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■手を動かす、脳を動かす デザインとは 身体の上に空間を創造していくこと 小池 千枝 文化服装学院名誉学院長 |
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近頃、大学を出てからファッションを志し、専門学校にやってくる人が増えている。文化服装学院名誉学院長の小池千枝氏は「これから本格的な勉強をするなら、立体の生きている人間を対象にすることが重要」という。今回の講義では、“小石を拾ってきて布で包み、表現する”という課題が与えられ、ボディーを使ったドレーピングも実演された。実習と実演を通して、塾生は大いに刺激され、それぞれに“何か”をつかんだにちがいない。
●生きている人間の服 日本人は平面感覚には強いが、立体感覚に弱い。日本の学生にイラストを描かせてみると、前と後ろだけの千代紙人形のようなものばかりで、立体を表現する学生はいない。立体感覚に対する強弱は、生まれ育ったところなどの環境にも影響される。たとえば、造形作家は平野部より山間部の出身の人が多いように思う。 平面製図で服ができないことはないが、ヨーロッパでは立体裁断が行われてきた。フランスのオートクチュールとそのデザイナー育成の現場を見に行ったとき、そこにはモノサシがなく、ボディーだけで服がつくられていることに驚いた。服はボディーに布を沿わせていくだけで、誰にでもつくることができる。洋服は立体と布の物性が絡み合ってできるものなのだ。 人は常に動く生き物で、その動きは美しい。美しさに自信を持ち、動きについてくる服をつくるためには、解剖学的な知識と立体裁断が必要である。 デザインとは、人の身体の上に空間を創造していくことだ。肉体の上にどれだけの空間をつくるかで、つくりだされる空間が運動量やラインになっていく。また、人が変身できるという要素も必要だ。 服づくりとは、「心があり、成長し、老化していく人間に服を着せるとはどういうことか」を考えることである。 ●ファッションから見る社会 ファッションも経済でバブルが弾けたように、ひとつのブームが永久に続くことはなく、必ずピークがあり、衰退がくる。 ファッションの世界では人は変化を好む。だが、今の日本の変化はあまりにも激しすぎる。これは、変化を煽りすぎているジャーナリストの責任でもある。フランスには、30年前、40年前のスタイルのままの人達が街中にいる。こうした自信は素晴しいと思う。もし変わり続けることがファッションの願望ならば、いい方向に変わってほしい。 布には縦糸と横糸がある。引っ張って、抵抗がきつく伸びないのが縦、抵抗が甘いのが横だ。最近の化学は均一を志向し、均一の糸の布が多くなった。だが、メリヤスや三宅一生のプリーツが流行っているのはなぜだろう。伸び縮みができるものだからではないか。均一は必ずしもいいことではない。教育にしてもそうだ。今の日本で問題なのは、均一の教育なのだ。 ●小石に向かい脳を刺激する 小石を拾って、布で包み、表現する。・・・被服造形教育に使える時間が極めて少ない現在のカリキュラムの中で、どうやって学生を刺激すればいいかを考えたのがこの実習だ。 小石を拾うことは、小石という概念を自分で規定することである。手の中に入る大きさのもの、手からはみだすもの、人によって小石の概念は違う。また、握った時の温度、触り心地など、惹かれたその人の趣味性がわかる。 小石を布で包んでみる。布で立体を包むことは、服づくりの基本である。ダーツをつけ、ピンを打ち、布の余分な部分を切り落として整理する。さらに合い印や縫線をつけた後に、布を展開してみよう。最後に小石のスケッチ、展開図、立体に縫い上げた布を一緒にレイアウトして、コピーをつけてみる。そこにはその人の個性が表現されているはずだ。 小石を何に使うのか、目的は何かを考え、試行錯誤を繰り返す実習で、自然に想像力が身につく。立体的にものを考えるきっかけにもなるだろう。そして、もうひとつの重要な点は、手を動かすことだ。手を動かしている間、脳細胞は動いている。何かものを残すことで、その人の思考が表現されるのだ。 第12回必修講義
テーマ/「手を動かす」 |
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