■感性メディア工学へ向けて

原島 博(東京大学 工学部電子情報工学科教授)


 東大教授の原島博氏は顔の感性学というユニークなテーマで、工学最先端分野の感性 メディア工学に取り組む。  「顔は工学の本流に近いところにある」と説く氏は、知性から感性へとその研究分野 を広げる新しい工学の世界を紹介した。


体感メディアから心感メディアへ
心理学において感性は感受性と同じ意味で捉えられているが、私達の捉える感性とは 、時代の美、自然の美、人間の美を感じ、膨らませ、表現する能力であると定義できる 。
リアリティとは単に五感を駆使してすべてを感じさせることではなく、心の中の想像 力を刺激し、膨らませることによってできるもの、すなわち、心に訴えるものがなくて はリアリティは実現できない。
バーチャルリアリティのように五感を駆使してリアリティを感じさせようとするもの は体感メディアである。体感メディアは教育や訓練なしで、誰にでも解るメディアであ ることが特徴。
一方、心感メディアは、自己の内部に形成され何かを膨らませるメディアである。こ れは文化の共有という下地があって、はじめて成立するメディアと言える。  マルチメディア技術の発達により、人間は新たな表現能力と相手に伝える能力を手に いれた。だが一方で、感じる能力、膨らます能力は退化させられている。すなわち、体 感メディアは究極のメディアではなく、感性の面では、心感メディアの重要性を考えて いくことが必要である。


感性メディア工学の現状
これまでは知性に関する技術一辺倒だった工学の世界でも感性への関心が高まってき た。昔から言われる人間の知・情・意の働きの中で、知だけではなく、情の技術開発の 重要性が認識されてきている。
人間は、感性に訴える刺激(=感性情報)に対して処理(=感性情報処理)を行い、 感性的な振る舞いをおこす。感性メディア工学の研究テーマは、人間がどのような感性 情報処理を行っているかを調べ、コンピューターが人間に置き換わり感性を実現するこ と(=人工感性、Artificial Kansei)やコンピューターが人間の感性をサポートするこ と(=感性増幅、Kansei Amplification)である。そのための具体的研究として、音楽、絵画、顔、音声、身振り、自然など、感性情報 を担う感性メディアの研究が行われている。


工学はヒューマン技術へ
工学は人間のための、人間の生活を向上させるための科学である。これまでの工学は 理学を応用して物を作る応用理学の場であったが、これからは人間学という位置付けで の再構築=ヒューマン技術が必要である。
ヒューマン技術の実現のために求められるのは、感性の技術とダビンチ的技術である 。科学だけでなく芸術的素養も併せ持つダビンチ的技術の実現には、これまでの専門分 化されていた科学技術から、異分野協調による学際技術への転換が必要だ。それぞれが深い専門世界を形成する現代にあって、ダビンチはひとりの個人によって 実現されるものではなく、集団のコラボレーションによって実現可能となる。インター ネットなどのマルチメディアは集団のダビンチを形成するための有力な武器になるであ ろう。



第18期 情報デザインスクール 第8回講義

テーマ/マルチメディア技術と感性のかかわり
講師/原島 博(東京大学 工学部電子情報工学科教授)
   石井威望(慶應義塾大学 政策メディア研究科教授)
参考ホームページ/
「日本顔学会ホームページ」 http://www.hc.t.u-tokyo.ac.jp/jface/
「原島・金子研究室ホームページ」 http://www.hc.t.u-tokyo.ac.jp/


日時/1997年9月1日
会場/アカデミーヒルズ(アーク森ビル36階)

academyhills.com