■メデイア時代における「知」
〜求められるスキルが変わる〜

高橋潤二郎(慶応義塾大学常任理事)


高橋 潤二郎
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 マルチメディア時代においては、我々の「知」は大きく変わる。それにより、マネージメントが変わり、人間関係や組織が変わるという、非常に興味深い時期に直面している。製品開発や流通チャンネル、販促などにおいても、予想もしえないスタイルが生まれてくる可能性があり、そこに新しいビジネスチャンスを見つけることもできるだろう。


●情報化の問題
 現在の「情報化」は、<1>過去の事実としての情報化、<2>未来の構想としての情報化、<3>現在の政策・戦略としての情報化、という3つの意味で使われている。これらの意味が区別されないままに使われる結果として、さまざまな問題を生み出す一方で、情報化の意味を膨らませ、新しい発想を生み出している。

 <1>の「過去の事実としての情報化」は、経済学者の立場から考えた情報化である。全雇用者数に対する情報・知識産業の雇用者数の割合の増加、つまり産業構造・就業構造の変化に注目した見方である。

 <2>の「未来の構想としての情報化」は、未来学者の見た情報化である。農業社会->工業社会->情報社会という発展段階説の中の、工業社会から情報社会への移行を「情報化」ととらえている。
 ただし、発展段階説で考える時、「情報化社会」を未来の予測として受け取るのには注意を要する。「情報化社会」は、現状把握に基づいて生まれた、未来に対する仮説であり、構想ないしビジョンである。人々がこのビジョンを受け入れ、最大限の努力をはらった場合に、情報化社会は実現するのである。

 <3>の「現在の政策・戦略としての情報化」は、エンジニアの見た情報化である。メディア関連事業が最大の先導産業として認識され、かつ、コンピュニケーションネットワークないしメディアネットワークが基本的インフラ基盤として認識される社会のことである。インフラには、「第1次/物資の輸送」「第2次/エネルギーの輸送」「第3次/情報の伝達」と3タイプあるが、第3次インフラの形成が大きな社会的責務となっ ている。
 この段階で重要なことは、新しいメディア関連産業が生まれてきたことだ。メディア・ネットワークの関連企業は、「支持部門(1.部品 2.機器 3.システム)」「維持部門(1.建設 2.維持 3.サービス)」「依存部門(1.データ 2.情報 3.知恵)」に分けられる。
 各企業は、自社がこの部門のどこに位置するかを自己定位しなければならない。それが、情報化を前提として個々の仕事のあり方を変え、個々の仕事が集まった総体の企業のあり方を変えていくという「リエンジニアリング」の本当の意味なのである。


●新しいマルチメディア環境でスキルはどう変わるか
 新しいマルチメディア環境(社会)の基本は、<1> interactive(双方向)、<2>multi-media(多元的・統合的メディア)、<3>on demand(即時的)、の3つである。
 また、スキルとしては、「Literacy(識字) & Operationarity(操作能力)」「Compilation (編纂) & Retrieval(検索)」「Composition(作文・作画・作曲) & Presentation(提示)」「Communication(意思・情報伝達) & Collaboration(協調)」があるが、いずれもその内容は従来と大きく異なる。
 Literacy(識字) にしても、従来は「読む」「解釈する」「書く」「表現する」ですんだが、マルチメディア環境では、さらに「見る」「聞く」という能力も求められる。だが、そうした能力をすべて備えた人はごく少なく、教育も行われていないのが現状だ。「ハードウェアのグレードアップ」と「ソフトウェアのクオリティアップ」、そして「ヒューマンウェアのスキルアップ」の3つをうまく連動させることで、マルチメディア環 境に即して、スキルの内容を変えていくことができるだろう。


●スキルの変化とともにマーケティングの概念も変化
 我々が今、マーケティングと呼んでいるのは、工業化社会におけるマスプロダクションとマスコンサンプションを前提としたスキルである。マスマーケティングは、Product(製品開発)、Price(価格決定)、Place(流通チャネルの設定)、Promotion(販促)の順で行われるが、マルチメディア環境では、4つの「P」の意味が大きく変わると同時に、マーケティング戦略決定の手順も大きく変わる可能性がある。
 販促についていえば、ネットワークを通してメーカーは消費者のニーズをダイレクトにつかみ、消費者はメーカーの製品情報を直接知ることができる。そこでは、従来のようにマスメディアを通じて説得し、訴求する必要がなく、現在の広告代理店の必要性は薄くなってしまう。また、製品→価格決定→流通チャネルの設定→販促という順序も変わり、まず販促からスタートする時代になるかも知れない。
 いずれにしろ、もっとも重要となるのは「速度感覚」だろう。物の売買が光の速度で行われているのに対して、物流は従来通りの速度で行われているといったギャップを埋めて行かなければならない。




第19期 経営デザインスクール・マネジメント科 第1回講義

テーマ/メディア社会における「知」
講師/高橋潤二郎氏(慶応義塾大学常任理事)
日時/1997年11月7日
会場/アカデミーヒルズ(アーク森ビル36階)


高橋 潤二郎 講義目録
■第22期 アカデミーヒルズインタビュー
■第20期 '98.5.22
 メディア社会における「知」
 〜スキルが変わる、価値が変わる〜
■第19期 '97.11.7
 メディア時代における「知」
 〜求められるスキルが変わる〜
■第18期 '97.7.11
 メディア社会における「知」
 〜時代の求める4つの能力〜
■第17期 '97.1.24
 メディア社会に生きる

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