番搾り」、「ダ−スベーダ−」、「午後の紅茶」など、自分がいいと思ったネーミングやコピーにはどれも濁音が入っていたことから見つけたのが、「濁音時代」という名のルールだ。 また、「キットカット」、「ぐりとぐら」のようにABA'B'構造がカッコいいことも発見。これらのルールはNEC「バザールでござーる」キャンペーン広告や、「だんご3兄弟」で使われている。
(2)映像のルール - 1
ドキュメント・リップシンクロ
ドキュメント仕立てで、その中にCMメッセージが織り込まれているものは面白い。さらにメッセージがナレーションではなく、人の唇が動いて語られること(リップシンクロ)により、注目度はアップする。
ダンスのレッスン場を舞台にダンス講師がステップに合わせて「スコーン、スコーン」と商品名を連呼するスナック菓子のCMづくりから還元されたルールがこれだ。
(3)映像のルール - 2
音は映像を規定する
映画やCMは一見、映像のほうが音よりも大事と思われるが、逆の場合も多い。特に意味は、映像よりも音によって規定されることが多い。たとえば、人の顔の切り抜きが動いているだけの映像でも、その場に軍艦マーチが流れた途端に、その顔がパチンコ玉に見えてしまう。何もないところでも、衝突音がした途端にそこに壁の存在がイメージされてしまうという具合である。
ルールの利点はそれを用いることにより、クライアントの要望に対して、常に一定のレベルを保って応えることができるという点だ。
だが、ルールはそれを発見するプロセスが面白く、すべてがわかってしまった途端にそのルールは形骸化し、面白くなくなり、失敗してしまうことがあることに注意しなくてはならない。これは要素還元という考え方に対しての警告でもある。
 


●個々の力がものを言う時代
大ブームになった「だんご3兄弟」も、お茶の間のお母さんや子供たちがどんなものなら喜ぶかという視点でつくったもので、当初はCD化もキャラクター商品化も計画されていなかった。このブームに初めに火をつけたのは、実はインターネットだったのだ。  きっかけはインターネット上で発せられた個人の「好き」という一言だった。この個人の「好き」がインターネットでみるみるうちに井戸端会議の話題になり、続いてFAXや電話で反響が寄せられるようになり、CD化が実現したというわけだ。  インターネット時代は個々の力が団結してものを言える時代だ。それはマスメディアによる宣伝をしなくても、いいものをつくれば必ずみんなの目にふれ、広がる時代を示している。





第9回必修講義

テーマ/「インターネット時代のマーケティング」
講師/奥出 直人 慶應義塾大学環境情報学部教授
  佐藤 雅彦 慶應義塾大学環境情報学部教授/映像作家 アドバイザー/高橋 潤二郎(慶応義塾大学常任理事)
日時/1999年7月13日
会場/アカデミーヒルズ(アーク森ビル36階)


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