■イノベーションと企業家精神
創造型ナビゲーター、デジキューブの
コンビニエンス戦略


米倉 誠一郎 一橋大学イノベーション研究センター長・教授
鈴木 尚 株式会社デジキューブ代表取締役会長兼CEO



米倉 誠一郎
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「日本の雇用を救うのは大企業ではない、ベンチャー企業だ」と語る米倉誠一郎氏。「ベンチャー企業を興した本人から直接話を聴くことで、企業家精神と卓越した戦略をシミュレートしてほしい」という考えから、今回はデジキューブの鈴木会長が登場。鈴木氏は全国のコンビニにゲームソフトや音楽CDを配信するビジネスで成功した。前半を米倉氏の講義、後半は鈴木氏の講義の二段構えで紹介する。

◇米倉 誠一郎
「活力を取り出す仕組み」


●経営もアートも基礎は必要
経営はアートに似ている。  これから紹介するデジキューブの鈴木さんを始め、ベンチャー企業家はそれぞれ独創的な経営戦略で成功した。皆さんの中には、こうした人々の話を聴きながら、経営理論が現実の経営に本当に役立つのかと疑問に思うかもしれない。しかし、独創性がいかに大切といっても土台が必要だ。  たとえば、究極の独創性で勝負するアートの世界であっても、先人たちの優れた作品を見聞きし、五線譜の読み方を学習する学校がある。五線譜が読めるからといって偉大な作曲家になれるわけではない。しかし、五線譜を読めなければ、偉大な作曲家への道は遠い。  僕の授業ではベンチャー企業を興した人々を招き、本人の口から語ってもらう機会をできるだけ多く設けるようにしている。これはロールモデルを見せて皆さんに追体験してもらうためだ。  今日はそういうわけで、デジキューブの鈴木会長をお招きしたが、まず、僕から、鈴木さんのようなベンチャー企業がなぜ日本にとって大切なのかを説明したい。


●大企業は「雇用なき回復」へ
「国際競争力がある日本企業を挙げよ」というと、ソニーやホンダなどの製造業の名前が挙がる。しかし、GDPにおける製造業の割合は25%を切っており、もはや製造業だけで日本経済を支えることはできない状態だ。  今までは大企業が時代に合わせて自らを変化させていくことで、競争力を保ってきたが、これからはそれも望めない。なぜなら、大企業は否応なくグローバル・コンペティションに巻き込まれ、デファクト・スタンダード(事実上の標準)である米国の経営に合わせざるを得ない状況になっている。  米国の経営とは、GEに代表される「株主重視のコーポレート・ガバナンス」であり、企業は絶え間ないリストラクチャリングとリエンジニアリングを繰り返しながら、株主配当を高めていくことが要求される。  ちなみにGEのジャック・ウェルチは企業の価値を80倍に高めたが、雇用はほとんど増えていない。IBMに至っては30万人から10万人に従業員を削減している。  つまり、大企業はこれから「雇用なき回復」の道を辿ることになる。大企業に期待しても、新たな雇用は創造できない宿命にある。


●企業の高齢化が進む日本
大企業のレイオフによって、米国は800万人の雇用を失ったが、ベンチャー企業などの新産業の創造によって1200万人の雇用が生み出された。  新産業創造の象徴がシリコンバレーである。シリコンバレーは土地の名前ではなく、もはや新しい経済モデルの名称と認識してほしい。新しい経済モデルによって、米国社会は企業の廃業率が開業率を上回るようになっている。  しかし、日本では企業の廃業率が開業率を上回っており、新しく誕生する企業の数は米国と比べて著しく少ない。  日本の高齢化は人間だけの話ではない。企業でも高齢化が急速に進んでおり、経済活力を失いつつある。


●予測不可能な市場で成功する
マーケットは多様で瞬時に変わる。こうした予測不可能な市場において成功する条件は次の3つである。
1.ネットワークで生き残る
2.情報を集め、顧客と共に動く
3.数を打つ
3番目の「数を打つ」について説明する。宝くじのように、エントリーリスクが低く、リターンが高いゲームには皆が参加する。これと同様に、新産業創造にはエントリーリスクの少ないベンチャーキャピタルがなくてはならない。また、米国のように成功した企業家が高いリターンを手にする仕組みがなくてはならない。  また、「失敗した人を笑わない」という社会でなければならない。数を打つゲームでは、成功するより失敗する確率のほうが圧倒的に高い。そうした中で失敗を重ねながらまた立ち上がって成功を目指せる社会でなければならない。  米国はこうしたシステムをつくり上げたために、新産業を創造し、雇用を拡大させることができた。


●大企業の活力を増す仕組み
活力が低下した大企業に、エキサイトメントをもたらす仕組みについても考えてみよう。  米国最大の小売業ウォルマートを例にとる。  ウォルマートではレジの従業員までウォルマートの株を持っている。「会社の業績が上がれば自分も豊かになれる」というモチベーションが一介の平社員まで浸透している。この企業では社長を含めて出張はすべてエコノミークラスであり、泊まるホテルはビジネスホテル、しかも社長であっても2人以上の出張では相部屋だ。企業の業績を上げる源泉は顧客であり、1セントも余分なお金を顧客に払わせないために、こうした厳しいルールがある。  ウォルマートの年次総会の最後、会長が従業員に向かって叫ぶ。 「Who is number 1 ? ( 誰が一番だ?)」 社員の声が会場を揺るがす。 「Customer!! (お客様だ!)」  大企業に勤めている皆さんには、エキサイトメントをもたらすマネジメントを真剣に考えていただきたい。では、ここでデジキューブの鈴木尚氏にバトンタッチする。


◇鈴木 尚氏
「創造型ナビゲーターへの道」


●成功、そして失敗の軌跡
慶應大学在学中に、仲間と一緒にゲームソフトの制作会社「スクウェア」を興した。これが当たってまさに一人時間差バブルを謳歌していたが、粗製濫造になり、会社は傾いた。銀座のオフィスを上野に移し、社員も半分にして、社運をかけて主力メンバーを「ファイナルファンタジー」開発に投入した。この大ブレイクでスクウェアは救われた。「ファイナルファンタジー」は僕等にとっての最後の賭、文字通りファイナルファンタジーだった。  スクウェアは、1996年にデジキューブを設立した。デジキューブはコンビニエンスストアにゲームソフトなどを配給する会社である。  この会社を立ち上げるとき、周りからもマスコミからも散々「この事業は失敗する」といわれた。「客単価1000円にも満たないコンビニで1本数千円のものが売れるはずがない」という理由だ。しかし、セブン-イレブンの鈴木会長がコンビニでおにぎりを売ろうとしたときも周りが全員反対したが、それを振り切って成功した。「信じることをやるしかない」という鈴木会長の言葉に励まされた。


●問屋ではなく、お見合い業
現在、僕等がソフトを配給しているコンビニは全国で約1万8500店舗。1998年に店頭登録し、現在約84名で年間売り上げ約450億円を上げている。扱う商品はゲームソフトが一番多く、売り上げの半分以上を占めている。そのほか音楽CD、ビデオソフト、PC(パソコンソフト)、DVDソフトなどへ拡大している。  デジキューブを店頭登録するとき、僕はサービス業だと主張したが、流通業のくくりに入れられてしまった。しかし、「コンビニという場をお借りして、求めている人と求められているモノをマッチングするお見合い業」と考えている。世の中には隠れた良品がある。それを発掘してオーディナリー・ピープルに届けるのが僕等の仕事だ。かっこよくいえば、「創造型のナビゲーター」である。  「デジキューブがレコメンドするソフトは面白い」と皆に思ってもらうために、扱い商品の発掘と選択には力を入れている。ゲームソフトは年間約1000本出るが、僕等が扱うのはそのうち100タイトルくらいである。この選択はモニター制度を活用している。時々、テレビでもモニター風景が紹介されるが、テレビの画面に向かって数十人のモニターが黙々とゲームをしている異様な光景だ。彼らがこちらで作成したフォーマットに従って、数多くの項目に点数をつけていく。  これをもとに予約データなどさまざまな情報を係数化して仕入れを決める。ゲームソフトについては発売当日に何本売れるか高い確率で予測できる。


●機会損失と在庫のバランス
この商売にとって、機会損失と在庫のバランスを最適化することが非常に重要だ。CD-ROM媒体は生産原価が安く生産時間も短いので、基本的には「需要があるのに商品がない」という機会損失を避けるのに適した媒体。しかし、機会損失と在庫の最適バランスを図るために、ソフトの厳選によるデジキューブ扱い商品への期待度・信頼度を高めることと、徹底した情報収集・分析による売り上げ予測によってこの課題を解決している。 デジキューブの電算センターには、全国のコンビニの日々のPOSデータを集積し、全店の売り上げ状況をマトリックスで示すシステムが構築されている。これによって最適配送を可能にしている。  ちなみにセブン-イレブンからPOSデータが直接もらえるのはデジキューブと書籍の取り次ぎのトーハンだけだ。一般商品とは商品特性が違うので、コンビニの店長の判断で注文して、それに基づいて配送するのではリスクが大きい。成功させるためには、デジキューブが数も取り扱いタイトルもコントロールしていくシステムが不可欠だった。


●衛星を利用して配信へ
デジキューブが商品を配送しているコンビニには、衛星放送をキャッチするアンテナとモニター画面付きの什器を設置してある。デジキューブはスカイパーフェクTV!の放送免許をもっており、衛星を通じて各店舗に映像などの情報を流している。  99年12月8日より、衛星を利用して直接デジタルデータを配信し、店頭でMDにデータを書き込む実験を開始する予定だ。「空から音楽が降ってくる」という時代はもうすぐである。  スカイパーフェクTV!と契約し、各店舗にアンテナと機材を設置したのも、そうした時代を見据えてのことだ。  今後は家庭でもインターネットを通じてダウンロードして媒体に書き込むことができるようになるが、デジキューブが用意する業務用機材は、クオリティーとスピードにおいて家庭用よりはるかに高い性能を備えており、十分に勝算はある。





第10回必修講義

テーマ/「イノベーションと企業家精神」
講師/米倉 誠一郎(一橋大学イノベーション研究センター長・教授)
ゲストスピーカー/鈴木 尚(株式会社デジキューブ代表取締役会長兼CEO) 日時/1999年7月15日
会場/アカデミーヒルズ(アーク森ビル36階)


米倉 誠一郎 講義目録
■第20期 アカデミーヒルズインタビュー
■第25期 '00.12.14
 女性をエンパワーメントさせるメディアを
■第24期 '00.5.18
 マザーズ1号からの教訓
■第23期 '00.1.20
 イノベーションと企業家精神
 〜日本最大のインターネットモール「楽天市場」の挑戦〜
■第22期 '99.7.15
 イノベーションと企業家精神
 〜創造型ナビゲーター、デジキューブびコンビニエンス戦略
■第21期 '98.11.26
 メガコンベンションと日本の課題
■第21期 '98.12.10
 企業家能力とは何か
■第21期 '98.12.17
 組織構造と経営戦略の相関性
■第21期 '99.1.14
 企業の多角化戦略

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