■メディア社会における「知」
〜スキルが変わる、価値が変わる

高橋潤二郎(慶応義塾大学常任理事)


高橋 潤二郎
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慶應義塾大学湘南藤沢キャンパスを立ち上げた中心人物のひとり、高橋潤二郎氏「メディア社会は「知」の取り扱い方に対する能力が大きく変化するだけではなく、あゆるものに波及するだろう」と語る。講義は、メディア社会の知の技術を起点に、ディア環境と世代論にまで発展した。そして「戦後50年間我々が信じてきた中産階級核家族、高学歴という価値が崩壊した今、メディア社会の新しい価値感を創造するの諸君らの役目だ」と高橋氏は締めくくった。


●メディア社会の「知」のスキル
マルチメディア社会は、多元的なメディア環境の中であらゆる情報がデジタル化し、交換可能になる。そうした中で「知」を取り扱うには次の4つの能力が求められる。
1.「Literacy(識字) & Operationarity(操作)」
2.「Compilation (編纂) & Retrieval(検索)」
3.「Composition(構成) & Presentation(提示)」
4.「Communication(対話) & Collaboration(協調)」
これらの能力は活字だけでなく、音や映像を含めた中で発揮されなければならない。ワークステーションの中にある情報を検索する能力、その情報を解釈して自分なりのデータベースに編纂する能力、自らの考えを活字、音、映像で表現・提示し、世界中の人々と「知」の協力ができる能力が必要になる。
マルチメディア社会では説得の方法も変わる。論理的説得に代わる新しい方法が生まれる。たとえば、文字、映像、音楽を交えながら次々に事実を提示して相手のイメージを膨らませ、相手に回答を連想させる説得方法である。また、Eメールコミュニケーションの中で「新口語体」が考案されていく可能性もある。
このように、マルチメディア社会では、すべての分野において従来とは違う「知」や、それを取り扱う「能力」、「方法論」が求められる。



●メディア環境の変化
情報化は次の3つのキーワードをベースに進んでいる。
・interactive(双方向)
・multimedia(多元的・統合的メディア)
・ondemand(即時的)
しかし、これだけでは足りない。情報伝播速度が高速化し、情報の分散化、グローバ ル化が進む中で、さまざまな社会・経済問題を解決し、的確な意思決定をするためには 、世界中に分散する情報をリアルタイムに集め、編纂し、即座にフィードバックするシ ステムが構築されなくてはならない。
その点で、情報伝播速度の遅い孤立分散型社会を前提に生まれた従来の社会科学は、 もはや役に立たない。現実社会の問題をリアルタイムに解決できないからだ。
マーケティングも従来のマス・マーケティング戦略が通用しなくなる。メディア社会 では商品、価格、流通、販促の概念が変わり、戦略も変わる。最大の変化は速度感の違 いである。その中で情報速度と物流速度とのギャップを埋めることも大きな課題になろ う。



●メディア環境と世代感の違い
こうした変化は技術の世界に限定したものではない。人間自体の行動や感性、価値観にも多大な影響を与える。どのメディア環境に生まれ落ちたかによって、ものの見方や能力が違うからだ。
たとえば、1955年以降に生まれた世代(テレビジェネレーション)と、それ以前の活字世代(プリントジェネレーション)では思考方法も映像や音楽に関する感性も異なる。また、1975年以降はインタラクティブなメディアの中に、1995年以降はネットワーク社会に生まれ落ちた世代であり、それ以前とは異なる思考方法や感性、行動様式を築くだろう。
現代は、ちょうどテレビ世代が中間管理職になり、インタラクティブなゲームで遊んだ世代が社会人となった時代である。彼らポスト55世代を中心としたメディアファミリーが情報社会の中核になるだろう。メディアファミリーのニーズを捉え、受け入れていくことが必要である。



●メディア社会の課題
社会とメディアの関わりを考えるとき、非常に大きな問題がある。メディア社会は、我々が戦後50年間信じてきた価値、つまり、「中産階級」、「核家族」、「高学歴社会に支えられたホワイトカラー」を崩壊させる。我々が従来の価値観が崩壊したことを自覚していないことが、現代社会の最大の問題であり、子供たちを抑圧し、さまざまな少年事件を引き起こしている。これに代わる価値観を見いだすことがなんとしても必要である。
情報に開かれた所得分配や、個々の能力を開花させ認める多様な教育や社会、そして核家族に代わる多様な家族の形があってもいいのではないか。
マルチメディア社会に対応する新しい価値観を生み出すことは、まさに1955年以降に生まれた世代の重要な課題である。




第20期 経済デザインスクール・マネジメント科

テーマ/メディア社会における「知」
講師/高橋潤二郎氏(慶応義塾大学常任理事)
日時/1998年5月22日
会場/アカデミーヒルズ(アーク森ビル36階)


高橋 潤二郎 講義目録
■第22期 アカデミーヒルズインタビュー
■第20期 '98.5.22
 メディア社会における「知」
 〜スキルが変わる、価値が変わる〜
■第19期 '97.11.7
 メディア時代における「知」
 〜求められるスキルが変わる〜
■第18期 '97.7.11
 メディア社会における「知」
 〜時代の求める4つの能力〜
■第17期 '97.1.24
 メディア社会に生きる

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