■「多様性」を認め、活かす、
      東京のグランドデザイン


伊藤滋(アーク都市塾塾長、慶応義塾大学環境情報学部教授 )


伊藤 滋 
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東京のグランドデザインを考えるとき、考慮しなければならない3つの重要な要素 がある。第一は歴史(明治から現代まで)、第二は地方分権(行政システム)、第三は そこに住んでいる人々の生活である。これらの要素を無視して東京のグランドデザイン は描けない」と伊藤滋塾長は語る。以下はその講義要約。


歴史が創った「山の手と下町」、そして「南と北」
歴史の視点から東京を分割すると、侍文化の山の手、町民文化の下町に分けられる。 さらに明治政府の政策によって南北にも分割できる。新橋駅に代表される南側は、占領 軍である明治政府の庇護のもと、官営鉄道として整備された東海道線を使って西欧文化 や西日本の富が流れ込んだ。反面、東北の玄関口、上野駅を核とした北側は町工場がひ しめき、東北から出てきた人々が身を寄せ合うようにして住み着いた。東北の農村は明 治政府によって農村生活の基盤となる循環システムの入合地まで召し挙げられ、人々を 養えなくなってしまったからだ。華やかで豊かな南と、暗く貧しい北、明治政府による 東海道の有利と東北の不利は、東京の街づくりの上にも大きな影響をもたらしている。
そうした都市の形成過程で生まれたハンディキャップを少しでもなくしていくことが 、都市計画に求められるひとつの役割であることを、都市計画を勉強する人は肝に命じ なければいけない。また、都市形成の歴史から見ても、東京のグランドデザインがひと つのパターンではすまないことがわかるはずだ。

地方分権の確立と政令都市化の可能性
地方分権の必要性が指摘されている。住民参加の都市計画を実現するには、都道府県 ではなく市町村に権限を委譲すべきだ。都道府県は市町村に対して後見的役割をしては ならない。ただ、市町村単位では地域住民と渡り合える力のある都市計画の専門家を確 保することが難しいこと、人口が少ないために権力者の横暴を阻止しにくい等の問題も 残る。人材と施策の客観性を確保するためには、人口100万人以上の政令指定都市規 模が望ましい。人口の規模が客観性を担保してくれるからだ。類似の歴史と特徴をもつ 区が合体・連携して政令都市となり、適正かつ独自の都市計画を策定してはどうか。
東京で考えれば、23区を歴史や地域特性から概ね7つに統合できる。中心部の千代 田・中央ゾーンを除けば、それぞれ100万人以上の人口を擁し、政令指令都市として の規模を持つ。将来的にはこうした6つの政令指定都市がそれぞれが競い合い、ネット ワークを組みながら、独自のマスタープランを策定することが望ましい。

東京は個々のグランドデザインの集合体
都市計画を語る識者の多くが、世田谷、渋谷など山の手を念頭に入れ、山の手の街を よしとして語る傾向がある。しかし、都市計画によって救うべき地域は歴史的に虐げら れてきた下町であり、北側の地域である。たとえば、川沿いの海抜0メートル地帯に残 る木造住宅密集地帯をスーパー堤防にして超高層化すれば多くの住民の生活が救われよ う。また、東京23区では4割が独り者世帯であり、離婚した中年シングルも多い。こ うした地域の多様性、生活スタイルの多様性など、東京の最大の特徴である「多様性」 に着目した都市計画が不可欠なのである。
容積率緩和、都心居住問題についても、多様性という点に目を向けない限り空論に終 わる。多様性とは、あるところでは絶対に容認できないものも、別な地域では非常によ い結果を生むことがあるということである。住民が討議をつくし、自己責任で20年後 の都市像を描くならば、極論すればなにを決めてもいいというのが「都市のマスタープ ラン」である。こうして描かれたそれぞれのマスタープランがモザイク模様のように集 まったものが東京のグランドデザインではないか。決して、一つの建築様式やひとりの 学者が描いたグランドデザインが東京全域を席巻することはありえない。3500万人 の人口が東京の「多様性」を保証している。
その中で都市計画に携わる人々は、歴史上、虐げらてきた人々が存在し、今も多くの 現実的な問題を抱えていることを忘れてはならない。現実の生活を救うための都市計画 を考えられる人間であってほしい。



第18期 環境デザインスクール第1回講義

テーマ/「21世紀に向けた東京のグランドデザイン」
講師/伊藤滋(アーク都市塾塾長、慶応義塾大学環境情報学部教授)

日時/1997年4月23日
会場/アカデミーヒルズ(アーク森ビル36階)

伊藤 滋 講義目録
■第25期 2000.4.19
 都市計画がすべきこと
■第24期 '00.4.19
 東京からみた阪神大震災
■第23期 '99.10.13
 都市計画制度が変わる
■第22期 '99.4.21
 21世紀の社会と都市像
■第21期 '98.11.18
 都市計画大革命
■第20期 '98.9.2
 岐路に立つ都市計画
■第20期 '98.4.23
 艶やかな都市計画を目指して
■第19期 '98.2.25
 21世紀に向けた東京のグランドデザイン
■第19期 '97.11.5
 都市計画の本質
 〜誰のための都市計画か〜
■第18期 '97.8.27
 おまわりさんと都市計画
■第18期 '97.4.23
 東京のグランドデザイン
■第17期 アカデミーヒルズインタビュー

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