■日本型映画ビジネスの今後
システムから変わる日本映画の世界

樋口 真嗣 特殊映像演出者/ガメラ3特殊技術監督


映画の世界にもデジタル化の波が押し寄せている。「スターウォーズ・エピソード2」では100%ビデオ編集を行い、衛星で劇場配信して上映するという、制作から流通までの完全なデジタル化が予定されている。すでにCGなどのデジタル技術は、映画制作において必要不可欠なものだが、そこにはより納得できる、新しい表現力が求められている。日本を代表する特撮監督である樋口氏が、映画制作のデジタル技法と日本映画界の現状を語る。


●特撮映画づくりのポイント
映画のリアリティーは、実際にあるもののなかに偽物をひとつ入れることで、偽物に説得力をもたらし、本当にあったものと思わせる効果を出すことによってつくられる。そのため、怪獣はミニチュアでつくらず、実際の風景のなかに3DCGの怪獣を合成する手法をとっている。  これまでのキャラクターの動きは、重力や熱などのさまざまな物理法則に制限されていた。3DCGのおかげでその束縛から解放されたのだが、説得力のあるリアルな動きを撮るためには、3DCGにも物理計算を導入して動きをつくっている。  怪獣映画の場合、怪獣がどこで戦うか、どこを次に壊すかもひとつの重要なファクターである。どこか特定できない場所では、共感、恐怖感、爽快感も得られないので、背景選びは大切にしている。  怪獣映画はでき上がったフィルムによって、1)芝居を撮っている部分、2)ミニチュアなどの実際にはないものを撮影している部分、3)1と2の両方、またはその片方同士を合成することでまったく違ったものをつくった部分、の3つに大きく分類される。  今回の「ガメラ3」は全体のカット数1100カット強のうち、CGを含めた合成の部分が179カットあり、3シリーズのなかで合成カット数が一番多い作品ということになる。だが、この数字は「スターウォーズ・エピソード1」の合成カット数2002カットに比べればもちろんのこと、他の映画に比べてもかなり少ない数である。  合成カットは1カット当たりの制作コストと時間が非常にかかる。限られた時間のなかで優れた映画をつくっていくためには、ここ一番の効果を上げられるところに合成カットを使う工夫が必要だ。  特撮技術は世界的にもどんどん進歩し、観客ももっと凄いものを求める動きが加速してきている。刺激の賞味期限はどんどん短くなっているのだ。  この世界に入った以上、より速く進んでいかなくてはならないが、最近では劣化しても味わい深い、賞味期限の長いものづくりを目指していきたいという気持ちもある。  コンピュータでつくられたものには血が通っていないという評価もあるが、人の心を動かせる、血の通ったCGづくりにも取り組んでいきたい。


●特撮監督という仕事
特撮監督という仕事は怪獣映画制作の枠組みから生まれたものだ。  一般映画のなかにも特撮はあるが、それはたとえば、フレームのなかの余分な風景を消すとか、飛行機を飛ばすなど、1カットに対する演出上の操作であり、演出家の演出的目的を汲み取って通訳する役割なのだ。  一方、怪獣映画の場合は怪獣の出番が多く、撮らなくてはならない連続するカットも多く、現場の規模が大きくなってしまう。そのため、1人の監督が兼任することは難しい。また、多くの監督は目の前のものをどう動かすかには慣れていても、目に見えないものを判断することには慣れていない。  特撮監督の仕事は、あってはならないもの、起きるはずのないことをいかにイメージして、具体的なところまで落としていくか、そして何よりも怪獣という出演者を演出していくことなのだ。


●映画はマーチャンダイズ
1965年にはじめてスクリーンに登場し、70年代のヒットになった「ガメラ」を大映や徳間書店などがSFX映画として復活させたのが、「ガメラ 大怪獣空中決戦」(95年)、「ガメラ2 レギオン襲来」(96年)、「ガメラ3 邪神〈イリス〉覚醒」(99年)のシリーズ3作品だ。  今、なぜ「ガメラ」なのか。  それは「ガメラ」が、マーチャンダイズとして、昔から認知されていて、キャラクター商品のライセンス料など、周辺ビジネスにおける収入が見込めるからという側面も否定できない。  今、映画は純粋な映画ではない。  映画制作は、まず第一に制作費を回収しなければならないため、「当たればいい」という博打を打ってもらえる代物ではないのだ。  スターウォーズの場合は、キャラクターのフィギュアの5年間の独占使用権が前渡し金で5億ドル、さらに売り上げの20%が入ることになっている。これにより、「エピソード1」の制作費1億6000万ドルを公開前にすでに回収してしまったばかりか、向こう2作分の制作費も確保してしまったことになる。  映画はマーチャンダイズであるという状況が、ある意味で映画の行き着く先なのかもしれない。より良いものをつくるためにはお金が必要で、やりたいことが膨れれば膨れるほど、必要なお金も膨れていく。売り上げとして見込めるものを最初から保証しなければ、誰も動いてくれないのが現実なのだ。


●スクリーンは増えているが・・・
日本の映画人口は年間1億1000万〜1億2000万人で、単純に総人口で割ると1人が1年に1回映画を観に行くという程度の規模だ。スクリーン数は現在約2000スクリーン。  米国の推測によれば、日本には7000スクリーンのキャパシティがあるといわれ、外資が展開するマルチコンプレックスの増加で着実にスクリーン数は増えている。スクリーン数の増加や外資の活発な参入は、日本の映画市場に旨みがあることの証拠でもある。しかし、日本国内の映画産業は近年、元気のない状況が続いている。


●日本映画が元気のない理由
その理由のひとつには日本の映画産業の成り立ちの悲劇がある。東宝に阪急が、また東映に東急がついていたように、日本の映画産業は、もともとはディベロッパー的発想で、郊外の人に電車を使ってもらうために興されたもので、それを生業としようとしたものではない。  日本映画界ではこれまで、東宝、東映、大映、日活、松竹の5社が独自の配給網を持ち、独自の撮影所で、専属の役者を抱えて映画制作を行ってきた。その体制が制作の現場から崩壊し始めている。  映画制作の現場は大半が外注で、自社制作はほとんどしていない。スタッフも9割9分がフリーランスなので、そのなかでコンスタントに映画をつくり、同じスタッフを維持し、スキルアップを狙うことは難しい。  撮影所で映画をつくるシステムは、あと10年もすれば完全に崩壊するだろう。その時、どのような体制で映画をつくっていけるかがこれからの課題だ。


●行きたくなる映画館を
最近、映画館で映画を観ることは、それほど重要なことではなくなってきている。  市場としても、劇場の売り上げが年間3000億円であるのに対し、ビデオは3500億円。レンタルのTSUTAYAチェーンだけでも、ビデオで映画を観る人は年間1億3000万人いるという。  その理由として、映画があまり劣化しない形でビデオとしてパッケージ化できるようになったこともあるが、そもそも、料金が高く、込んでいて、夜遅くまでやっていないような映画館で、映画を観る行為自体が、あまり楽しくないこともある。  外資のシネマコンプレックスが好調な理由は、客が喜ぶ柔軟なサービスを提供する姿勢にもありそうだ。これからは観客を喜ばせるサービスと努力が映画館の側にも問われよう。


●日本映画の生き残りの条件
制作手法、制作現場、配給システムなど、映画の仕組みそのものが大きく変わろうとしている。日本映画にも1本の映画としての競争力が問われる時代がやってきたのだ。日本映画と外国映画が同じ土俵で競争していくうえで、日本映画の有利な点はいったいどこにあるのか。  昨年から今年にかけて公開された「踊る大捜査線」は日本映画界久々の大ヒットとなった。テレビシリーズの映画化作品だが、設定だけを借りてスケールアップし、テレビとは別のものをつくり上げ、テレビシリーズの予備知識がなくてもすぐに入り込めるものだった。テレビシリーズを観ていた人にとっても、テレビの夢の続きを楽しめる魅力的な作品だったことだろう。感動したのは最近の日本映画が疎かにしている、架空の存在をリアルに見せるための細かい演出がきちんとされていたことだ。  テレビはその評価がすぐに数字としてはね返ってくるという緊張感のなかでつくられるので、細部にわたる努力がきちんとなされている。映画の世界もこの点は見習わなくてはならない。


●大量消費のコンテンツとして
映画は映画好きが集まるものをつくってもヒットにはならない。1年に1本しか映画を観ないような、いわば、映画を観る目を持っていない人が面白いと思えるようなものの奥にこそ、これからの映画づくりのヒントが隠されているのではないか。  極論すれば、最低限の満足感さえあれば、後はいかに凄いものが観られるという雰囲気をつくれれば、それでいいのでは・・・とも思い始めている。  これからは映画を観ていない人がどんどん増えていく。観る目が肥えると、映画を観る時に、過去に観たものの記憶や知識に照らして観るようになってしまう。こうした慣れに陥らず、1年に1本しか映画を観ないような人に対して何を訴えていけばよいのかを思案している。大量消費のコンテンツとして映画をつくってみることで、初めて次の一歩が踏み出せると思う。  自分にとって一番嬉しいのは、たくさんのお客さんが観にきてくれて、喜んでくれること。ものをつくるうえでの根源的な衝動は大勢の人に観てもらえることだ。どうしたら大勢の人に観てもらえるかは、ビジネスの前提ともつながっている。





第11回必修講義

テーマ/「日本型映画ビジネスの今後」
講師/樋口 真嗣(特殊映画演出者/ガメラ3特種技術監督)
アドバイザー/濱野 保樹(東京大学大学院新領域創成科学研究科メディア環境学助教授) 日時/1999年7月26日
会場/アカデミーヒルズ(アーク森ビル36階)


academyhills.com