■住民が見つけ、育てる街の魅力
〜函館、熊野宿をモデルに

西村 幸夫(東京大学大学院工学系研究科都市工学教授)


西村 幸夫
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98年の通常国会で11省庁相乗りの中心市街地活性化法案が通った。しかし、西村教授はその実効性に疑問を投げかける。「街の魅力はそこに暮らす人々がつくり出すもの。公的資金を入れれば活性化するというものではない」。そして、「住民が自らその街の魅力を見つけ出し、楽しく暮らせる街をつくろうとする意欲や実行のプロセス、そしてそれをベースにした街としてのビジョンなくして本当の再生はない」と語る。


●市民がつくった函館の景観
市民が街の魅力を発見し、楽しみながら街を育ててきたモデルケースとして函館を紹介したい。年間約600万人の観光客を集める函館の景観は、ある主婦の新聞投稿がきっかけとなって市民自らが長い時間をかけてつくり出したものだ。緩やかに結びついた市民グループのアイディアと実行力によって街が再生したといっても過言ではない。
きっかけとなった新聞投稿は北海道庁函館庁舎の移築に反対するものだったが、これをきっかけに、函館の知られざる歴史や文化を自分たちの手で発掘し、再活用しようという市民活動に発展していった。古い郵便局を改築して開店したカリフォルニアベイという店に、そうした意欲と鋭い感性を持った人々が集まり、その中から函館クラフトマンユニオンという組織が誕生した。また、彼らを中心に古い建物の改築や函館冬フェスティバルなどのイベントも始まった。現在も元町倶楽部という形で市民活動が続いており、ユニークな街再生プログラムやイベントを実施している。
彼らの企画した出色なイベントのひとつに、祭りの日に市内に残る古い木造建築の商店などをボランティアで塗り替えるという試みがある。家の持ち主にも喜ばれ、ペンキ塗りをする人々もパフォーマンスとして楽しみ、祭りに訪れた人々も建物が生まれ変わる様子をライブで楽しんでいる。
元町倶楽部のユニークな活動は全国的にも注目され、財団や市民、企業などからも助成金や寄付が集まったが、それをベースに公益信託をつくり、今度は自分たちが民間の街づくりの活動に助成金を出すなどして、街づくりの輪を広げている。
こうした市民活動こそ、函館の底力である。



●小学生による街の再発見学習
昔、小浜から京都に物資を運んだ鯖街道の途中に、熊野宿と呼ばれる宿場町がある。街道沿いに昔ながらの街並みが残る鄙びた街だが、過疎化が進んでいた。私たちは10年ほど前からこの宿場町の調査活動を続けていたが、町の小学校の協力を得て、小学生を対象にした「街を再発見する学習プログラム」を試みた。
スタッフが宿場に泊り込み、子供たちと共に街に残る古い民家を訪ね、昔ながらの家具や蔵の中に残る道具を調べた。また、特産の葛を製造している家を訪ねたり、郷土史家に取材したり、街を流れる水路の水流や水温を調べたりするグループもあった。小学生たちは、グループ毎にフィールドワークの成果を手づくりの冊子やパネルにまとめ、父兄にも発表した。子供たちの街を見る生き生きとした視点が、今、大人たちを動かし始めている。こうして一歩踏み出すことによって熊野宿は注目されるようになり、「歴史国道」や「水の里」などに選定されたのである。
私はこのプログラムを通じて、街自体に人を教育する力があることを実感した。函館も熊野宿も「街」に敏感に感応した人々がまず動き出し、彼らを中心に街づくりの輪が広がっている。都市計画や街の再生に携わる専門家は、その街自体が何を望んでいるか、そこに暮らす人々にとって本当に楽しい街とはどんなものなのか、誰がリーダーなのかといったことをフィールドワークを通して見極め、街としてのビジョンづくりを手伝わなくてはいけない。公的資金を入れるだけでは街の活性化はできないのである。




第20期 環境デザインスクール

テーマ/街並み再生プログラム
講師/西村 幸夫(東京大学大学院工学系研究科都市工学教授)
日時/1998年7月29日
会場/アカデミーヒルズ(アーク森ビル36階)


西村 幸夫 講義目録
■第20期 '98.7.29
 住民が見つけ、育てる街の魅力
■第19期 '98.1.18
 丸の内のデザインコントロール

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