■ランドスケープデザインの役割
建築、ランドスケープ、土木のコラボレーション

上山 良子(長岡造形大学教授、ランドスケープアーキテクト)

人間が空間を感じる時、「空間の経験」つまり文化背景の違いによって感じ方は異なるという。しかし、ある風景を目の前にした時、それぞれの背景に関係なく圧倒されることがある。これを「トポフィリア(場所への愛)」と呼び、人と風景の関係性を解く地理学者が入る。 日本においては、ようやくその役割が認知されるるあるランドスケープアーキテクト。長岡造形大学教授である上山良子氏は、アメリカで長い期間に渡りランドスケープの研究を重ね、帰国後も様々な国内外のプロジェクトに携わってきた。その上山氏がアメリカでデスバレーの風景に出会ったとき、風景の原点を感じたという。翻って先の地理学者イーフー・トンの言ったトポフィリアを、氏はランドスケープを考えるには不可欠な視点だと考えている。

●ランドスケープとは?
1970年代、ミュージアムでは狭すぎると考えるアーティスト達が、自分と宇宙との関わりを大地そのものに表現する手法として、ランドアートが盛んになった。スミスソンのスパイラルやクリストの大地を布で覆うアートはよく知られている。
これらのアートとランドケプースとは何が違うのか?ランドスケープでは、アートとして表現するだけでなく、その場に立ったときに人々が自ら関わりを感じることのできる「快適性」があるものを造るというのが大きな違いである。ランドスケープとは、日本語で言う狭義の造園とは少し意味を異にする。その土地の資源や記憶と言った最も高次元の情報を評価し、社会のために設計/計画する仕事と定義づけられている。 「場」を読み「時代」を読んだうえで、「人」を読む。つまり、どういう人達がどういうふうに使っていくのかを考えていく。まさにまちづくりには欠かせない領域なのである。欧米では街づくりのプロジェクトに際して、建築、ランドスケ−プ、土木の3つ分野のコラボレーションは当たり前となっている。

●土地への記憶〜時間のレイヤー
フォリー(何か面白いもの)を使って、自然の風景を生けどって物語性を表現していくイギリスの風景式庭園。その時代の権力を美しい形にしたフランス式庭園。各々の時代を表現した様々な様式を見ていくととの土地にあった「場づくり」の重要性がわかってくる。19世紀のイギリス郊外の風土建築に影響を受けたアメリカにおける典型的な郊外住宅やパークシステムの考え方で都市をつくっていったのも、ランドスケープアーキテクトであった。
また、世界各地には様々な遺跡がある。何がそこを名所にしたのか?それには場を読む、つまりその土地にしかないものをコンセプトとし、時間の経過と共に美しさを重ねることが空間クオリティにつながっているのである。大スケールの場づくりもあるし、小さな都市の空隙を扱う場合もある。ある都市でその土地の記憶を「平和のモニュメント」として表わすことの依頼を受けた。「場のモニュメンタリティ」である。最近まであった文化の記憶をエコロジカルミュージアムとして残していこうという試みのヨーロッパで30年程前から各地に広がっている。
一方、インフラスケープ/テクノスケープという考えがある。デザインされたわけでなく、機能、技術そのものの美しさが風景となる例は世界にいくつかある(ロケット発射場、風車群等)。機能と併せてランドスケープデザインを施した20世紀の後半の例としては、海底トンネルの排気塔などがある。

●運営サイドの関わりの重要性
さて、ランドスケープデザインがその役割をまっとうするには、形にしていくプロデューサーの強い意思と具体化した後のメンテナンスの重要性、継続したメンテナンスの為にコスト換算など、つまり時間が経っても変わらずコンセプトを大事にし続けることができるかどうかが、運営サイドの大きな課題となる。 かつて、戦場においてその「場」を読んで見事な陣形を取り、トータルなデザインを施すなど、日本人はもともと場を読みデザインする力を持っていた。もう一度、ひとりひとりが場を読むという行為を意識してみて欲しい。市民一人一人の意識が変わったとき、美しい日本の景観の誕生が約束される。美しい景観は一人一人の自覚から出発する。100年後の日本の景観はその第一歩から始まる。




環境でザインスクール

テーマ/「都市のランドスケープ」
講師/上山 良子(長岡造形大学教授・ランドスケープアーキテクト)
日時/1997年1月29日
会場/アカデミーヒルズ(アーク森ビル36階)


academyhills.com