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人間の世界観を変えるカオス 〜その研究と応用の現在〜 合原一幸(東京大学工学部教授) 最近のアカデミックな分野で、トピックスとして取り上げられるカオス理論。一般にも「複雑系」という言葉を目に留めることは少なくない。複雑系という概念の中で理論的に説明できるのがカオスという現象なのである。世界観さえ変換させるといわれるカオス理論を、カオス工学の若手ホープと言われる東京大学工学部教授合原一幸氏にご講義いただいた。 「カオス理論とは?」 もともとギリシャ語であるカオスは、英語でchaos(ケイオスと発音)といい、英和辞典には「混沌」と訳されているが、科学技術の分野ではDeterministic Chaos、つまり「無秩序に見えるが無限の秩序構造を持つもの」ということをあらわす。例えば、仏教の曼陀羅に見られる自己相似(フラクタル)図形や、パワースペクトラムという解析手法で表される時間波形である。これらは、非常に複雑に見えて背後に法則的な構造を持つことがわかってきた。従来の物の考え方というのは、制御可能なもの、統計的予測の立つもの以外は、混沌や無秩序の中にあるという線形な見方であった。しかし、理想化できる直線的なシステムだけが存在するのではなく、現実は非線形であり、しかしこれも方程式で表すことが出来るというのがカオス理論である。 つまりその法則的な構造を理解することによって、予測不可能と思われていた事象についても我々人間が予測・制御できるのではないかということが、人間の世界観を大きく変える現象としてカオスが注目されている所以なのである。 「実社会への応用」 さて、このカオス理論が実社会においてもたらしている影響とは何だろう? まずは、エアコンの電子制御。「f分の1ゆらぎ」に基づいたルーバーの動きを生み出したのは、ロレンツの方程式を使ったもの。このように電子回路でカオスは作り出せる。また、運輸省が1994年9月にバルト海で沈没したエストニア号について原因や経過のシミュレーション実験を行う中で、カオスとの関連について注目している。 カオス理論の「初期値がずれるとグローバルサイドではどんどんずれていくが、ある領域の範囲では値の予測は可能である」という考え方を応用して、太陽の黒点の移動、ニューヨーク市のはしかの患者数の増減、天気予報の精度の予測などにも使われている。経済分野への応用も研究されているが、まだその内容や結果が一切表にでてこない。 脳、ひいては人工脳の研究の分野でもカオス理論は取り入れられている。脳というのは非線形のシステムである。一つの絵を見せても、人によって二通りの解釈ができるという実験(貴婦人と老婆のどちらにも見える絵は有名)からも脳の働きはカオスを研究することで解明できると思われる。 パラダイムの転換は、線形から非線形へ、要素還元論からカオスネットワークを利用した構成論を加えた要素還元論へ、という変化の中で進んでおり、学問の分野を越えた様々な領域で、カオス理論による世界観の転換が起こっている。 ご講義いただいた工学者合原氏は、カオス理論について月刊ASCIで哲学者との対論の連載や、放送大学でも講義(平成9年4月より15回)をなさっているので、興味のある方は参考にされるとよいだろう。 第17期 情報デザインスクール 第5回講義 テーマ/「カオス〜複雑系へ挑む」 講師/合原一幸(東京大学工学部教授) 石井威望(慶應義塾大学環境情報学部教授) 日時/1997年1月13日 会場/アカデミーヒルズ(アーク森ビル36階) |