■いまなぜ証券化なのか
背景にある日本経済の変化

佐藤 一雄 株式会社サタスインテグレイト代表取締役社長


佐藤 一雄
講義一覧▼


今日のように不動産証券化が注目されるようになったのは、日本の産業構造が変化しつつあると同時に、旧来からの金融システムが、その変化に対応しきれないからにほかならない。不動産小口化商品の開発以来、さまざまな形で不動産の証券化に取り組んできた佐藤氏に、証券化が進む背景を解説していただいた。


●求められる製造業的発想
アメリカにおける不動産不況時にREITを大きく成長させ、「墓場のダンサー」の異名をとったサミュエル・ゼル氏は、1992年以降、開発事業から撤退し、すでに完成しているビルで事業を展開している。彼は「自分の足に合う靴を探すのではなく、靴に足を合わせる時代である」と語っている。「靴」とは資本市場であり、「足」は不動産である。  要するに1992年以降のアメリカは、資本市場の要求に不動産を合わせる時代に入った、という意味だ。  日本の不動産業も同様の変化が求められている。製造業に近い形で情報を開示し、不動産証券化商品であればその中身が見えるようにしていかないと融資を受けられない、というのが現在の資本市場だ。  製造業は製造原価や売り値が明確だ。これをオフィス・ビルに当てはめてみると、製造原価はビルの建築費や管理コストであり、売り値がビルの賃料である。そうした商品がどう売れていくかがキャッシュ・フローということになるが、キャッシュ・フローが明確でなければ、融資を受けられない時代になった。  事実、サミュエル・ゼル氏も「コカ・コーラやトヨタのような会社を目指している」と発言している。まさに、不動産を製造業に近づけようということである。これからは不動産についても、製造業的な発想が重要だろう。


脱・地価依存型経済
今、不動産証券化が注目されているのは、日本経済の構造が変化し、それに合わせて不動産市場も大きく変わろうとしているからだ。  日本経済は、地価依存型から脱却し、成熟経済へ移行しつつある。産業構造を見ても、サービス業の占める割合の伸びが著しい。GDPに占めるサービス業の割合は、1960年が7.3%であったのに対し、95〜96年頃では17%にもなっている。  サービス業の伸長は、不動産市場への影響も大きい。製造業とサービス業では必要とする不動産の内容が大きく異なるからだ。  経済構造の変化につれて、地価の動きも従来とは異なってくる。土地神話を支えてきた右肩上がりの地価上昇は期待できず、これからの地価はプラスとマイナスを行き来するようになると予想されている。欧米で言われる「地価のサイクル性」と呼ばれる動きを見せるようになるだろう。  当然、不動産投資は、従来の「ローリスク・ローリターン」ではなく、「ハイリスク・ハイリターン」か「ハイリスク・ノーリターン」にならざるを得ない。  従来は持っているだけでキャピタルゲインが望めたが、これからはインカムゲインが収益の中心となる。不動産を所有している人は「持っているだけでは損をするかもしれないから、売って利益を得よう」という動きが活発になるだろう。土地を所有しているだけでは企業の格付けが上がらない。これからはどう利用し、収益を上げていくかが重要になる。  こうした経済構造の変化と不動産市場の変化が不動産証券化のベースである。


●金融の仕組みも大きく変化
金融の仕組みも大きく変化し、新しい金融の仕組みの誕生が切望されている。これまでの日本型経済システムでは、「株式持ち合い」「土地本位制」「メインバンク制」の3つが「三種の神器」であった。しかし、現在は「三種の神器」が崩壊し、大混乱に陥っている。それが不動産証券化に繋がっている。  戦後以来、大蔵省を中心として形成された金融システムは、変化せざるを得ない状況だ。戦後の金融機関はインフラ整備のために基幹産業に融資してきた。これは資産配分のシステムであり、社会主義的なシステムであった。  しかし、今や旧来の金融システムでは血液が十分に流れず、経済は貧血状態に陥っている。この状態を脱却するためには、バイパスを設け、血行をよくしなければならない。そのために新しい資金の流れをつくる必要がある。  ポイントは2つある。第1は資産を投資の対象とすること。第2は、ファンドや 新しい金融仲介機関を誕生させることだ。ファンドは株式などにも投資するが、不動産の証券化商品にも投資する。一方、新金融仲介機関はノンバンクに近いイメージで、資本市場で資金を調達し、企業に融資する機関である。  新しい資金の流れは、企業や個人から資産を引き出し、それを中心に資金を回していく世界をつくろうというものだ。その資産の一つとして、証券化商品がある。


●重要性増す金融資産運用
国民の金融資産は現在約1200兆円に達し、2020年には2500兆円になるという試算もある。この金融資産の運用がこれからの大きな課題である。現在の銀行は、資金を集めるノウハウに比べると、運用のノウハウが低いと言わざるを得ない。  日本人は銀行を信用し、現在の低金利の状態でも銀行に預金を続けている。しかし、資産運用のニーズは確実に高まっている。そうしたニーズの受け皿の一つとして、不動産証券化商品の存在意義がある。  不動産の証券化は、企業が資本市場から資金を直接的に集める手段としても有効だ。企業は従来、銀行からの融資を中心に資金を調達してきた。しかし、銀行という心臓が傷んだために貧血状態に陥っている。この状態を改善するためには、不動産証券化により、市場から直接資金を集めるシステムを設ける必要があるだろう。


●直接金融か間接金融か
不動産証券化によって資本市場から資金を調達できるメリットばかりが喧伝されている。しかし実際的に「間接金融」と「直接金融」のどちらが有利かは、個別に分析してみなければわからない。たとえば、ある企業が自社で所有するビルを証券化して売った場合、資金は入ってくるが、賃料収入はなくなってしまう。証券化によって格付けは上がるのか、銀行から融資を受けるより有利なのかなど、慎重に判断しなければならない。  日本の銀行は現在、GDP以上に融資をしている。リスクを背負いきれないほどに信用創造し、貸し過ぎている状態だ。それが不良債権の問題である。そうした状況を背景に、銀行は今、リスクに応じて金利を設定しようと動き始めている。これも間接金融と直接金融のどちらが有利かを判断するうえで、重要な要素となってくるだろう。  





環境デザインスクール不動産証券化講座第1回

テーマ/「いまなぜ証券化なのか」
講師/佐藤 一雄(株式会社サタスインテグレイト代表取締役社長)
日時/1998年11月10日
会場/アカデミーヒルズ(アーク森ビル36階)



佐藤 一雄 講義目録
■第23期 '99.4.27
いまなぜ証券化なのか
■第23期 '99.5.11
 不動産証券化とはなにか
■第23期 '99.5.18
 不動産価格-このとらえようのないもの
■第23期 '99.6.1
 動き始めた一般投資家向け商品
■第23期 '99.8.31
 規制緩和と環境整備が不可欠
■第21期 '98.11.10
 いまなぜ証券化なのか
■第21期 '98.11.24
 不動産特定共同事業法の活用と課題
■第21期 '99.2.9
 不動産投資インデックス

academyhills.com