■感性科学の新しいアプローチ

大橋力(千葉工業大学情報ネットワーク学科教授)


千葉工業大学の大橋教授は、脳と感性のフィールドをアカデミックに解明する研究 者であるとともに音楽家・山城祥二として映画「AKIRA」の音楽を手がけるなど、マ ルチ分野で活躍する異色の学者だ。今回は氏の感性科学への取り組みを通して、活発 な議論が繰り広げられた。


●感性科学とは
 うつくしさ、こころよさ、おもしろさ、たのしさなどのポジティブな情動を必須の 属性とする心のはたらき(=感性)、感性反応を生み出す刺激となる情報(=感性情報)、感性 情報を集め、作り、作りかえ、蓄え、伝える手続き(=感性情報処理)を研究領域と するのが感性科学だ。近代科学のひとつの基礎とされるデカルト的二元論では、モノとココロを別の ものと整理して、自覚できるこころの働き(=意識)と知覚、計測できる空間的な広 がり(=延長/数値やCGS単位で表現されるもの)を実体と考えてきたが、感性科学 では、脳を拠点と定めて、心と物質世界を統一することが構想されている。また感性 の本拠(=感性脳)とは脳幹及びそこから広がる神経ネットワークが一体になったものと考えられる。


●感性科学の基本的アプローチ
〜聞こえない高周波音の感性効果は?

 現代社会において、私たちの心を動かし、信頼させるのは科学的な手順=デカルト的手順である。デカル ト的なアプローチが届きにくいと思われる感性科学の場合も、論理的矛盾がないこと 、再現性があること、実証的でだれがやっても同じ結果が出るというような手順を踏 むデカルト的処理は重要である。
 音には人の耳に聞こえる可聴域(20Hzから20kHzまで)と音としては聞こえない高周波があり、聞こえ ない高周波も感性に大きな影響を与えている。私たちの研究によれば、高周波を豊富に含む音には、脳幹や視 床など生命維持や感性情報処理に関連のある脳内臓器を活性化する効果があることが 脳血流計測によって発見された。また、高周波は脳波α波を増大させる効果もあり、 高周波を含む自然環境音を聞かせた時、最もα波ポテンシャルが高く、続いて無音状態ま たは高周波のみの環境においた時、無音状況の上に人工的に作り出した高周波音を付加した時 、高周波をまったく排除した環境時の順でポテンシャルが低くなっていくという結果 が実験から導きだされている。また、それ単独では聞こえない高周波でも、それが可聴音と共存するかどうかによって音が違って 聞こえるという実験結果も出ている。このように、デカルト的には知覚できないもの でもデカルト的手法で解明することができるのである。  


●感性科学の新しいアプローチ
 デカルト的なモノとココロの分離を絶対視に実行したがために、相互作用や複合、融合系 事象での不適合がおき、意識や知覚、計測できるものだけを対象にした結果、記号 化、分節化できないものへのアプローチが欠落しているのが現代知識構造の限界だ 。これを克服していくためには、成熟洗練レベルに達した文化社会環境が必要である。 しかし、西欧・米の文化はまだこのモードに達していないという視点を持つことが重要だ。 また、従来の近代科学では対象を取り出して、ピュアな環境で実験することが良しと されてきたが、本来の実験ベースラインとは人類学的な背景なども考慮した適合環境 であることが重要で、これが感性科学へのアプローチの最大の勝負どころでもある。




第19期 

テーマ/「感性と脳」
講師/大橋力(千葉工業大学情報ネットワーク学科教授)
   広瀬通孝(東京大学工学部総合試験所助教授)
   石井威望(慶應義塾大学政策メディア研究科教授)
日時/1998年3月2日
会場/アカデミーヒルズ(アーク森ビル36階)


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