変わる大学
社会、産業との新結合を目指して

昨年、小渕首相が招聘した経済戦略会議は「健全で創造的な競争社会」というビジョンを私たちに示した。そして、競争型社会のセーフティーネットとして、競争の敗者が能力を磨いて再挑戦できる仕組みを社会の中に組み込む胃ことを提言した。「日本経済の将来を決めるのは究極的には教育」という経済戦略会議の要請に日本の大学は応えられるだろうか。

1999年4月、「早稲田大学アークカレッジ」の開校式で、同大学の奥島孝康総長は「これは守備から攻撃へ転換する象徴である」と語った。早稲田大学の独立大学院、アジア太平洋研究科の授業を予定しているほか、7月には「ホスピタリティ・マネジメント」という新しいテーマの短期講座が開かれ、実業界からも多くの参加者を集めた。
好敵手、慶應義塾大学は、1996年からアカデミーヒルズをサテライトとして、起業家を育成するアントレプレナー・スクールや湘南藤沢キャンパスの授業の一部を行ってきた。
 ……アカデミーヒルズでスタートする「知的早慶戦」。真のテーマは大学改革への挑戦とみることもできる。

大正大学は社会人向けの公開講座や大学院予備スクールなどを開講。いずれも社会人の「人間探究」をテーマに、ユニークな講師陣を招いている。
また、昨年は、一橋大学大学院生とアーク都市塾塾生が共に学ぶ合同イノベーションゼミが開かれた。ソフトバンクの孫社長など、実業界のイノベーターを招いた経営フォーラムでは、対象企業のトップを前に大学院生や塾生が率直な経営分析を発表し、白熱した討議が繰り広げられた。
そのほか、インターネットで米国カリフォルニア大学バークレー校とアカデミーヒルズを結び、日米学生による都市環境シミュレーションも実施された。
このように、アカデミーヒルズの活動の一端からも、大学間の壁や、産・官・学の壁、国の壁をブレイクスルーする動きが加速度を増していることが感じられる。
社会が変わるのは、小さな変化の積み重ねが臨界点を超えたとき。アカデミーヒルズを舞台に、変化の連鎖が紡がれている。

米国の現在の繁栄は、先端産業に独創的な頭脳が供給されたからだという見方がある。
シリコンバレーの興隆にスタンフォード大学の果たした役割は非常に有名だが、そのほかにも、産業界のニーズを積極的かつ柔軟に受け入れて躍進した大学がある。シカゴのデブライ大学は株式会社として大学経営に市場原理と競争概念を持ち込み、成功のビジネスモデルをつくった。
「知」の競争を繰り広げる先端ビジネス。そこで求められる頭脳を「調査・企画・開発・生産・供給」しようと、米国の大学は企業のように考え、行動しはじめた。

翻って日本はどうか。
世界から護送船団方式と非難された日本の金融業界。しかし、日本にはこれ以上に硬直化している世界が2つある。教育とマスコミだ。
これらが「出る杭」を徹底的に打ち、均質な思考と知識をもった人間をつくり出してきた。こうした日本型システムが高度成長期を支えてきたことは確かである。
しかし、これからは解答のない時代に突入する。命令されたことを忠実に実行するのは、人間ではなくコンピュータだ。人間に求められるのは自ら問題点を見つけ出し、解決するシステムを創造し、プレゼンテーションする能力である。いくつかの大学はこうした変化に対応するため、大学改革に取り組んでいる。
複雑に絡み合う現実社会を分析するための学問の総合化、実践力や独創性を養うカリキュラム……。社会と学問が急接近している。

経済戦略会議は、競争社会の敗者に再挑戦の機会を与える場のひとつとして、社会人に開かれた大学を求め、学費の一部を「能力開発バウチャー(切符)」で補助するシステムを提案した。いわば知的資源への新型公共投資である。
少子化に伴う「大学全入時代」への大学側の危機意識も手伝って、社会に向けて大学の門がゆっくりと開かれようとしている。
アカデミーヒルズの役割は、そうした知的開国を促進する現代版の「出島」。大学と社会、日本と海外を最短距離で結ぶために、現代版の出島は企業の集積する都心の上空、世界とも高速インターネット回線で結ばれたアーク森ビルの36階に開かれている。