■日本型都市環境/
  その多様性に期待する


菊竹清訓(建築家/早稲田大学客員教授)


菊竹 清訓
講義一覧▼


「東京はNYになろうとしているのか、パリか、それともローマを目指すのか?」。 世界の都市を歩いた菊竹清訓氏(建築家・早稲田大学客員教授)は、日本人に抜きがた く残る欧米コンプレックスを指摘しながら、「欧米の模倣から脱却し、日本建築の精神 を現代建築や都市に投影してゆくべきだ」と話す。
 そして、日本やアジアなどが、より自由で選択の余地のある都市と建築を生み出すこ とによって閉塞状態にある世界の都市環境を救う方法が発見できると言い切る。



●閉塞状態の欧米の都市と建築
 欧米の建築は閉塞状態に陥っている。米国の心理学者であるロバート・ソマー氏は、 その著書の中で「このまま進めば建築はプリズン(刑務所)になってしまう」と、現代 建築の非人間的傾向へ警鐘を鳴らしている。

 真に求められているのは、よい建築・都市とはなにかを考える力であり、それを実現 するための方法論であり、世界の建築家はそれを日本に期待している。今まで、日本は 欧米の建築をどこよりも真面目に勉強し模倣してきたが、これからは、日本やアジアな ど非西欧諸国が風土や文化の中で培ってきた都市・建築の多様性や更新性を現代の都市 環境に投影させ、選択の自由性の高い都市・建築を実現することが重要である。


●多様性を認め、更新性を保つ
 しかし、残念ながら日本の都市の多様性や更新性、自由性は失われつつある。 たとえば、木造密集地域をクリアランスして画一的なコンクリートの固まりに変える ことがベストなのだろうか。防災等の問題を別な方法で解決する道があるはずだ。

 一方では超高層建築を毛嫌いし、西欧のように中低層建物で統一すべきという意見も ある。しかし、それが本当によい街づくりなのだろうか。私は、住民にとって西欧の街 のように過去の遺産の中で住むことが必ずしもベストとは思わない。

 むしろ、低層や中層、高層、超高層などが調和しながら混在し、住み手が自由に選択 できる形が望ましい。住み方の変化に合わせて変更がきくよう更新性を高めることも、 よい都市環境の必須要素である。


●ペルーにみる住宅街形成のプロセス
30年ちかく前になるが、ペルーのリマ郊外の不法占拠地区を対象にしたローコス トハウジングのコンペがあり、世界13チームの建築家が集合した。ここで感銘したのは、インカの人々が20年以上もかけて、借り小屋のスラム街を立派な住宅地に造り上げていくプロセスだった。世界各国の建築家の提案した多様な住宅も、今ではすべてペルースタイルに消化されて暮らしに根づいている。所得の低い国でも都市づくりのプロセスがしっかりしていれば、立派な街づくりができる。

 今の日本は逆である。時がたつほどにスラム化するような都市計画は断じてやっては いけない。それには第1に多様性を認めることである。第2には、それを可能にする公 的なインフラストラクチャーが非常に重要である。住宅は建築だけで造られるものでは ない。都市環境づくりのシステムを取り入れなければならない。  住む人の選択の自由度の高い、複数のチャネルをもったネットワーク型の都市計画を 進めるべきである。住宅も交通網も選択のチャネルが多いほど住みやすく、人間の気持 ちを大切にした街になる。

 こうした考え方をベースにすれば、人工地盤やハイパービルなど、世界に発信できる 日本型都市環境づくりの新たな方法論が見いだせるはずだ。


第19期 環境デザインスクール

テーマ/日本型都市環境
講師/菊竹 清訓(建築家/早稲田大学客員教授)
日時/1997年12月3日
会場/アカデミーヒルズ(アーク森ビル36階)

菊竹 清訓 講義目録
■第23期 '99.10.28
 放射から環状へ、東京大改造
■第20期 '98.6.17
 現代建築の課題と更新システム
■第19期 '97.12.3
 日本型都市環境
 〜その多様性に期待する〜

academyhills.com