「ナンバーワン」から
   「オンリーワン」へ価値転換

都市のパワーは「魅力」で決まる

月尾嘉男 東京大学工学部教授・東京魅力向上委員会委員長


月尾 嘉男
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今、アカデミーヒルズを舞台にユニークな委員会が開かれている。 この「東京魅力向上委員会」では、国力や都市のパワーを「魅力(アトラクティブネス)」という概念で捉え直し、東京復権の世界戦略を探っている。主催者である月尾嘉男教授に、なぜ、魅力なのか、魅力とは何かを聞いた。


---- 月尾先生が進めていらっしゃる東京魅力向上委員会について、お話をうかがいます。「魅力」という切り口を使われた理由は?

月尾 ---- 「魅力」という概念は、高度情報通信社会が進展していくときに、もっとも強力なパワーになると考えられるものです。アルビン・トフラーは著書『パワーシフト』で、武力、財力、知力という順番に権力の移行が起こってきたことを指摘しています。この知力の「知」は「情報」です。つまり、高度情報通信社会において、国家や地域のパワーは、人、物、金、そして知をひきつける力、いいかえれば魅力(アトラクティブネス)で決まってくるのです。

--- -魅力(アトラクティブネス)こそ、パワーになるのですね。

月尾 ---- 具体例を挙げて説明しましょう。日本への留学生は中曽根総理の10万人構想で増大してきましたが、3年前から5万人程度で頭打ちです。しかし、米国へ海外から勉強にくる留学生は10倍以上の50万人です。日本は勉強や研究をする場所としての魅力を失っているのです。これが何を意味するか?ブレジンスキーは著書『世界はこう動く』で、「我々が国際交渉の場に出席すると、相手国のメンバーの何割かは米国で勉強したことがあり、交渉が容易である」といっています。国は違っても、米国式の思考方法、風習、知識などを勉強した人たちと交渉できることが米国のパワーにもつながっているのです。

---- 留学生と同様、日本に来る外国人も増えていないようですね。

月尾 ---- 1965〜1970年頃までは、海外に出かける日本人より日本に来る外国人のほうが多かったのですが、70年以降、逆転して急速に差が広がっています。現在では、年間1700万人前後の日本人が海外に出かけていますが、海外から日本を訪れる人は470万人弱で、3.5倍の差がついています。観光収入が増大しないという問題もありますが、もっと根本的な問題は、海外の人に日本を知ってもらう機会が少ないことです。世界中に、日本の自然や都市や人間などに魅力を感じる人が増えることが安全保障ともなるのです。
第2次世界大戦で、米国が日本に原爆を投下する候補地は京都、広島、横浜、小倉の順番でした。しかし、米国の陸軍長官が京都を訪れたことがあって、その魅力のために京都への原爆投下に反対しました。京都を救ったのは、まさに都市に魅力があったからなのです。
現在、日本も世界遺産に援助しているように、世界の人々がその存在を貴重だ、魅力的だと認める場所には、人、物、金、情報が集まってくるのです。

---- 日本はGNPでは世界第2位ですが、魅力という点では順位を下げているそうですね。 月尾 ---- 1998年の『世界競争力年鑑』では46ヵ国中28位ですし、『フォーチュン』誌の働きやすい都市のランキングでは10位です。国際会議開催数や国際観光客数の国際比較でも低迷しています。ほとんどのデータが、日本の魅力が急速に薄れている現実を示しています。我々が「東京魅力向上委員会」を立ち上げたのも、こうした危機感と問題意識が背景にあります。

---- 魅力という捉え方は主観が入ってきます。誰に対しての魅力なのでしょう。海外の人たちですか、東京に住む人にとっての魅力なのでしょうか。また、ビジネスマンか、観光客かでも違ってくるのではないでしょうか。

月尾 ----ひとりの人間の魅力として考えてみてください。日本人にとって魅力的な日本人は、外国人から見ても魅力がある。言葉ができなくても、態度が公平だとか、決断力があるといった資質は必ず通じるものです。文化も都市も同様で、本質的に良質なものを内包していれば海外に媚びなくとも認められると思います。

---- 鹿鳴館の二の舞はしなくてもよい?

月尾 ---- そうです。日本は明治以降、海外に迎合しすぎて独自の魅力を失っていった。海外の人間が日本や日本人に対して違和感や不信感を持つのは、マスコミも政治家も、官庁も、実業家も同じような意見しかいわない点です。一般の意見と違っていても、個人の独自の意思をはっきりと表明すべきなのです。国も都市も個人も同様です。

---- 魅力とは何か、を考えるとき、国や都市も人間として考えるとたいへんわかりやすいですね。

月尾 ---- 本質的なところは同じです。

---- ところで、月尾先生は地方都市についても次世代のあり方を提案され、ご自身も関わっていらっしゃる。しかし、東京の魅力を向上させると、地方はますます沈んでしまうのではないかと考える人もいます。東京と地方を対立的に捉える考えも残っています。先生は、東京と地方をどう位置づけ、どうあるべきと考えますか。

月尾 ---- 地方と東京の従来の関係の象徴が「銀座」です。どこへ行っても「○○銀座」がある。世界に対する日本の構図と同様、国内では、東京に対する地方の構図があったわけです。東京を真似しろ、そして追いつけ、という構図です。地方都市は東京を目指して近代化を進めてきた。
地方都市であれば、ゆったりした和風住宅が建てられるのにマンションを建ててみたり、川に沿った緑の中を縫うような美しい道を捨てて、自然を破壊して広い道路をまっすぐ通す。ミニ東京を目指すのはナンセンスです。それぞれの地域の、風土、伝統、文化を活かした独自の街づくりや環境整備を行ってこそ、東京にはない独自の魅力を手に入れることが可能なのです。
最近、日本最後の清流といわれる四万十川が多くの人の心を引きつけています。ある調査では、日本人の多くが毎年6000億円の対価を支払っても四万十川の自然を守る価値があると考えているそうです。
なぜ、四万十川がそれほどに魅力を持つのか。四万十川はいわば日本の東京を目指す流れから取り残された地域だったからです。全国の川の護岸がコンクリートで固められ、川に沿って立派な道路がつくられ、ダムが建設されて農業用地や工業用地を生み出してきた歴史の中で、四万十川にはダムひとつ建設されず、自然堤防のまま現在に至ったのです。それが逆に大変な価値を持ったのです。そこにしかない清流だから人をひきつけた。
つまり、競争社会における「ナンバーワン」ではなく、「オンリーワン」が魅力の原点です。

---- しかし、近代化を否定しては住民は大変不便ではないですか。

月尾 ---- その問題を解決してくれるのがインターネットに代表される情報通信技術です。地方都市の背負っていた格差の多くが情報通信技術の進展によって解決されると思います。
たとえば、地方都市では洋書を扱っている本屋さんはほとんど存在しないわけですが、インターネットを使えば東京と同じ条件で手に入る。洋服もワインも、世界中から取り寄せることができる。生活格差もビジネス格差も縮めることができます。それどころか、東京より地方のほうが土地代や人件費など有利な面もあるほどです。

---- 高度情報通信社会においては、地方の幸せと東京の幸せは並び立つものなのですね。

月尾 ---- 地方戦略が東京にない独自の魅力を持つこととすれば、東京戦略は、地方にない魅力、世界にない魅力をつくり出すことです。東京と地方が奪い合うのではなく、並び立つ概念です。情報通信社会によって情報が均質化する中で、それぞれが独自のものを持つことこそ、人、物、金、情報をそこへひきつける原動力となります。NYやパリの真似ではない、東京らしさをつくり出すことこそ、東京の魅力を増す方法であり、東京、ひいては日本がとるべき最大の世界戦略です。

---- 日本人はかつて創造性があった民族でした。しかし、明治以降、独自性や創造性を捨ててきた歴史がある。先進諸国に学び、真似をする能力を育ててきたように思います。今の我々に独自のものを創造する能力があるのでしょうか。

月尾 ---- 日本人には基本的な能力はある。価値観さえ転換できれば日本も日本人も変わります。
確かにこれまで、独自の経済理論を考えるより、留学して最先端の経済学を学び、翻訳して導入した人のほうが偉いと思われてきた。海外では当たり前になっていて日本にはまだなかった思想やビジネスを持ってくれば、尊敬され、商売にもなった。しかし、これからはそうではない。情報はリアルタイムで世界中を駆けめぐっています。米国の国会で何が議論されたかは、インターネットを通じて数時間後には誰もが入手できる時代です。
どこにいても同じ情報が得られるならば、オリジナルなものをつくりあげなければ魅力は生まれない。個人も都市も国家も同じです。

---- 日本人の価値観の転換を喚起することこそ、先生が東京魅力向上委員会を通じて訴えていきたい本質なのですね。

月尾 ---- そうです。高度情報通信時代に、個人も東京も日本も「何によって生きていくか」を真剣に考えなければなりません。そのキーワードは魅力であり、その魅力とは「多様、独自、唯一」といった言葉で表現されるものです。

---- 委員会のメンバーも「多様、独自、唯一」という資質を持った方々ですね。これほど多種多様な問題を含み、意見も異なるメンバーの意見をどうまとめられるのかと疑問でしたが、お話をうかがってよくわかりました。

月尾 ---- 従来の日本の委員会は、無理にでもひとつの方向にまとめてしまったのですが、この委員会はそうはしたくない。英国の報告書では公的なものであっても、少数派や反対派の意見を掲載しています。これからは多様な意見を発表することが大切なのです。
委員会でも、情報基盤の問題や都市基盤の問題など、さまざまな視点から東京の魅力を向上する策が出ています。これらは具体的提案として発表しますが、これは手段であって、その目的は本質的な価値観の転換を提起することです。

---- 今年中に、東京魅力向上委員会の提言がまとまるとうかがいました。楽しみにしております。



●東京魅力向上委員会
都市には、多様な人々が住み、働き、憩い、いきいきとした文化性あふれる生 活を送ることができる環境が求められます。21世紀には、企業も人も金も、国境 を超えてもっとも魅力的な都市に集まるでしょう。
21世紀を目前にした時代の大転換期にある今こそ、東京再生の絶好のチャンス といえます。国際水準を満たした都市環境を実現しながら、かつ日本の風土や文 化を内包し、世界に情報発信できるインターナショナルな都市を創造することが 今ほど求められている時代はないと考えます。
東京魅力向上委員会では、新しい国際都市東京としての魅力を定義するととも に、21世紀に東京を魅力ある世界のシンボル都市を創造するビジョンとプランの 検討、それを実行するためのプログラムを提案します。この提案は委員会の広報 活動を通して広く世に問うていきたいと思います。

●メンバー
◇委員長
 月尾嘉男 (東京大学工学部教授)

◇委員
 青山やすし (東京都政策報道室理事)
 梅野捷一郎 (住宅・都市整備公団理事)
 大森義夫 (日本電気株式会社常務取締役)
 國信重幸 (東京電力株式会社理事・企画部部長)
 グレゴリー・クラーク (多摩大学学長)
 グレン・S・フクシマ (在日米国商工会議所会頭/
             アーサー・D・リトル・ジャパン社長)
 西村幸夫 (東京大学工学部教授)
 八田達夫 (大阪大学社会経済研究所教授)
 浜野保樹 (メディア教育開発センター助教授)
 樋口美智子 (宮城県環境生活部次長)
 山本容子 (版画家)
 森 稔 (森ビル株式会社代表取締役社長)
  順不同・敬称略

月尾 嘉男 講義目録
■第19期 アカデミーヒルズインタビュー
■第26期 '01.4.26
 21世紀の先端技術
■第23期 '99.10.6
 情報通信産業は経済再生のエンジン
■第19期 '97.12.8
 サイバースペースがもたらす社会革命
■第18期 '97.5.26
 インターネットは地方が元気