| 精神世界の秩序を壊し、 無限の可能性に挑戦できる社会へ 必要なのは「社会のタガを緩める」こと 米倉誠一郎 一橋大学イノベーション研究センター教授 |
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日本と日本人のパワーが落ちている。21世紀に向けてどうすれば活力ある経済と社会に転換できるのか。
経済発展の原動力として、イノベーションおよびイノベーションの遂行者としての企業家(entrepreneur)育成の必要性を説き、エネルギッシュでユニークな授業を展開している米倉誠一郎教授に、日本と日本人が元気になるために必要な仕組みを聞いた。 ---- 学問の役割のひとつは現実の問題を解決することではないかと思います。今、日本経済の活力が低下し、日本人ひとりひとりが迷い、元気を失っています。この問題をどう解決したらよいのでしょう。 米倉---- まず、従来の精神世界の秩序を破壊することです。社会のタガを緩める必要があります。 といっても、もちろん不道徳や無秩序といった社会的なものではなく、精神社会のタガということです。他のタガなら十分緩んでいますからね。しかし、日本人のメンタリティーは実に窮屈です。いい学校を出て大会社に入ることが目的になるような社会では元気が出るはずがない。 社会のタガが緩んでそれまでの秩序や序列から解放されたとき、人間は非常に大きな力を発揮するものです。たとえば、英国の産業革命や日本の明治維新は、まさに精神世界の秩序の破壊によってもたらされたのです。 他国の後塵を拝していた英国に、なぜ、産業革命が起こったか。…… 市民革命によって既存の秩序が崩れ、人々の精神が自由になったからです。また、世界の海を制したことで新しい世界観とも出会った。それによって、蒸気をパワーに変えるといった新しい発想やシステムが生み出されたのです。 ---- 古い世界の秩序から解放されれば、新しいシステムが生み出され、社会が活性化するわけですね。 米倉---- 歴史上の話だけではありません。3年ほど前に、シリコンバレーでいろいろな施設を訪ねて、本当に膝が震えました。大変なことが起こっているぞ、と。 シリコンバレーには、多くのベンチャーがチャレンジできるシステムがある。失敗しても再度チャレンジするまで働く場を提供する互助システムがある。また、シリコンバレーで成功した台湾、中国、インドの人々は、同国の仲間にノウハウを公開し、仲間のビジネスを支援するネットワークをつくり上げています。 しかし、日本人は「あそこは特殊ですからね」と言う。それは全然違う。どこの国のものだろうと、素晴らしいシステムはすぐに取り入れるべきなのです。 ---- メンタリティの異なる日本に米国のシステムが根づくのでしょうか。また、それで日本人が本当にハッピーになるのでしょうか。世界にも通用し、日本人のメンタリティにも合った「日本モデル」を探すべきなのでは? 米倉---- ゼロから「日本モデル」を探すのは効率の悪いやり方です。まず、いいものを真似することです。社会学的に言えば「独創は真似から始まる」のです。 世界の企業だって、日本のシステムを取り入れて自国流に発展させています。米国企業は、最初、日本の製造業の「ケイレツ」を日本独自の封建的やり方と歯牙にもかけなかったけれど、今では取り入れて日本以上に上手に活かしている。逆のパターンが「QC(品質管理)活動」です。米国が生んだシステムを日本が発展させて、米国に逆輸入した。 システムに国境はない。いいシステムを世界中から取り入れて消化していけば、その結果として「日本モデル」が見つかるはずです。 ---- 日本は製造業は優秀でも、第3次、第4次産業では米国に劣る。どこに原因があるのでしょうか。 米倉---- それが今後の日本にとって大変な問題です。GNPに占める製造業の割合は25%を切っている。製造業がいくら頑張っても10人のうち2〜3人しか養えない。残りを雇用する産業を伸ばすシステムが必要です。 しかもソフト産業のイノベーションは製造業とは比べものにならないスピード。だから新しいことにどんどんトライできるシステムでなければならない。大切なことは、日本人に独創性がないとか、イノベーティブではないということではなく、システムが遅れていると認識することです。 ---- そのシステムとは? 米倉---- 「宝くじ」を考えてみてください。周囲で大金を当てた人という人には一度も会っていないのに、大半の人が買ったことがあるでしょう。その理由は、第1に安いこと。つまりエントリーリスクが低い。第2は当たった時の賞金(リターン)が高いことです。もし、宝くじが1枚10万円もして、最高賞金が100万円だったら誰も買わないでしょう。 ---- なるほど、よくわかります。 米倉---- 宝くじと同じで、新産業育成には第1にエントリーリスクが低く、リターンが大きいシステムをつくること。第2は失敗を許容できる社会に変えることです。 日本の銀行はベンチャーになかなか融資しないし、たとえ融資したとしても、ベンチャーにとって銀行融資は非常にリスクが高い。失敗したら残るのは借金だけですからね。ベンチャー企業の育成には、起業家にとってエントリーリスクの少ないベンチャーキャピタルが不可欠です。 また、起業するにも日本では何かとコストが割高。少し前の話ですが、日本で個人宅にT1ライン(高速情報通信線)を引くと基本料金が約200万円/月、米国では約8万円/月。この差はいかんともしがたい。 リターンの面でも日本は不利です。株式上場が非常に難しい。昨年店頭公開した企業はたった4社です。米国の約100分の1なのですよ。米国では成功して株式を公開すれば大変な利益を上げられる。たとえば20セントの株が何百倍にもなる。 ですから、米国ではもっとも優秀な人間は起業しますが、日本では官庁や大企業に入りたがる。いくら「ベンチャー、頑張れ」と鼓舞しても、エントリーリスクが高くてリ ターンが少ないゲームに誰が参加するでしょうか。 ---- しかも、日本では失敗したら立ち直れない。 米倉---- ええ。社会のタガがぎゅうぎゅうに締まっている上に、失敗を許容できない社会だから安全なところへと優秀な人材が流れてしまう。 先日、中学生と話していて悲しくなりました。「僕の人生なんてつまらない」っていうのですよ。「これからいい高校にいって、いい大学にいっていい企業に入るだけなんだから」ってね。こんな小さな頃から、自分の可能性に枠をはめてしまっている。自分の可能性を信じられる社会にすること、それが一番大切なこと。それ以外は瑣末なことですよ。 僕の授業では何をやってもいいプログラムを学生たちに課しています。人間には無限の可能性があるんだということを信じられれば、学生たちは変わります。 問題は大人社会です。先日も企業の人事担当者と話したら、「最近の学生はつまらない。皆紺のスーツを着てマニュアル通りの答えしかしないのだから」という。「では、真っ赤なブレザーで面接に行かせますよ」と笑ったのですが、絶対とらないでしょうね(笑)。紺のリクルートスーツは人事担当者の考え方を映したものなのです。いわば子供は大人の鏡。まず、大人や企業が変わることです。ソニーは採用の際、学歴を一切見ない。こうした企業が増えれば受験戦争は自然消滅します。 ---- 少なくとも、父親世代は大企業だって危ないことを痛感しているはずですが。 米倉---- でも、自分からは辞めない(笑)。僕は「ベンチャーおじさん」なんていわれているけれど(笑)、今、秩序破壊しないと日本は大変なことになると感じているからです。ベンチャー企業も輩出する社会をつくらないと本当に雇用が危ない。既存の大企業はもう雇用を増やせないですから。 一方で、ソフト産業では米国のサンマイクロシステムズのように、たった4人で創立したベンチャー企業がわずか15年近くで何万人もの雇用を創出している。こうした企業 が誕生する社会になれば、皆、元気が出ます。 米倉---- 頂が高ければ高いほどすそ野も広がります。ひとつの変化が変化の連鎖を呼んで社会は変わり、さまざまな分野に新しい雇用が生まれます。 たとえば、SOHOが増えれば、インターネットを使って事務用品を共同購入するベンチャー企業が生まれる。また、インターネットの登場で、世界中の小さな店舗や企業 が世界の市場にチャレンジするようになって、ビジネスも個人の購買行動も変わってきた。米国ではクリスマスプレゼントの2〜3割がインターネット上で取引されています。それにつれ新たな需要と雇用が創出される。たとえば宅配便などもそのひとつでしょう。 ---- 変化の連鎖をつくり出す政策が不可欠ですね。 米倉---- ええ。それなのに日本では「商品券」を配っている。愚の骨頂ですよ、21世紀に繋がらないこんな政策に税金を使うなんて。 その金で情報インフラを整備して通信費を下げるほうがよほど波及効果は大きい。どうせ配るなら小学生全員にパソコンを配ったほうがずっといい。皆、絶対使いますよ、自分用のパソコンを持てば。そうすればプリンターも欲しくなるし、デジタルカメラも新しいソフトも売れて内需拡大になります。 それ以上に大きな効果は、子供たちがインターネットを通じて違う世界と出会ったり、違う価値観をもった人と話し合うことで、精神世界が変わることです。これが社会のタガを緩め、新しいシステムをつくるパワーに繋がるでしょう。 ---- 変化の連鎖はどこから起こると考えますか。 米倉---- ビジネスからです。市場競争によってよりよいものを選択していくという資本主義は、問題解決システムとして共産主義より優れています。問題が起こるのはそのやり方が悪いからです。 先進国は発展途上国に製品ではなく、ソリューション(問題解決方法)を売りに行くべきなのです。道路標識も信号もない国にバイクや車を輸出するから問題が起こるのです。交通システムを売ればいい。公害問題も同じです。口で言うより、廃液浄化システムや低公害エンジンを開発して輸出することです。NGOや国際協力基金の援助では、無駄と偏在が起こりやすいし、コスト無視の契約になりやすい。これらはビジネスでやるほうがいいのです。 日本の割高な航空料金も、スカイマーク一社が参入しただけで航空料金が下がったではありませんか。 ---- 最後に、先生自身のイノベーションについてうかがいたいのですが。 米倉---- 一番難しい質問ですね(笑)。僕にとってのイノベーションは人を育て、人を生かすこと。「無限の可能性」を信じられる学生や社会人を育てたい。それと、アジアのイノベーション研究の拠点をつくること。 21世紀の日本は、知識やソリューションを売って生きるしかありません。それにはイノベーション以外にない。アジアの知恵や価値観も再発掘したいと夢を膨らませています。 自分自身の人生のイノベーションは、あと本を3冊書いたら、ロック・ミュージシャンとしてCDデビューすることです(笑)。 ある米国人が、「日本人は間違っている。日本人は働くために飯を食っているだろう。俺たちはうまいものを食うために働いているんだ」と胸をはっていましたが、僕もそう思う。働くために人生があるのではなく、人生をどう生きるか、どう楽しむかというデザインがあって、そのために働きたいですね。 ---- 同感です。先生がCDデビューされたら一枚買わせていただきます(笑)。 |
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