■都市の経済学
資産デフレを打開する都市大改造

岩田 規久男 学習院大学経済学部教授


岩田 規久男
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すでに8年以上も資産デフレが続いている。政府の行政改革委員会や経済審議会の委員として、土地・不動産政策の問題点を指摘し、幅広い角度からさまざまな政策提言をしてきた学習院大学の岩田規久男教授をお招きした。岩田氏は「民間活力を活用して、大都市を立体的に改造することによって、長期的、根本的に資産デフレを克服すべきだ」と語り、経済学者の視点から都市問題を掘り下げた。


●「お上頼り」に終止符を
資産デフレを克服するには、都市の大改造によって民間活力を引き出し、土地の有効需要を喚起すべきである。  しかし、公的機関による不良債権の担保土地の買い上げなど、直接的、短絡的な対策を望む声が多い。必要なのは都市改造のような長期的視野にたって、土地需要を創造する政策であるのに、実際にはそうした政策が打たれなかったことが、バブル崩壊から10年近くも資産デフレが続いている原因となっている。  特に私が気になるのは、問題が起こると「お上」の金と力を期待する姿勢である。  不良債権処理にしても、不動産権利調整委員会という準公的組織をつくって、権利関係を調整する案が昨年浮上した。入り組んだ権利関係を、民間に代わって不動産権利調整委員会でやってあげようというわけである。  しかし、本来は、公的機関が権利調整をするより、民間でもできる仕組みをつくるのが政府の役割である。  たとえば、競売のように権利関係をはっきりさせるように法律を改正し、滞納などの情報開示を進めれば、この問題は民間で解決できるはずである。  市場の失敗を政府の金や権力で解決するのではなく、政府が法制度やシステムを変えることで、我々自ら問題を解決できるようにするのが本筋である。


●立体的高密度な都市へ
大都市を改造して民間活力を引き出し、資産デフレを解消するには2つのポイントがある。  第1は、「巨大都市に相応しい形はなにか」である。  現在、我々は長距離通勤を我慢しても、満足のいく住まいひとつ持てない。その一因は、だらだらと延びた平面的な都市構造にある。ニューヨークのように、中心部は立体的・高密度にしたほうが、より多くの人が都市に住めるし、周辺の自然を破壊しない。  しかし、日本では都心にも低密度に住むことが許され、税金まで優遇されている。日本ほど土地所有者に土地の利用の自由が認められている国は少ない。  その結果、既得権を持った人々だけが都市の利便性を享受し、都心居住を望みながら果たせない潜在需要が放置されている。都市を立体的に改造すれば、これらの潜在需要が喚起できる。


●行政から事業者主導へ
第2は「誰が都市開発のイニシアティブをとるか」である。  日本では行政や行政から依頼を受けた学者グループがイニシアティブをとっている。私はこのシステムはおかしいと思う。  リスクをとって開発する者がイニシアティブをとるべきだ。開発に対してなんのリスクもとらない行政や学者の意見は、ある意味で無責任である。  また、都市開発の専門家でない住民のリードで本当にいい都市がつくれるだろうか。行政や住民主導の街づくりは摩擦を嫌い、現状維持に流れやすい。  森ビルの森稔社長は都市改造論「アーバン・ニューディール政策」を提言しているが、そこにはスケールの大きいビジョンがある。久々にビジョンのある企業家に出会ったという思いがした。  提言の要点だけ紹介すると、都心部の30ヘクタール規模の土地を法規制の枠を超えたフリーゾーンにして、多機能型の超高層都市をつくるというものだ。建物を超高層化する分、建ぺい率は非常に低くおさえて、足元に広い緑地や文化・スポーツ施設などを配置する。日常生活のほとんどを徒歩でできるような、緑豊かなコンパクトシティを描いている。高齢者にも暮らしやすく、通勤時間も短縮されるため、個々のライフスタイルを実現する時間もできるという。


●新コミュニティ論
しかし、日本には超高層居住アレルギーが強い。超高層住宅はコミュニティが育たないという声も多い。  ただ、都市のコミュニティは地縁から機能に変わりつつある。相互干渉、相互監視の共同体的コミュニティは建物の高さに関係なく崩壊しつつある。皆さん自身も地縁的コミュニティは望まないのではないだろうか。  こういうことをいうと、「身寄りのないお年寄りはどうなるのか」と反論する人が必ずいる。こうした人の頭の中には、「隣近所で独り暮らしのお年寄りの面倒をみる」という美しい構図があるようだ。しかし、女性の社会進出で日中家にいる人は減っている。また、個々の親切心に依存した福祉や介護には限界がある。頼られる側の負担も大きすぎる。  弱者の世話は専門家が報酬を受けながら行うのが望ましい。報酬が払えない人のためには、公的補助システムを構築すればよい。  経済学者というのは、機能に着目し、その機能がもっともよく働く方法を模索する。冷たく聞こえるかもしれないが、美談は誰かの犠牲で成り立っていることが多く、むしろ合理的に割り切るほうが幸せな結果を招くことが多い。


●不可欠な社会資本整備
都市改造に不可欠な要素は、交通関連の社会資本整備である。  日本の都市は道路率が低い。東京は環状道路の整備の遅れで、通過交通まで中心部を抜けるため、都心部は慢性的な交通渋滞に陥っている。  交通渋滞による都市の生産性の低下は無視できない。数珠つなぎになった首都高速道路を見るたびに「日本経済はどうして成り立っているのだろう」と不思議に思う。交通渋滞は大気汚染の原因でもある。  また、日本の公共投資は景気対策と地方活性化に向けられており、道路整備の優先順位も地方が高い。大都市が慢性的交通渋滞になっている一方で、地方には利用頻度の低い道路がつくられている。  道路整備の優先順位は費用対効果で図るべきである。空港整備や空港へのアクセスも同様だ。  また、道路整備の財源には土地関連の税金を使うのが妥当だ。混雑料金制度をつくり、一般道路も高速道路のように受益者負担の考え方を導入することも有効であろう。


●大胆な法規制改革も
都市の改造には、法規制や税制などの改革も欠かせない。  たとえば、都市基盤整備は土地の固定資産税で行い、建物の固定資産税は廃止すべきである。建物の固定資産税には合理性がない。建物に固定資産税をかけると、耐久性の高い優良な建物は税制上不利になってしまい、優良な社会ストックが増えないからだ。  日影規制も双方合意のもとに買い取りを可能にすればよい。ただ、その内容は登記簿に記載する必要がある。


●定期借家権を導入せよ
法律関係では借地借家法がネックになっている。  時代遅れの同法のために、良質な賃貸住宅の供給が阻害され、建て替えや土地の有効活用も進まない。賃貸住宅はライフステージに応じた住み替えができるという点で、都市居住に向いた居住形態である。定期借家権を早期に導入し、優良な賃貸住宅ストックを増やすべきである。  都市開発には長期にわたって莫大な資金が必要だが、金融機関の貸し渋りなどで都市開発に金が流れにくくなっている。この打開策として不動産証券化がある。  これによって投資家から直接資金を集めればよい。資金自体は長期の資金だが、それぞれの投資家は短期運用が可能という点で都市開発に有効な手法である。  さらに銀行融資は企業の信用力で実行されるが、不動産証券化を使えば、優良で将来の収益が見込めるプロジェクトであれば資金調達が可能になる。ただし、証券化を進めるうえでは、徹底した情報開示などの基盤整備は欠かせない。


●変わる地価決定メカニズム
最後に地価についてだが、地価が下がり続けているのは、地価決定メカニズムが変わっていることに納得できないためである。  今までの地価決定メカニズムは、将来の地価を予想して現在の地価が決まっていた。したがって人々が地価上昇を期待すれば、現在の地価も上がる。バブルが起こりやすいメカニズムである。  今でも「いずれ地価は反転・上昇する」と考え、利用していない土地まで抱え込んでいる人が多いため、本来の価値以上の高値がついている。しかし、これからはそういう時代ではない。  再開発などで土地を有効に活用し、そこから生み出される将来の収益に基づいて現在の地価が決まる時代になっている。  収益還元法による不動産評価制度の時代には、収益性を高める魅力的な開発や計画をすれば、そこの地価は下げ止まり、反転する。しかし、それ以外の土地は持っているだけで地価が上昇することは期待できない。  地価下落に歯止めをかけるのは、付加価値を高めるような開発や計画なのである。





第3回必修講義

テーマ/「都市の経済学」
講師/岩田 規久男(学習院大学経済学部教授)
日時/1999年5月13日
会場/アカデミーヒルズ(アーク森ビル36階)


岩田 規久男 講義目録
■第26期 '01.5.17
都市再生への課題と挑戦
■第23期 '99.11.18
 都市再生に向けて舵を切れ
■第22期 '99.5.13
 都市の経済学

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